第4章 侵略

第37話 人間

 アースがデモン大陸に楽園を築き終わった頃、ゴッデス大陸を支配した軍事大国【グラディス帝国】もまた、奴隷とした獣人達を不眠不休で働かせ、首都の建設を終えていた。


「陛下、あの使用済みの獣人たちはいかがいたしましょう?」


 皇帝は金と宝石で装飾を施した玉座に座り臣下にこう宣言した。


「もはや奴らは用済みだ。全て処刑してしまえ」

「はっ!」


 その翌日、ゴッデス大陸にいた全ての獣人はその生を終える事となった。生を終える獣人達の最後の言葉は……。


「獣王様っ……! どうか私達の無念を晴らして下さいませっ……!」

「時間だ。死ね」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 こうしてゴッデス大陸全土がグラディス帝国のモノとなり、獣人はゴッデス大陸から消え去った。


「陛下、獣人の処分完了いたしました」

「ああ、別に報告はいらん」


 臣下は皇帝に尋ねた。


「して、陛下。ゴッデス大陸も平定しましたし、次はいかがいたしましょう」


 その問い掛けに皇帝は少し間を置き、こう応えた。 


「……次はデモン大陸に向かう」

「は、はい? デモン大陸? な、何故に!?」

「忘れたのか。確かに我らはゴッデス大陸を制圧したが、一番抵抗を示した獣王と三体の竜。これらが北に逃げたではないか」

「だ、だからと言ってデモン大陸など……。放っておけばよろしいではないですか!」

「……ならぬ。あやつらには私の弟を殺されている。決して許してはおけん。獣王と三体の竜、この首をとってこい。良いな?」


 臣下は渋々頷き、港へと向かう。


「……せっかく大陸を一つ制したというのに。何故にあんな危険な者らを追わねばならんのだ! 奴の弟まで殺して引っ張り出したというのに……! あんな愚弟が一人死んだくらいでいつまでもこだわりおって! あれも王の器ではなかったと言うことか。……ひとまず船を出し、その間に暗殺計画を実行させるとしよう……」


 臣下はいつまでも次の大陸支配へと動かず、弟を殺したと思っている獣人らを根絶やしにしようとしている王に嫌気がさしていた。


「本当に北に行くんですかい? 北っていったら死んだ大地しかない不毛の大陸ですよ?」

「わかっておるわ! これは勅命だ。ひとまず船を出さねば納得せんからな。形だけでも捜索に向かえ」

「わかりました」


 その数日後、ゴッデス大陸からデモン大陸へ向け調査船が出港した。調査船はゆっくりと北に進んでいく。


「どこまで進みますか?」

「……水平線に陸地が見えるくらいで良い。陛下には獣王はクラーケンに殺られたと報告しておく」

「はあ、わかりました」


 やがて水平線に大陸が見えた。


「……んんっ!? な、何だありゃあ!?」

「どうかしたのか?」

「そ、それが! ちょっと見て下さい!」


 臣下は単眼鏡を受け取り覗く。


「な、なんだあれは……。ん……何か光っ……」


 臣下の乗った船は光に飲み込まれ海上から消えた。


 一方、その光の源たる外壁部では……。


「撃沈っ! 凄い威力だ!」

「まさかあんな遠くまで届くなんて! さすがアース様が作って下さった魔道具だ!」


 船影を確認した魔族は容赦なくアースの作製した魔道具、レールガンを発射し、船を沈めた。


「だれか、アース様に報告を。俺は後続の船が来ないか監視を続ける」

「俺が行くよ。ここは任せた」

「ああ」


 一人の魔族が急ぎ報告へと向かった。


「アース様! 緊急、緊急っ!」

「どうしたの?」

「はっ! つい先程人間の船が!」

「な、なにっ!? それで!?」

「はっ! 一隻だけでしたのでレールガンにて撃沈いたしました! 今引き続き監視をしております!」

「わかった。また何かあったら報告してくれ。ああ、後撃沈した船にあった国旗は?」

「はっ! 確か……帆にグリフォンと剣が……」

「なるほど。フラン、リリスとガラオン、それからルルシュを会議室に集めてくれ」

「はいっ!」


 ついに人間の船が現れた。しばらくして三人の代表が集まり、緊急会議が開かれた。


「グリフォンに剣……! それは我らのゴッデス大陸に侵略してきたグラディス帝国のものだ! ついに来たか!」

「いや、船は今の所一隻のみだったらしい。その船も撃沈した。今後続が無いか引き続き警戒している所だ」


 ガラオンは拳を強く握り締めていた。


「奴ら……! ゴッデス大陸の次はデモン大陸に来るつもりかっ!!」


 それにアースが予想を話す。


「いや、多分違う」

「なに?」

「おそらく……理由は獣王の捜索だ。北に逃げたのは知ってるだろうからね。確実に復讐の芽を摘むために動いたんじゃないかな」

「狙いは我かっ!! おのれっ!」

「おそらくゴッデス大陸にいた獣人はもう……」


 ガラオンの口唇から血が滲む。


「おそらく次はもっと多くの船が来るだろう。最初の調査船が戻らないとなると、何かあったのかと不信に思うはず。ガラオン、急ぎ外壁に向かってくれ。船を見つけたら遠慮なく沈めていいから」

「おうっ! その役目、確かに賜った!! 一隻も残さず海の藻屑にしてやろうっ!!」


 アースはこの役目をガラオンに任せた。獣人が受けた傷は大きい。船を沈めさせる事で少しでも気が晴れるならと、アースは考えていた。


 これより三ヶ月後、今度は複数の船がデモン大陸へと向かってくるのであった。


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