第8話 お風呂

 食事に関してはもう諦めた。何を言っても作らせる気満々だと悟ったアースは食器を片付け、ついに念願の風呂へと向かう準備をしていた。


「ふんふんふ~ん」

「ん? アースよ、どこへ?」

「え? どこって……風呂だけど?」

「ほう? もう完成していたのか。さすがだな」

「これはかなり気合い入れたからね~。じゃ、いってきま~す」


 湯桶にタオルを持ち風呂へと向かうアース。そしてその後ろにエルフ姉妹。


「なに? 俺今から風呂に入るんだけど?」

「知っている。その風呂とやらに興味があってな。一緒に入っても構わないか?」


 アースはジト目で二人をいや、主に姉を睨んだ。


「……構うわっ!? なんなの!? エルフだって羞恥心ってものはあるでしょ!? 男女一緒に水浴びするのっ!? しないだろ!?」

「はははははっ! 心配無用だ。何故ならアースはまだ子供ではないか。何歳だっけ?」

「……五歳だけど」

「そのくらいの年齢なら親や兄弟姉妹と入ったとしても何ら問題はないだろう? それとも……その年でもう女に興味があるのか? ん~?」


 姉がニヤニヤと顔に笑みを浮かべながらこちらを見ていた。


(興味あるも何も……こちとら百うん年生きてんだぞ!? 曾孫までいたんだぞ!?)


 妹の方も風呂に興味津々のようだ。家にいながら水浴び出来るのが楽しみらしい。


「ほらほら、何とか言ったらどうだ? アース」

「うぐぐぐぐ……! そこまで言うなら……!」


 逃げたら負けな気がしたのでアースは三人で風呂に向かった。ただし二人には身体にバスタオルを巻かせた上でだ。


「ほ~う、これが風呂と言うものか! ん? アース、この水熱いぞ!」

「……それが風呂なんだよ。冷たかったら水浴びじゃないか。使い方を説明するからちゃんと聞いてよね」

「ふむ」


 アースはシャワーの使い方を説明した。それと、湯船に浸かる前には必ず先に身体を綺麗にしてからと念をおす。


「石鹸をタオルにとってお湯をかけながら泡立てる。そんで後は身体を満遍なく洗う。髪はこっちのボトルに入ってるシャンプーで洗う。泡を流し終わったら湯船で身体を温めるんだ。これが風呂だよ」

「なるほど。では早速……」


 二人はいきなりバスタオルを外して身体や頭を洗い始めた。


「おお、これは良い香りがするな!」

「です! 魔法で綺麗にするより洗ってるって気がします!」

「はいはい」


 アースは紳士なので後ろを向いていた。どうせこうなるだろうと予想していたのだ。


「終わったら湯船に浸かると良いよ」

「ああ」

「はいですっ!」


 やがて泡を流し終わったのか、二人は湯船に使った。湯船はのんびりと足を伸ばして入りたかったため、広めに作っていた。


「くぅぅぅぅぅっ、なんだこれは! 疲れが抜けていくようだ!」

「はわぁ~……気持ち良いです~……」


 二人が浸かっている間にアースは頭と身体を洗う。


「これが風呂か……。アースがこれを作りたかった理由がわかった気がする。これは凄く良いモノだ!」

「毎日入りたいです~」

「さいですか……」


 やがて二人は暑くなってきたのか湯船からあがり先に脱衣場へと出ていった。風呂場に一人になったアースはようやく湯船へと浸かる。


「くぅぅぅぅぅっ! きっくぅぅぅぅぅぅっ! はぁぁぁぁぁ……やはり風呂は良いなぁ~……。ってかなんで作った本人が最後に入ってんだよ……。あの姉妹……少し自由過ぎじゃないか!?」


 アースは久しぶりの風呂を満喫しつつ、姉妹の奔放さを嘆くのであった。


 そして風呂上がり。


「アース、明日も一緒に入ろうな!」

「明日からは別々に決まってんだろっ!? 少しは恥じらいをだな!?」

「はははっ、このおませさんめ。そう言うのはもっと大人になってから言うんだな。ははははは」

「はぁぁぁ……」


 落ち込むアースに妹が問い掛ける。


「アースさん、次は何を作るです?」

「へ?」

「アースさんは私達の知らない物ばかり作ってるですよね?」

「え~と、うんまぁ……」

「この家を建てた時もそうですが……、アースさんって五歳にしては物知り過ぎません?」


 時々鋭い質問を投げ掛けてくる妹。アースはどう誤魔化そうか必死に答えを探していた。


「えっと……まぁ……ほら、家の親は賢者でさ、家には沢山本があったんだよ。そこから色々な知識を得て、知識だけじゃ立派な人間にはなれないぞと言われて旅立った。そんな感じかな」

「そうでしたか! ではまだまだ未知の道具とかあったりするです?」

「そりゃあね。これからゆっくり少しずつ増やしていくつもりだよ」

「楽しみですっ!」


 妹の咲くような笑顔が眩しい。なるべく風呂では見ないようにしていたが、あんな狭い空間で全く見ないなんて不可能な話だ。アースは罪悪感に包まれていた。


「そうだな、アースは百年もすれば寿命がくるだろうからその間に沢山学ばせてもらうとしよう」


(俺竜だから五千年以上生きるんだけどな)


 この日の夜、風呂で疲れが抜けたアースは久しぶりにサッパリとした気分で眠るのであった。


 そして翌朝。簡単な朝食をつまんでいると姉が話し掛けてきた。


「アース」

「ん~? なに?」

「アースの力で里をもっと便利に出来ないものか?」


 そう予想もしなかった相談を持ち掛けられた。アースは質問の意図が読めなかったため、無難な答えを返した。


「そりゃ出来るけど……なんで? 俺は里に入れないじゃん。出来るけど無理。それが答えかな」

「うむ。だからな、少し考え方を変えよう。アースが中に入るのではなく、エルフから外に出て来てもらおうじゃないか」

「……えぇぇぇ……。別にいいよ……。面倒事が増えそうだし」

「まぁそう言わずにだな。まずは子供のエルフたちと仲良くなってみないか?」


 将を射んとすればまず馬を射よと言う事だろうか。


「子供エルフかぁ。親が何も言わないなら構わないよ。無理矢理連れて来るとかは無しね。あくまでも自分から来たいって意思のある子供だけなら連れてくるのは構わないかな」

「そうか! いやぁ、さすがアースだ。では昼までには戻る。昼飯に子供たちが好きそうな料理を作って待っていてくれ!」

「え、あ? ちょっ……」


 姉妹は早々に家を出て里へと向かった。


「いや、何人連れて来るとか言ってくんないと困るって!? あぁもうっ! 子供か!」


 アースは何を作れば良いのか頭を悩ませるのであった。

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