「大丈夫? 父さん……」


和哉青年は武雄の背に腕を回したまま幼子をあやすように軽く背をたたいた。


「あぁ、すまない……」


一時間ほど泣き続けていた武雄は、いまは鼻をすするのみでありようやく落ち着きをとり戻し、前身頃まえみごろを、つかんでいた手をゆるめて、和哉青年から離れた。


和哉青年は特に武雄の泣いた理由を聞くこともなく、あくまでも和哉として武雄の息子を演じ、話を切り替えた。



「父さん父さん! 俺、父さんと遊ぶために色々持ってきたんだ!」


和哉青年はそう言うと、自前のリュックサックを武雄の前に置いた。そのリュックサックは、登山用のリュックサックくらい大きなサイズであるにもかかわらず、空気が入る余裕もないくらいにぱんぱんになっている。一体、なにが入っているんだ? と武雄は首を傾げた。


和哉青年はチャックを開け、リュックサックを逆さにして上下に振り、雑に中身を出しはじめた。


がしゃがしゃと音を立てながら中身が居間の畳をたたきつけて落ちる。


囲碁、将棋、お手玉、けん玉といった渋い遊び道具からトランプ、オセロ、人生ゲームといった今の子供でも遊ばれているものまである。他にも細々こまごまとしたものなどが沢山たくさんあった。


「これは……」


武雄は目を見開いた。その瞳がとらえたのは、傷だらけの硬式野球ボールで、それを手に取って見る。


『父さん、俺、将来プロの野球選手になるんだ!』


息子がかつて武雄に夢を語ったことが思い出された。


「父さん、野球やろ!」


期待を込めた和哉青年表情かおに「あぁ!」と武雄は顔をほころばせて頷いた。

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