第34話 各種族の現状

 密かに寿司祭りを楽しんだアースはフランに工房を任せ各種族の町へと向かっていた。これは移住から一年経ってどれだけ発展したか調査する目的もある。

 アースはまず始めに魔族の町へと足を運んだ。


「なるほど、魔族はこういうスタイルなのね」


 あれあら一年、魔族の生活スタイルが表出した。魔族は基本農民だった。大陸の比率にしては少ない森でなんとか生き抜こうとしたスタイルが見て窺える。魔族は畑や果樹園、果ては水田にまでその手を伸ばし、立派な農業大国へと進化を遂げていたた。


「あ、アース様じゃないですか! どうされました?」


 視察に来ていた所を見つかったアースは野菜を収穫する祭りをに労いの言葉をかけた。


「皆の暮らしぶりを確認して回ってるとこなんだよ。しかしすごいねこの菜園は」

「ええ、復活した大地は栄養価も高く、作物の成育具合も見ての通りでして」


 畑には季節がら一緒に収穫する事がありえないキャベツ、玉葱、トマト、レタス、アスパラなどが育ち、収穫を待っていた。


「もう少ししたらトウモロコシも収穫可能になりますよ」

「凄いなぁ~、もう農業では右に出る種族はいないんじゃない?」

「ははははっ、私達はこれが取り柄ですから。誰にも負ける気はしませんね」


 魔族はそう主張し胸を張った。広大な土地を有しても魔族は生き方を変える事なく、慎ましく生きているようだ。


「なにか困っている事はない?」

「ありませんねぇ……。外壁内部には魔物も現れませんし、農作物が被害にあうこともないです。まさにここは天国のような土地ですよ」

「そっか。あ、もし野菜が余るようなら買い取るからね? どんどん報って良いんだよ?」


 その提案に魔族は首をふった。


「なに言ってるんですか。まだまだ全然足りないんですよ?」

「え?」

「私達の作った野菜は獣人やエルフが買いに来てます。獣人は畜産をメインに行ってますからね。私達はその肉を買わなければ」

「え? もしかして君たちの飼育してた魔物あげちゃったの?」

「はい。獣人には何もありませんでしたから」


 困っていた獣人を助ける魔族。アースはその行動に感動していた。


「素晴らしい! その助け合いの精神……君たち魔族は優しいなぁ~……」

「ははっ、困った時はお互い様ですよ。種族は違えど皆さんは同じ土地に住む仲間ですからね」


 人間共に魔族の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい。魔族の考え方は日本人に近いのかもしれないな。


「そうだ、アース様」

「ん?」

「新しい町は見ました?」

「新しい町? そんなのあったの?」

「はい。獣人との境に新しい町を作ったんですよ。見たら驚きますよ」

「それは楽しみだなぁ。じゃあそこに行ってみようか。農作業頑張ってね! 何か困った事があれば言ってくれよ~」

「はい、アース様」


 アースは魔族に手を振り、新しく出来たと言う魔族たちの町へと向かった。


「らっしゃっせー! 新鮮な野菜だよー!」

「へいらっしゃい! 今日はボアの肉が安いぞっ!」

「こっちはダンジョン産の鉱石だ! 安いよー!」

「おぉぉぉ……!!」


 新しい町では魔族と獣人、エルフがそれぞれテント式の店を出し、大いに賑わっていた。


「い、いつの間にこんな……!」

「あ、アース様だ!」

「「「「なにっ!?」」」」


 アースの姿を見つけた皆が集まってきた。


「お久しぶりですアース様!」

「久しぶりだね。この町はいつから?」

「先月からです。種族交流のために町を作ろうと思いましてね。アース様に事わりなくやってしまいましたが……ダメでした?」


 アースは首を横にふった。


「まさか。ダメなんて事はないよ。もう少し落ち着いたら俺の家の周りにこうした町を作ろうかなって思ってたからさ。むしろありがたいかな」

「「「……それだ!」」」

「へ?」


 ここは町と言っても整地した所にテントを並べただけの簡易なものだった。


「アース様の家を中心に街を作りましょう! そしたら俺たちの暮らしぶりを見てもらえますし、何かアドバイスをもらえるかも!」

「ですな。やはり交流の地は中央が良いですな」

「ここだとエルフの区画からちょっと遠かったからそっちの方が助かります」


 皆が話し合いアースに頭を下げた。


「アース様、アース様の今の静かな暮らしぶりを邪魔してしまうかもしれませんが……、是非ともアース様の御屋敷を中心に新しい街を!」

「ああ、いや……。実はいずれそうする予定だったからさ。それは構わないんだ。でも……こんなに早く交流してたなんて驚いてたよ」


 それに獣人とエルフが口を開く。


「魔族の方から提案を受けましてね。取引のための新しい町を作ろうって」

「行商で歩き回るより一ヶ所で売買した方が便利棚って言われたんですよ」


 アースは正直この考えに至るのはもう少し先になるだろうと予想していた。だが魔族はすでにその考えに至り、実行に移していたのだ。


「……ちょっと侮ってたなぁ~、ごめんね。すぐに町を作ろう。一ヶ月くらい時間をもらえるかな? それまではこのままここで交流を続けて欲しい」

「あ、頭を上げて下さいアース様!」

「ははっ、良いんだよ。これは俺が招いた事だからさ。悪いけどルルシュとリリス、ガラオンに俺の家に来るように伝えてもらえないかな?」

「「「はっ!」」」


 アースは各種族に伝言を頼み、国造りの最終段階へと入るのであった。

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