第13話 里の仲間に
期限の一ヶ月が過ぎた。今日だけは特別に里に入る事を許可されたアースは、姉妹に通され里の真ん中へと歩いている。真ん中にある広場にはテーブルが用意され、それを囲む様にエルフ達が並んでいた。さらに木の上にある家からも気配がする。不測な事態が起きた際、アースを弓で射るつもりなのだろう。
そして正午、長が用意されたテーブルに着席し、こう宣言した。
「では、これより試験を開始いたします。内容は私を料理で満足させる事。そして見事私を満足させた暁には里の仲間として認め、里への立ち入りを許可いたします。では早速はじめましょうか」
アースは長の前に箱を置いた。
「これが俺の料理です」
そう宣言し、アースは箱を開く。周囲のエルフ達も一斉に箱の中身に注目した。
「これは……初めて見ますね。甘い香りがしますが……」
「そうですか。良かった。これはドーナツと言う……まぁ、スイーツと言いますか、お菓子のようなものです。左からプレーン、チョコ、抹茶、イチゴクリームとなっております」
「????」
「わからないですよね。まぁ、一つずつ食べてみて下さい」
姉が羨ましそうに長の前にあるドーナツを見る。
「くぅぅぅぅっ! 寿司で腹が満たされなければあれが食えたものをっ!」
「どれもすっごく美味しかったですっ! 私の胃袋はあのスイーツに一瞬で籠絡されてしまいました~」
姉妹の反応を見て長はこれが美味いものであると信を得た。
「……なるほど。では左から順に……」
「ああ、お待ち下さい。冷たい飲み物も用意してありますのでこちらもどうぞ」
「ありがとう。これは?」
「アイスティーです。甘い食べ物にはこれが合うんですよ」
「冷たい紅茶ね、これは見た事があるわ。では……」
長の綺麗な指がプレーンドーナツへと伸びる。そしてそれを一口口に含み、数秒後、全てのドーナツが消えた。
「え? あ、あれっ!? ドーナツは!?」
「アースさん」
「は、はい?」
「お見事。私はイチゴクリームのドーナツが好みです。まだありますでしょうか?」
「あ、は、はい。どうぞ」
「っ! パクパクパクパクッ!」
物凄い速さでドーナツが長の胃袋に収められていく。
「ちょ、少食じゃ……」
それに姉が答える。
「ああ、昔に比べたらな。長は昔あの三倍は大きかった。それが今では私より小さい。里に来てから長はあまり食べ物を口にされなかったのだ」
「あぁぁぁぁ……! いけませんわぁっ! これはいけませんっ! おかわりっ! 次はチョコを! あ、あと抹茶もお願いしますっ!」
長の食べっぷりを見て周りのエルフ達は驚いていた。
「お、長があんなに食べられるとは……!」
「お、長のあんな表情は初めて見たっ! まるで少女のようにあの料理にかぶりついている!」
用意してあったドーナツは全て長の胃袋へと消えた。そしてアイスティーで喉を潤した長がナプキンで口を拭い、アースに言った。
「アースさん、合格ですわ」
「アース、やったな!」
「さすがアースさんですっ!」
姉妹が自分の事のように喜んでいる。
「このスイーツ、大変美味でした。なので、アースさんをこれより里の仲間と認め、特別に私の家で暮らす事を許可します。それと、貴女達、そろそろ家に帰ってきなさい。いつまでもフラフラしていてはいけませんよ」
「「は、はい!」」
「え? あの、ちょっと……え? まさか二人は……」
姉が名乗りをあげる。
「私の名は【アイラ・ルノワール】だ。長の長女である」
妹もそれに続く。
「私は【フラン・ルノワール】、次女です」
その名を聞いてアースは合点がいった。何故二人が里の入り口とは言え里から出て暮らしても里のエルフ達に何も言われなかったのかと。普通なら人間と暮らすなど止められるはずだ。
「まさか長の娘だったとはねぇ……」
「里では家の中以外で母と呼ぶ事は禁じられているのでな、言えなかったのだ」
「なるほど。でもなんで俺が長の家に?」
その問い掛けに長が答える。
「これまで私の娘達に美味しいものを沢山食べさせたのでしょう? ズルいですわ。なのでアースさんには私の家でコックをしてもらいますっ! これは決定事項です!」
「コ、コック~!? 俺が!?」
「さすが長! 名案だ!」
「アースさんっ、良かったですねっ!」
果たして良かったのかどうか。
「では……新たな仲間の歓迎を祝い、宴を開きましょう。今度はアースさんに私達エルフの料理を楽しんでいただきますので。さあ、皆さん、宴の準備を!」
「「「「はっ!」」」」
里のエルフ達が全員で協力し、宴の準備を始めていった。
「ああ、アースさん。子供たちに遊びを教えてくれてありがとうね? あれから子供たち毎日楽しそうにコマで遊んでいるの」
「それは良かった。なら次は大人用になにか作りましょうか」
「アースさんは物知りですねぇ。聞けば歳は五歳とか。本当でしょうか?」
「……ええ」
「その姿も?」
その質問にアースは違和感を覚えた。
「まさか……」
「ええ。人化の術……でしょう?」
「知っていたのですか」
「ふふっ、伊達に千年以上生きてはいませんわ。本来の姿は何ですか?」
アースは長に自分は地竜である事を告げた。そして親は天竜と魔竜である事を告げると、長の表情が驚きに変わった。
「あの二人……こんな近くにいたのね……、驚いたわ」
「え? 知ってるんですか!?」
「ええ、その二人は私の昔の仲間ですもの」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
それが今日何よりも驚いた事実なのであった。
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