第10話 娯楽

 食事を終えたアースはエルフの子供たちに簡単な遊びを教える事にした。


「「「ベーゴマ??」」」

「うん」


 アースは鉄鉱石から円錐形の駒を作り、ジャイアントスパイダーの糸を編んだ紐を用意した。台座はバケツにファングヴァイパーの皮を張ったものにした。


「まず、この駒に糸を巻いていくんだ。巻き方は色々あるから各自で一番回しやすい巻き方を考えてみて」


 そう言い、アースは駒に紐を巻き付け準備をする。巻き方はスタンダードな女巻きだ。


「ルールは簡単だ。この台座の上で最後まで回っているか、よっと」


 アースは駒を投げ入れ二つ目の駒を準備し、投げ入れる。


「あっ! 弾かれた!」

「こうやって相手の駒を弾き出した方の勝ちってルールなんだよ。そして……勝った人は相手の駒をもらえるんだ」

「ほほう。中々面白そうじゃないか。つまり……同時に台座に投げて最後まで自分の駒が回っていたら勝ちと言う事か」

「うん。駒の形にも色々あるから自分で削ったりして改造する楽しみもある。どうやって勝とうとするか考えるのもベーゴマの醍醐味なんだよ」


 やがて駒が止まりアースがそれを拾う。


「投げ入れ方とか基本を教えるから皆集まってくれるかな?」

「「「は~い!」」」


 アースはいくつかの巻き方や投げ方などをレクチャーする。


 そして一時間後。


「はははははっ! また私の勝ちだなっ!」

「うぅぅぅっ、お姉ちゃん強すぎだよっ!」


 姉が力に任せて無双していた。


「アースお兄ちゃん、仇とってよぉ~!」

「ふっ、任せておけ」

「おっ? 次はアースか。残念だがコツは掴んだ。私に負けはないぞ?」

「くくくっ、そういってられるのも今の内さ」

「なに?」


 アースが皆に渡した駒はペチャだ。対し、アースは改造に改造を加えた中高を使う。


「な、なんだその駒は? ずいぶん小さいな?」

「ふっ、小さくても勝てると言う事を教えてやろう。さあ、勝負だ」

「むむむ……。こいっ!」


 アースの駒は外観を鉄で覆った中身は純金。しかも背が低い駒のため、負ける要素は欠片もない。子供から駒を巻き上げ調子にのっている残念エルフに目にものをみせてやろう。


「ふんっ、私がそんな小さな駒に負けるわけがないっ! いざ勝負だ!」

「負けたら罰ゲームな。そらっ!」


 結果は想像通り。背の低いアースの駒は姉の駒を足払いでもするかのように転がし、一瞬で勝敗を決めた。


「なぁぁっ!? 私のエンパイア号が!?」

「はははははっ! 俺の勝ち~」

「くそぉぉぉぉっ!」


 何とも大人気ない勝負であった。


「アースお兄ちゃんすげぇぇぇぇっ!」

「アースお兄ちゃんカッコいい!」

「ははははっ! どうだ? 面白いだろ?」

「「「「うんっ!」」」」


 子供たちはベーゴマの魅力にすっかり取りつかれたようだ。


「くっ! まだ私の持ち駒は尽きてないっ! 再戦だ再戦!」

「諦め悪いなぁ~」

「「「「アースお兄ちゃんやっちゃえ~」」」」


 その後、姉の駒を全部没収し、戦いは終わった。


「ば、バカな……。私の駒が全敗だと……」

「ふっ、修行が足りん。力だけでは勝てんのだよ? ふははははははっ!」

「くぅぅぅっ! 悔しいぃぃぃぃぃっ!」


 アースは姉から没収した駒を子供たちに渡した。


「それを持って明日もまたおいで。そしたらまた美味しいご飯と楽しい時間をあげるよ」

「ありがとうアースお兄ちゃん!」

「私毎日来るよっ!」

「ああ、待ってるよ」


 子供たちは駒を握り締め里へと帰っていった。アースは姉を見る。


「さぁて、罰ゲームの時間だ」

「なっ!? ひ、卑怯だぞ! このゲームの発案者はアースじゃないか! ゲームを知り尽くした相手に勝てるわけないだろうっ!」

「あっれ~? 負けるわけがないとか言ってなかったっけ~? 負けたら逃げるんだ~?」

「お、おのれぇぇぇっ! 誰が逃げるかっ! 罰ゲームでもなんでも受けてやろう! さあ、内容を言えっ!」


 アースはニヤリと笑い、罰ゲームの内容を口にした。


「罰ゲームは一週間オカズ一品減ね」

「なっ……! そんなのあんまりだぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 一週間オカズを減らされる事になった姉は泣きながら地面に崩れ落ちるのであった。最近ちょっとふっくらしてきたし丁度良いだろう。


 そんな今日の夕食はオーク肉丼だ。オーク肉に衣をつけサクッと油で揚げた一品である。


「アースさん、凄く美味しいですっ!」

「良かった良かった」

「ふぅぅぅぅっ、肉がない……しくしくしく……」


 姉の丼はソースのかかったキャベツのみ。それと付け合わせに味噌汁と浅漬け。実に健康的だ。


「ふわぁ……。このサクサクした食感に濃縮なオーク肉の味わい……。これは神の料理ですっ!」

「気に入ったようで何よりだよ。これは他にも色々使えるからその内また新しい料理をつくってあげるよ」

「はいっ!」

「……しくしくしく」


 その姉の姿があまりに不憫だったため、アースは仕方がないので自分の器から肉を一切れだけとって食わせてやった。


「うわぁぁぁぁぁぁん、おいひぃよぉぉぉぉぉぉっ!」

「これに懲りたら調子に乗るのは控えるんだよ?」

「ああっ、あぁっ! はぐはぐはぐ……!」


 その夜、再び風呂に乱入してきた姉をアースは許す事はなく、一週間きっちりと罰を与えた。


 そして里ではベーゴマブームが巻き起こった。


「あぁっ! 私の駒がっ!?」

「やった! お父さんに勝った!」

「ま、待てっ! それはスケルトンの盾から作った私の駒! 返してくれぇぇぇぇっ!」

「駒は勝った人の物になるんだからダメ~」

「あんまりだぁぁぁぁぁぁっ!」


 里の真ん中ではエルフ入り乱れての賑わいを見せていた。

 里に入れないアースはそれを入り口から黙って見ていた。


「ははっ、皆楽しそうだなぁ……」

「アース、羨ましいのか?」

「そりゃあね。ま、でも仕方ないよ。入れないんだからさ」

「アース……」


 少し落ち込むアースを慰めようとするが、姉は何を言って良いか言葉に詰まっていた。


「俺の教えた娯楽で皆が楽しんでくれるならそれで良いよ。別に混ざれなくてもさ」

「くっ……、何とかしてやりたいが……」


 そこに里から一人の女性がこちらに向かって歩いてきた。それを見て姉妹は慌てて地に膝をつき頭を下げる。


「あなたがあの遊びを教えてくれた方ですか?」

「え?」

「アース、この御方は里の長様だ」


 ついに長と対面を果たしたアース。長は朗らかな笑みを浮かべ、アースに話しかけるのであった。

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