第12話 研究
三週間のダンジョンアタックでアースは不思議なモノを拾っていた。ストレージの鑑定でもそれは何なのかわからなかった。アースはそれを姉妹に見せ尋ねる。
「ねぇ、ちょっとこれ見てくれないかな? なにかわかる?」
姉妹がアースの持つアイテムを見る。それは鍵の形をしていた。
「う~ん? 何の鍵だ? わからないな」
「私もこれは初めて見ます」
「そっか。長命なエルフでもわからないか。なら今は良いや」
アースはそれをストレージへと放り込んだ。そんなアースに姉が食い付き気味で問い掛ける。
「それよりもだ! 長に何を振る舞うか考えたか?」
「あ、あぁ。一応いくつかは考えてあるよ。食材も思ったより色々手に入ったし、これから二人に実際に食べてもらう事にするよ。でも……それを作るためには準備が必要だからもうちょっと待ってもらえる?」
「食べられるならいつまでも待つ! だがなるべく早く頼むっ!」
「わ、私からも……。ここ三週間味気ないものばかりで……」
「ははは、大体察したよ」
妹の方も料理は苦手なようだ。
アースは長に振る舞う料理を作るために新しく窯を作ることにした。まずは土魔法で地面から粘土質な土を取り出し、それを四角い形に錬成し、火魔法で焼き上げる。それを組み、アースはピザ窯を完成させる。
「これはまた変な形だな」
「この形がベストなんだよ。さて、始めよう」
アースはダンジョンで拾った粉を混ぜ、生地から作る。粉は鑑定で日本語になっているので実際には何なのかはわからないが、舐めたところ日本名と変わりない事がわかった。
そうして作り上げた生地に油を塗り、トマトソースや野菜、ソーシャルなどを並べ、最後にチーズをこれでもかとのせていく。
そうして出来上がったモノを柄の長い平らなヘラで熱した窯に放り、焼き上がりを待つ。
「ぬあぁぁっ! これもまた匂いからして美味いではないか! まだか、まだなのか!」
「うぅぅ、お腹が空きました……!」
「もうちょっとだよ」
それから少し待つ。窯からチーズの焼ける匂いがしたため、アースはヘラで窯から美味そうに焼き上がったピザを取り出し、切り分けて姉妹の前に置いた。
「さ、食べてみ……」
「「いただきますっ!」」
「は、早いな……」
二人はアースが言い終わる前に手を合わせ、ピザを口に放り込んだ。
「くぅぅぅぅぅっ! これだ……! これだからアースの料理はっ! けしからんっ、けしからんぞぉぉぉぉぉぉっ!」
「ふあぁぁぁぁ……! おいひぃよぉぉぉぉぉっ!」
二人はあっと言う間に一枚平らげてしまった。
「どうかな?」
「私は満足だ!」
「じゃねぇよ!? 長さんが満足するか聞いてんの!」
妹がそれに答える。
「確かに美味しいですが……、残念ながらこれでは長様は満足されないかと……」
「え? なんでだ?」
「長様は猫舌ですから」
長は猫舌ですから。それを聞いたアースはガックリと首を落とした。
「もっと早く知りたかったなぁ……その情報……。窯が無駄になったじゃないか!?」
「す、すみませぇぇぇぇんっ! アースさんが何を作るか気になって!」
「……他には? 苦手なモノとかあるの?」
それに姉妹が話し合いながら長の苦手なモノを列挙していく。
「確か辛すぎるものもダメだったな」
「生物も苦手みたいでした」
「ああ、後肉も胃もたれするとか言ってたぞ」
「苦いものは嫌いだったような……」
「年のせいかあまり量は食べられないとかも言ってたな」
(そりゃ千年以上生きてるんだもんなぁ。エルフでも寄る年波には勝てないか)
アースは前世の自分に長を重ねていた。
「しかし……今までの情報からだとかなり食べられる物が限られてきたな……。生はダメ、辛いのも苦いのもダメ、肉もダメ……加えて猫舌。いったい何を作れと!?」
ほぼほぼ全滅だった。
「さすがのアースでもやはり厳しいか?」
「ああ、無理だろ……。俺の知る料理じゃ後は簡単な物しか……」
「ふむ。ではそれを見せてもらえるか?」
「ああ、本当に簡単なものだぞ?」
アースは器に炊けた米を盛り、そこに塩焼きにした鮭の身を細かく刻み乗せ、冷やした緑茶をかける。最後に刻み海苔を乗せ二人に渡した。
「これは……なんだ?」
「お茶漬け。胃に優しい食べ物だよ」
「ふむふむ。……おかわりだ!」
「一瞬で空にしてんじゃねぇよ!? さっきから感想がねぇぞ!?」
姉は先ほどからただ食っているばかりだった。
「これは……美味しいですね! 何故かするすると入ってきます! これなら長様でも食べられますね!」
「あぁぁ……、お前だけが頼りだよ……」
「そ、そんなっ……えへへ……」
「むぅっ! アース、まだあるんだろうっ! 早く次を用意しろっ! 次は感想を言ってやる!」
「まだ食う気かよ……」
アースは次にTKGを出した。すでに醤油は錬成済みだ。発明万歳!
「むっほぉぉぉぉっ! 私はこれが良い! 卵と白米、そして謎のソースが見事にマッチしているっ! いくらでも食えるぞっ!」
「この食べ方は危険ですっ! 確かに美味しいですが、卵が生では……」
「そ、そうか。うっかりしていた……」
もはや頼りは妹だけだ。姉は視界から消えてもらおう。
「じゃあ次は寿司な。これは酢飯に生魚の切り身を乗せた料理だ。間にはワサビが入っている。醤油につけて食べてみてくれ」
そう言い、アースは姉の前にたっぷりと寿司を用意して並べた。
「な、生魚だとっ! それはダメだアース! だが……せっかく作ったのだ。これは私が全部いただくとしよう! はぐはぐはぐはぐ!」
「お、お姉ちゃん! 私にも残してぇぇぇぇっ!」
「ダメだ! これは大人の食べ物だ! よって全部私がいただくっ!」
「そ、そんなぁぁぁぁっ!」
アースは絶望する妹にそっと耳打ちした。
「この後君には甘いお菓子をあげよう。だから……今は我慢してくれ」
「あ、甘い……お菓子? は、はいっ!」
この後、アースは妹を大満足させた。それは料理ではなくスイーツだったが、アースはそれをひっさげ、約束の期限の日、長との勝負に挑むのであった。
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