第33話 寿司ざんまい
大量の魚を手に入れたアースは生け簀を庭に出し、その中を眺める。
「大漁大漁。さて……何を作ろうか」
「アースさん、この魚どうしたんです?」
「ああ、フラン。これは浸水式で海に出た時に捕まえてきたんだよ」
「おぉぉぉ! 魚がいっぱいいるじゃないか! まさか私のために捕ってきたのか?」
「げっ、アイラ? いたの?」
フランに続きアイラが家の中から出てきた。
「ああ。ダンジョンで拾った物を獣人区に売りに行く所でな。いやぁ……腹が減ったなぁ~……ちらり」
アイラは飯をたかる気満々だった。
「アース、飯はまだかー?」
「はいはい。 ん……そうだ!」
アースは何かを思いつき、アイラたち四人に釣竿を手渡した。
「「「「なにこれ?」」」」
「それは釣竿。ご飯が食べたければそれで魚を釣ってくる事。釣れなかったらご飯なしね」
「「「「なにぃぃぃっ!?」」」」
アイラたち四人は絶叫していた。
「釣れたら俺のとこに持ってきてね。じゃスタート!」
「「「「くっ!」」」」
四人が釣りに向かうと同時に、アースは酢飯の準備に取りかかる。
「あの……私は?」
「フランは俺の手伝いだよ。そこのワサビをすりおろしておいてもらえるかな?」
「あ、はい!」
二人が庭に設置された簡易キッチンで下準備を進める頃、四人は生け簀に糸を垂らしていた。
「ぐぬぬ……釣れんぞ……」
「見向きもしないわねぇ……」
「ご飯食べた~い!」
「くっ! 魚の分際で……!」
四人は釣りが初めてだったらしい。餌もつけずにただ針を沈める。
「お~い、エサを付けなきゃ。クラーケンの身でも針につけたら? ほいっ」
アースは見かねて感電死したクラーケンを生け簀の脇に置いた。
「「「「ちゃんと教えろよ!?」」」」
四人は慌てて竿を上げ、針にクラーケンの身を突き刺し戻る。
「アースさん、ご飯炊けましたよ~!」
「今行くよ~」
アースは炊けたご飯を巨大な木桶に移し、砂糖、塩、酢を混ぜたものを投入しかき混ぜる。フランには風魔法でご飯を冷まさせていた。
「大変な作業ですぅっ!」
「料理は大変なんだよ」
やがて酢飯が完成した頃、アイラが巨大なマグロを担いで一番に戻ってきた。
「アース! これでどうだ!」
「……うん、ちょっと待ってね」
アースはマグロを台に乗せ刀で身を切り分ける。
「おぉぉぉっ! 豪快だな!」
「さらに小さく切り分けて……と」
アースは身を切り分けると、冷えた酢飯を握りワサビをぬり、そこに切り身を乗せ最後にキュッと握る。
「これが寿司だ! 赤身、中トロ、大トロ! さあ、お上がりよ! あ、食べる時は身に醤油をつけてな」
「うむっ! いざっ……!」
アイラは寿司を一貫口に含む。そして目を見開く。
「う……うまぁぁぁぁぁぁぁぁいっ! 美味すぎるっ! 新鮮な魚にピリッとくるワサビ! そしてこの飯! いくらでも入るぞっ! はぐはぐはぐはぐ……!」
アイラはあっと言う間に食べつくし、竿を握る。
「もう一回釣ってくる!」
「いってら~」
アイラが生け簀に戻ると、アースはマグロの頭からスプーンで身を取り出し、海苔で巻いた酢飯の上に身を乗せ、フランとそれを食べる。
「ん~~~っ! 美味しいですっ!」
「……実はここが一番美味いんだよねぇ~」
「ん? あぁぁぁぁっ! なんか食ってる! ズルいぞアース!!」
目敏くアイラがこちらに気付いた。
「はははは、ありがとうアイラ」
「ぐぬぬぬぬっ!」
「うっしゃ! 釣れたぁぁぁぁっ!」
「あ、僕もヒット!」
「私もですわ!」
どうやら釣りに慣れたらしい三体に次々と当たりがでた。クラーケンの身は万能エサらしく、素人でも簡単に釣れるらしい。
「鯛に平目、カンパチか。よし、握るぞ~!」
新鮮な魚を切り分け寿司にする。アースは三体が釣ってきた魚を寿司の他に海鮮丼にしてやった。
「むぅぅぅっ、魚がこんなに美味いとはな!」
「美味しいわね~」
「うまっうまっ!」
「アクア姉さん、冷えた米酒もあるよ?」
「あら、気が利くじゃないっ! んくっんくっ……ぷはぁぁぁぁっ! 最高ねっ!」
「アース、俺にもなんかくれ!」
「バーン兄さんにはハイボールかな。ほい」
「サンキュー! んぐんぐんぐっ……うめぇぇぇっ!」
三体の竜が食を楽しんでいる頃、アイラは……。
「かかれぇぇぇっ、かかれぇぇぇっ!」
殺気をむき出しにし生け簀の中の魚を睨んでいた。すると魚はそれを感じとったのかサーッとアイラの近くから離れていった。
「な、なぜだ!?」
「アイラ~、まだ~?」
「くぅぅぅぅっ! おのれ魚類の分際でぇぇぇぇっ!」
釣りは平常心が大切だと教えておこう。
それから三体の竜が次々と魚を吊り上げ運んでくる。
「私にもわけて下さいお願いしますっ!」
アイラは釣りを諦め、三体の竜に土下座をしていた。
「仕方ねぇなぁ……。ほらよ」
「殺気が強すぎるのよ。はい」
「ちっちゃいのならあげるよ、はい」
「あぁぁぁ……、ありがとう! ありがとうっ!!」
竜のおこぼれにあずかり、アイラもようやくマグロぶりの寿司にありついた。
「うぅっ……ワサビが染みるなぁぁっ……。はぐはぐはぐ……!」
「アイラはちょっと食に執着心ありすぎ。釣りは穏やかな心でやらないと」
「面目ない……」
こうして、思わぬ形で収穫した魚はアースたちの腹に綺麗に収まったのであった。
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