第43話 祭の夜
祭りは夜でも賑わっている。この首都アースガルドにはアースの発明した街灯が等間隔で並んでいる。街灯は魔光石を使用しており、動力は大気中に漂う魔力だ。
この世界は大気中に魔力が溶け込んでおり、そのため魔力をエサとする魔物も活発に活動しているのだ。
まぁ、つまりはわざわざ発電などしなくても石を置くだけで光る装置が作れると言う事になる。これは究極のエコかもしれない。
夜でも明るい街は大いに賑わっている。今回人間の軍を退けられた事がよほど嬉しかったのだろう。街はそれぞれの種族が一つとなり、争いもなく平和な時を過ごしていた。
「なんて……光景だ……」
「団長……、なんか……こう言うの良いっすね」
この光景を見た人間は絶句し、羨望の眼差しを向けていた。
「争いもなく、全ての民が一つになり平和な時を過ごす……。こんな光景は久し見た事がなかったな……」
団長は夜でも明るい街と祭りで盛り上がるこの光景を見て羨ましそうにそう呟くのであった。そこに一人の魔族が酒を持って近づく。
「おう、清掃活動お疲れさん。これでも飲めよ」
「……えっ? こ、これを私にくれるのか?」
「ああ。お前らは金持ってねぇだろ? こんな日に酒も飲めねぇなんて辛いだろうからな」
「し、しかし……。私達は人間で……。過去に貴殿方を傷付けた……」
魔族の男は鼻で笑った。
「んな昔の事なんて関係ねぇよ。確かにそれからの暮らしは惨めなもんだったさ。だがよ、アース様が全てを変えてくれた。見ろ、この街を」
団長たちは改めて街を見回す。
「わかるか? この大陸にはよ、誰一人惨めな思いをしている奴はいねぇんだ。皆毎日生きる事を心の底から楽しんでんだよ。お前らは人間だがアース様が生かした人間だ。つまりはよ、ここで生きる事を許されたんだ」
「そ、そうなのか?」
「ああ。でだ、ここで生きる奴にシケた面してる奴ぁいらねぇんだわ。だから飲め! 食って騒げ! で、明日からまた真面目に働け! つまんねぇ面してんじゃねぇ! おら、こっち来てまざりなっ」
「わわっ!?」
「「「だ、団長!?」」」
そこに他の魔族たちがやってくる。
「はいはい、あんたらもまざりな」
「うわっ!?」
「魔族の酒はつぇぇからよ? 人間に耐えられるかな?」
「む? ふふふっ、こう見えて俺はザルで通っている男だ! どんな酒だろうとつぶれる事などないっ!」
「おっしゃ! なら飲み比べといこうじゃねぇか。来いよ」
「いかいでか!」
人間が交流を始めた。誉めるべきは最初に声を掛けた男だろうか、それとも誘いにのった人間たちだろうか。祭りは大盛況となった。
「「「おぉぉぉぉっ! こいつマジでつえぇっ!」」」
「次ぃっ!」
「うっし! 次ぁ俺が相手だ! 乾杯っ!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」
一方団長は……。
「っ、私はっ! 本当は戦なんてしたくなかったんだ! なのに国は戦、戦、戦……! おかしいのは人間だ! 何故戦いばかり繰り返しているのだっ! グビグビグビ……おかわり!」
「ね、姉ちゃん……それくらいで……」
「お~か~わ~り~!」
「こいつ……絡み酒かよぉぉぉ……」
団長はずいぶんストレスが溜まっていたらしい。酒も入り思いの丈を全て吐き出していた。そして……。
「キラキラキラキラ……」
酒も吐き出していた。
「団長……、溜まってたんすね……」
「いや、でもあれはねぇわ……」
「ふはははは! ここの酒は美味いなぁぁぁぁっ!」
「あいつはあいつではっちゃけ過ぎだ……」
そこにアースとフランがやって来た。
「ずいぶん楽しそうじゃないか」
「「「「アース様!」」」」
場が一気に静まる。
「す、すんませんっした! 俺が人間たちを誘っちまったんです!」
アースが魔族の男に言った。
「? なんで謝るの?」
「へ?」
「別に悪い事じゃないでしょ。むしろ良く誘ったと思うよ。皆仲良く、最高の光景じゃないか」
「あ、アース様っ!」
「どんどん盛り上がってくれて構わないよ。今日はお祭りなんだ。沈んだ顔は似合わないよ。ただ……、そこのキラキラ製造機だけはなんとかしてくれ……。せめて桶か袋に吐かせてやって。匂いがキツい」
「は、ははっ。はいっ! お~い、アース様の許しが出たぞ~! そこの吐瀉物片付けて続きだ!」
「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」
再び場が盛り上がる。団長の吐いたキラキラはすぐさま片付けられ、団長はベンチに寝かされた。
「うぅぅ……。情けない……」
「ほら、水だ。飲みすぎだ」
「うっ。すみません……」
団長は喉を水で潤す。
「……何故そんなになるまで飲んだんだ?」
団長はフラつきながらアースに言った。
「その……。嬉しかったんです」
「嬉しい?」
「はい。私達は攻撃を仕掛けたというのに……。しかも捕まったら殺されて当たり前の事をしたというのに……。結局獣人は私達を殺さなかった。魔族は酒や食べ物を与えてくれた! 私達が欲深い人間だというのにだ!」
向こうは再び飲み比べで盛り上がっていた。
「私達人間は敵ではないのか……。こんなに優しくされたのは初めてだ……」
アースは団長に言った。
「なぁ、優しくされたなら優しくし返したら良いじゃないか」
「優し……く?」
「そう。人にされて嫌な事はしない。それを心掛けていけば良いじゃないか。人間にも様々な考えをもつ者がいる事はわかってる。良い人間もいれば悪い人間もいる。けどそれは全ての種族にも当て嵌まる事だ。君たちは今優しくされて嬉しかった、仲間に迎え入れてもらえて嬉しかった。違う?」
「は、はいっ! 嬉しかった……です!」
アースは団長の頭をワシワシと子供をあやす老人のような気持ちで撫でる。
「戦争は仕方ない。指導者がバカだと下はそれに従うしかないからね。だけど、だからって生き方を間違っちゃいけない。君たちにも信念ってものがあるでしょ?」
「信念……。はいっ!」
「誰かを守りたい、誰かを笑顔にしたい、悪は許さない、信念には様々なカタチがあるだろう。ここで暮らす内にもう一度、国とは関係なく、自分を見つめ直して欲しい。それでもここの仲間になれないって言うならそれは仕方ない。船を与えるから人間の国に帰れば良い」
「……。そんな事をしたらまた攻め込まれるかもしれませんよ?」
アースは胸を張ってこう答えた。
「ははっ、ちょっとやそっとじゃ負ける気はしないよ。君たち人間の技術はまだまだ俺には遠く及ばない。俺は争いは嫌いだ。奪う側も奪われる側もどちらにも悲しみは必ず付きまとうからね。出来るなら争わないのが一番なんだ。だけど、侵略されそうになったら何がなんでも抵抗する。黙って奪われるのだけは勘弁だ。俺の理想は全ての種族が仲良く一緒に暮らせる世界だ。それには人間もちゃんと含まれている。だから、君たちももう一度自分がどうしたいのかちゃんと考えて欲しい。考えがまとまったら城に来てくれ。じゃ、引き続き祭りを楽しんでくれ」
「あ……」
それだけ告げ、アースはフランとその場を離れた。
「私達がどうしたいか……か」
団長は魔族たちと盛り上がる仲間たちを見てもう一度自分が何をしたいのか考えるのであった。
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