第42話 小休止

 グラディス帝国との戦がようやく落ち着いた。デモン大陸側には一切の損害もなく、まさに完勝。これには迫害されてきた獣人たちも多いに気が晴れたようで、連日街はお祭りムードに突入していた。街には出店が並び、沢山の人々で賑わっていた。


「あ、アースさ~ん!」


 アースは中央公園にある噴水前でフランと待ち合わせをしていた。先ほど白騎士団たちと会ったのはここに向かう途中の事だった。


「お待たせフラ……」


 アースの視線がフランの隣に流れる。


「やぁ、アース! 久しぶりだなっ!」

「……アイラ。何でいるの?」


 フランの隣には満面の笑みを浮かべた姉、アイラが並んでいた。


「何でとは失礼な。今町では祭りが開かれているのだろう? 祭りと言ったら屋台だと母さんが言っていたからな! 慌てて飛んできたのだよ」

「……ルルシュさん……。余計な事を……!」


 アースは久しぶりにフランと一日楽しく過ごそうと朝からこの日を楽しみにしていた。


「ま、まぁまあアースさん。二人より三人の方が楽しいかもしれませんし!」

「……本当にそう思ってる?」

「…………」


 フランは沈黙で答えた。するとアイラがバシバシとアースの背中をたたく。


「はっはっは! なに、二人の邪魔はせんよ。私は屋台の食い物があれば十分だからな。さあ、片っ端から食べ歩いて行こうじゃないか!」

「「……はぁぁぁ……」」


 結局アイラが先導し、二人がその後ろをついていく事で話はまとまった。


「さぁ~て、何から食おうか……。ん? あれは見た事がない料理だ! 二人ともあそこから行くぞ!」


 アイラの目にとまった一台の屋台。店主は獣人でアースも見た事のない初めての料理だった。


「すまない、これはなんて料理?」

「いらっしゃ……あ、アース様!? あぢゃあぁぁぁっ!?」


 驚いた店主は鉄板に手をついていた。


「だ、大丈夫か?」

「い、今治しますね!? 【フェアリーライト】!」


 フランが店主の手を精霊魔法で治療した。


「す、すんません! まさかアース様に来て頂けるとは思わず……」

「驚かせちゃったかな、ごめんな?」

「い、いえいえ! あ、料理でしたね。これは様々なスパイスをまぶして焼いたスパイスロールと言う肉料理でさぁ。香ばしい匂いとピリッとした辛味が肉の旨味を引き立てるんですよ。あと、中にはチーズが入ってます。なんのミルクかは秘密ですぜ」

「へぇ~、美味そうだな。じゃあ三人前もらえ……」

「いや、十人前で頼む!」

「へい毎度ぉぉぉぉぉぉっ!」


 一人一つで良いと言うのにアイラはいきなり十人前頼んでいた。


「私が八人前食べるからな。これは絶対に美味い!」

「相変わらずアイラの腹はどうなっているんだ……」

「なんだ? 私の腹が気になるのか? 昔風呂で見ただろうに」

「中身だよ、中身! 全く……」


 フランもその時の事を思い出していたのか頬を赤く染めていた。


「はい、お待ちどうさん。スパイスロール十人前だよっ!」

「ありがとう、いくらかな?」

「いえいえ! アース様から代金なんていただけませんよ!?」


 そう恐縮する店主にアースはこう言った。


「店主、それはダメだ」

「え?」

「商売している以上、誰が相手でも対価は得なければならない。それが商売であり、労働と言うものだ。相手が王だろうが敵だろうが商売する以上は必ず対価をもらわなきゃダメだ。わかるよね?」

「す、すいませんっした! スパイスロール一人前五百デモンになります!」


 アースはこの大陸の通貨で五千デモンを支払った。


「商売は楽しく、損をしないようにしなきゃね。あむ……うん、美味しい。美味しい料理をありがとう、店主」

「あ、アース様っ! ありがとうございましたぁぁぁぁぁっ!」


 店主はアースに料理を認められる大号泣していた。それからこの屋台はアースが気に入った店だとたちまち話題にのぼり、あっと言う間に品切れとなってしまった。


「んくんく……ごくん。よし、次に行こう!」

「食うのはえぇよっ!?」


 アースたち二人が一人前を食べ終わった頃、アイラは八人前をペロリと平らげてしまっていた。


「アース、次は飲み物が良いぞっ!」

「もうアイラ一人で行ってくんないかなぁぁぁ……」

「はっはっは! 私は金を持ってないからな!」

「おまっ……!? 金くらい持ってこいよな!?」

「私だってそうしたかったさ! だがな、母さんが私に金を持たすと全部食糧に消えると言って渡してくれんのだ……!」


 アイラは悔しそうにそう言っているが、ルルシュさんの判断は正しいと言わざるを得ない。間違いなく全ての金は食糧となり、アイラの胃袋へと消えるだろう。


「お前さぁ……、もう少し女の子らしくしないと嫁の貰い手がなくなるぞ?」

「ん? はっはっは! 私は嫁にはいかん! それと……もし子供が欲しくなったらアースに頼むから別に焦ってなどおらんよ」

「「ダメに決まってるだろ(でしょ)!!」」

「む?」


 アースとフランが綺麗にハモっていた。


「なぜだ? 種くらい良いではないか」

「だ、ダメですっ! 私だってまだなのに……!」

「なんだ、まだだったのか。あれだけ一緒にいながらまだとはなぁ~? まさか不能ではないよな?」

「誰が不能だ! 転生してからは回復してるっつーの!」

「はははは、まぁ冗談だ。私は子作りより戦いに身をおきたいからな。当分子を作る気などないよ。フラン、私はアースに気はないが……うかうかしていると第一夫人の座を奪われかねないぞ? 例えば……リリスとかな?」

「うぐっ……」


 変な話になってきたのでアースは慌てて屋台へと駆け込んだ。


「すまない、飲み物今すぐ!」

「いらっしゃ~……あ、アース様っ!?」


 どこに行っても驚かれるアースなのであった。

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