第36話 完成

 屋敷を江戸城にしたアースは次に城の周りの区画を六つに分けた。その要約は居住区、商業区、農業用地、工業区画、緑地公園、歓楽街だ。

 商業区には商店や市を据え、工業区画には工房、歓楽街には娯楽用の施設をいくつか建てた。息抜きをする場所はどうしても必要になる。あまり真面目に生活していても息が詰まると思ったからだ。

 歓楽街にはお酒が飲める区画や闘技場、他には遊具などが設置されたプチ遊園地が作られた。歓楽街は大人のみではなく、子供も楽しめるようにしてある。


 この区画だけで三ヶ月、残りの区画に三ヶ月の計半年。居住区は城に合わせて和風建築にした。


 そして予定期日である半年が過ぎたため、各種族からの移住が始まった。


「「「「……」」」」


 移住してきた民達はアースの作った街並みに絶句していた。


「アース!」

「やぁ、リリス。どうかな、この街」

「やりすぎじゃ! なんなんじゃこれはっ!?」

「え?」


 リリスの驚きももっともだった。それをルルシュが代弁した。


「アースさん、こんな街並みは世界のどこを探してもないわ。世界を回った私が言うんだから間違いないわ。フラン、何故止めなかったのかしら? 」

「あ、アース様が楽しそうに作るもので……。私には止められませんでした!」

「……この街は人間には絶対に見せられないわねぇ……。何がなんでも奪おうとするはずよ」


 それだけアースの作った街は美しかった。道は分かりやすいように縦横に伸び、碁盤のようだ。そこに等間隔で各建物が整然と並んでいる。


「……おぉぉぉ……! こんな綺麗な街に住めるのかっ!」

「わかってくれるかガラオン!」


 純粋に街の良さを褒めてくれたのはガラオンとフランだけだった。他の者はもしもここが人間に知られて攻められたらと考え素直に喜べずにいたのである。


「大丈夫だって! 俺たち三体の竜も防衛に加わるからよっ!」

「そうね。ゴッデス大陸では数に押されたけど、私達もあれから何度も死線を潜り抜けてきたもの。もう人間程度には決して遅れはとらないわ」

「この大陸は強くなった僕たちとアースに任せてよ!」


 そこに空から二つの声が降り注ぐ。


「案ずるな、我らも力を貸そうではないか」

「「「え?」」」

「あ、父さん、母さん!」

「「「うそぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!?」」」


 声の主は天竜に魔竜だった。二体は地に降り立つと人の形へとその姿を変えた。


「あら、二人とも……。久しぶりじゃない?」

「ルルシュか、まだ生きていたとはな」

「それはこっちのセリフよ。とっくに爺さん婆さんになってるかと思ってたわ」


 そう言い合い、三人は拳を合わせた。それを見てリリスが震えあがっていた。


「ま、まままままさか! 魔族の歴史に名を刻む英雄たる御三方が一同堂に会されるとはっ! あ、頭を上げられぬっ!」

「……大袈裟じゃない?」


 アースはリリスにそう言った。


「バカ者ぉぉぉっ! この御三方と勇者がおらねば我ら魔族の今はなかったのだぞっ! いくらアースでも御三方を軽視する発言は許されんぞっ!」

「えぇぇぇ……」


 アースにとっては両親と世話になっていた里の長程度の認識しかないが、リリスにとってはまさに種族の恩人でもある事から、普段とは違うリリスが表に現れていた。


「父さん、母さん。いったいどうしたのさ?」

「うむ。山からずっとアースの作る街を見ていてな……。その……最初は眠りに就く予定だったが火竜らも来たし結局眠りに就けんかったのだ。仕方ないから起きている事にしたらなにやら街が出来上がっていくではないか。これはなんとしても行かねばと……」

「ようは楽しみだったのよ。何せ全く見たことのない街並みだったからね。アース、そろそろあなたの秘密を皆に話しても良いんじゃない?」


 アースは内心驚きながらも、天竜に問い返した。


「秘密って……なんの事?」

「とぼけても無駄よ。私達は千年以上前からの世界を知っているわ。けど……、アースの作った街並みは全く知らない。さらにいえばアースは私達よりも知識量……いえ、文明が上。もしかしたら……たまに世界に現れる流浪人ってやつじゃないの?」


 アースは真剣な瞳で真っ直ぐ見つめる母親に観念し、自らの秘密を打ち明けた。


「……ってわけなんだ」

「そう。おかしいと思ってたのよ。人化の術を一回で成功させた頃からね。あまりに完璧な人化の術だったもの」

「そんな前から!?」

「他にも色々あったけどね。そう、アースは違う世界から来た人間だったのね」


 アースは天竜に言った。


「本当はエルフに生まれる予定だったんだけどさ、何故か竜になっちゃったんだよね」


 それを聞きフランがひっそりと肩を落としていた。


(そ、そんなっ……! アースさんがエルフだったらなんの障害もなく夫婦になれたのにぃぃぃぃっ! 神様の意地悪ぅぅぅぅぅぅっ!!)


 どこかの神がくしゃみをしていたのは内緒だ。


「でもさ、魂……いや精神は人間だけどさ、この通り俺は竜に産まれたし、仲間も出来た。それに元人間だからってこの世界の人間とは違う。別に人間の味方をしようとは思わないし、ここにいる皆を心から仲間だと思ってる。特にエルフなんてずっと一緒に暮らしてきたし、一生守ると決めている」


 それを聞きフランの顔が朱に染まった。


(い、一生!? 今一生って! ま、まだワンチャンあるかもっ!? わ、私とアースさんのけ、けけけけ結婚! そ、それにこ、ここここ子作……ぶふぅっ!)


 フランは何故か一人派手に悶絶していた。


 そして、その言葉を受け止め、ガラオンがアースの前で頭を下げた。


「我らは人間が嫌いだ。自分勝手で野蛮極まりなく、我が儘で自己中心的だ」


(言いたい事はわかるが意味が大分被ってるぞ、ガラオン……)


「だが、アース殿は違う。本心から我らを救い、我らのために動いてくれる。ゴッデス大陸に我らを追いやり、一切放置したこの世界の人間とは違うと言える。だから……我ら獣人は一生アース殿に尽くす。これからも我ら獣人をよろしくお願いしたい……!」

「ガラオン……」


 集まっていた魔族もエルフもガラオンの言葉に賛同し、沸いた。


 それを受け魔竜と天竜が言葉を紡ぐ。


「……これはもしかしたらこの世界の流れが変わるかもしれないな」

「ええ。見届けましょう、あなた。私達の子供がこの世界をどう変えていくかをね……」

「ああ、長生きしなきゃな」


 こうして、アースの正体はバレたが民達は温かくアースを迎え、デモン大陸に新たな歴史が幕を開けるのであった。

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