第41話 捕虜となった白騎士団

 降伏してきた白騎士団を任された獣王ガラオン。すぐにでも斬り伏せてしまうかと思ったが、彼はそうはしなかった。


「白騎士団団長、これよりそなたら十名は獣人の奴隷となる事を命ずる。異論は?」

「ありません……」

「うむ。では仕事に励むように。もし争い事を起こしたらその時は即処刑だ。忘れるな」

「……ありがとう……ございます」


 獣王は人間を下働きさせる事で罰とした。アースはなぜ殺してしまわなかったのかと獣王に尋ねた。すると獣王はこう答えた。


「殺してしまう事はいつでもできます。だが、それではあの皇帝となんら変わりはないでしょう。それが嫌だった我は人間に僅かばかりの慈悲を与えたのです」


 その立派な考え方にアースは驚き、さすがは種族を率いる王なんだなと感心していた。


 そして、獣王の下で下働きをする事となった白騎士団の面々は首都アースガルドの景色を見て腰をぬかしていた。


「す、凄い町だな……。あれ何で出来てるんだ?」

「そ、それもそうだがよ……。ここは北の大陸で死の大地が広がっていたんじゃなかったのか?」

「そのはずだが……。……おかしい。普通に緑に溢れている豊かな土地ではないか!?」

「は、はは……。実は俺達もう信でてさ、ここは天国なんじゃないか?」

「バカを言いなさい。これは……大変な事よ」


 白騎士団団長が団員に言った。


「死の大地が復活した。手段はわからないけど一度死んだ大地が蘇っているのよ。もしこの秘密が世界に……、いえ、南の大陸にでも知られたら……あの国は必ずこの大地が復活した理由を突き止めようと戦を仕掛けてくるはず!」

「南の大陸……。ああ、あそこも酷い場所ですからね」

「団長、その情報……あいつらに教えなくてもいいんっすか?」


 団長は目を瞑り考える。


「……大丈夫だろう。世界最強の軍事力を誇っていた我々がああも一瞬で全滅してしまったのだからな。この国はどこよりも強く、そして豊かだ。私達が何も語らずともこの国は負けない。そんな気がするのです」

「確かに……。竜の足場になっていたあの鉄の船はヤバいっすね。仕組みは一切わからないっすけど……自在に走ったり曲がったり果ては後進まで……。理解出来まねぇっすよ……」

「それもだが……この地は何もかもが初めて見るものばかりなんだぜ? どうなってんだこりゃ……」

「私達が戦ばかりしてる間にこの大陸の民は文明を発達させていったのだろう」

「それは違うぞ、人間」


 町を見て驚いていた白騎士団にガラオンが告げる。


「違う?」

「そうだ。この死の大地を復活させたのも、高度な発明品を産んだのも全てはアース殿の御力だ」

「アースとはあの陛下と一騎討ちした竜の?」

「そうだ。アース殿は素晴らしい御方だ。火竜たちがいたから受け入れてもらえたのかもしれないが、受け入れてもらえてから我らは与えられてばかりだ。こうして日々失われた獣人を増やせているのも全てはアース殿の庇護があってこそなのだ。単純な力で言えば天竜、魔竜に敵う者はおらぬが、こと知識においてはアース殿に並ぶ者などおるまいよ」

「獣王にそこまで言わしめるとは……。アース殿とは何者なのでしょうか?」

「ふん、答えてやる義理はない。知りたければ己が目で見るが良い。明日からは街の清掃業務だ。死にたくなければ真面目に働くのだな」


 こうして白騎士団は処刑を免れ、獣人の監視下のもと、街への奉仕活動に従事する事となった。


 一方異世界にきて初めて人を殺したアースはと言うと。


「初めてじゃないもんなぁ、別に。戦時中なんかは戦闘機にも乗せられたし、銃剣片手に突っ込まされたしな。今さらだよな」


 全然ケロッとしていた。それだけ戦争とは人を狂わせる力があると言う事だ。普通ならば人を殺せば精神を病み、しばらく食事も喉を通らず、殺した者の顔を夢にまで見るものだが、アースはステーキ肉を食らい、その日は爆睡していた。


 そして翌日。街に出たアースは白騎士団が清掃活動している事に気付き、声を掛けた。


「やぁ、助かったんだね」

「っ! アース殿!」


 団長は箒を立て、片手で敬礼していた。


「そう畏まらなくても良いよ。で、処遇はどうなったの?」

「はいっ! 私達は獣人の奴隷扱いとなりました! この清掃活動も奉仕の一貫であります!」

「そう。ま、良かったんじゃない? 君たちの扱いはガラオンに任せているから俺からは何も言う事はないよ。じゃあ……掃除頑張ってね」

「あ、お、お待ち下さい!」

「ん?」


 団長はアースに問い掛けた。


「あなたは一体何者なのですか? この光景の全てはあなた様が作り上げたと聞きました。そして知識も並ぶ者はいないと」

「それは大袈裟だな。俺はただの地竜。それだけだよ。じゃあね」

「あ……」


 アースは騎士団に手をふり街へと消えた。


「話してはもらえなかったか。だが……人間を嫌っているわけでもなさそうだ。う~む……まるでわからない」

「団長、サボってると怒られますよ?」

「はっ!? わ、わかっている! さあ、掃除を続けるぞ!」

「「「「うぃっす!」」」」


 何だかんだと、白騎士団も街での生活に順応していくのであった。

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