第7話 さらに快適にするために

 肉の件を問い質されたアースは観念し、本当はダンジョンに一週間籠っていた事を妹に伝えた。そしたら案の定何故そんな危険な真似をしたのかと怒られた。


「ダンジョンは危険なんですっ! もう絶対に行っちゃダメなんですからねっ!」

「はぁ~い」


 さすがに最下層まで行った事は伝えなかった。地下十一階辺りで稼いで戻ってきたとだけ伝えておいた。どうやら姉もそれで納得したらしい。


 姉妹に美味い料理を振る舞った翌日、アースはストレージの中身を見ながら唸っていた。


「ふ~む……。う~ん……。これとこれをこうしたら……う~ん……」


 そこに姉がやって来た。


「どうしたのだ? 何やらずいぶん悩んでいるようだが?」

「ん? うんまぁ……ね。一つ質問しても良いかな?」

「なんだ?」


 アースは疑問に思っていた事を姉に質問した。


「ここは森じゃん?」

「うむ」

「エルフってさ……風呂に入らないの?」

「風呂? なんだそれは?」

「……は? 風呂を知らない!? え、嘘でしょ!?」

「む? また何か失礼な事を考えているな? だからその風呂とはいったいなんなのだ?」


 アースは姉に風呂の説明をした。


「ほうほう。人間はそんな物を使っているのか。興味深いな」

「まぁ、うん。でさ、エルフってどうやって身体を綺麗にしてるのかなぁと」

「ふむ。手段は主に魔法だ。生活魔法といってな、身体を清潔に保つ魔法があるのだ。その他にも森には水の湧く泉がある。魔法で綺麗にしつつ、泉の水を浴びるのが習慣だな」


(なるほど。道理でいつも綺麗なわけだ。そうか、魔法で清潔を保っていたのか)


 アースはいつも風呂もないのに何故二人は綺麗なままなのかずっと疑問に思っていたのだった。


「……じゃあ俺だけ汚いって事じゃん!? え、なんでもっと早く教えてくんなかったのさ!?」

「聞かれなかったからだな、うん」


 助けてあげて家も建ててやったし、飯も作ってやったのになんて薄情なのだと、アースは溜め息を吐いた。


「……ま、良いや。ちょっと家を改築するよ」

「ん? ああ。ここはアースの家だからな。好きにすれば良い。っと、私達はそろそろ訓練に行く。帰りは夕方になるが……飯は頼むぞ?」

「さりげなく飯をたかるなっての」

「ははは! その内まとめて礼をしてやる。今日も美味い飯を作ってくれ!」


 最近馴れてきたのか姉との距離感が縮んだような気がする。口調は相変わらずだが距離感がかなり近い。


「ま、良いや。さて、風呂を作りに行こう。日本人なら風呂に入らなきゃな!」


 アースはまず家の隣に小屋を建てた。そして小屋と家を廊下で繋ぎ、壁は家と同じように白く塗り固めた。


「さて、ここからだ。まずは……」


 アースはストレージから使えそうなモノを取り出す。


「まずは魔力を注ぐと水が出る魔水石を二個、これと同じく魔力を注ぐと熱を発する魔火石の三つを使おう」


 構造はこうだ。まずは純粋に魔水石一つで水が出る蛇口。次に魔水石と魔火石で熱湯が出る蛇口の二つを作る。これで温度調節が可能となる。排水は浴槽の下に垂直に穴を掘り、その底に吸水石を設置する。穴の蓋は浴槽の栓にした。

 そして洗い場にも蛇口を作り、そこにワームの皮を使ったホースと銀鉱石で作ったシャワーヘッドを繋ぐ。床は板張りにし、排水溝には同じ吸水石をセットした。

 後は棚を作ったり椅子を作ったりと小物を作り洗い場に置いた。


「よし、次は石鹸を作るぞ! これは時間がかかるから【発明】で作ろう」



 アースはストレージの中にある材料からかしの木の灰、動物性脂肪、生石灰に塩と小麦粉、そして水と香料を取り出し、スキル【発明】を使った。


「ん、ちょっと魔力減ったかな。でも……」


 アースの手の中に良い香りのする石鹸が完成していた。


「よっし! 上手くいった! この要領で蜂蜜シャンプーも作ってしまおう」


 アースは快適に暮らすために妥協せず頑張った。結果、またやり過ぎた。


「あのジャイアントスパイダーからもらった糸でタオルも発明したし、完璧だな! これで今日から風呂に浸かれるぞっ! おっといけないいけない。浮かれている場合じゃないな。今日の夕飯は何にしようか……」


 段々主夫じみていくアースであった。


 悩んだ結果、今日の夕飯は魚の塩焼きと野菜の浅漬け、白米に味噌汁となった。大豆に似た豆があったのでこれはと思い、味噌も発明した。その内納豆も作ろうかと思案している。


 やがて食事が出来上がろかと言う時間、二人が訓練から戻ってきた。


「ただいまですっ!」

「今戻ったぞ、飯は出来てるだろうな?」

「開口一番飯かいっ!? 今出来る所だよ。身体を清潔にして座ってまってて」

「了解した!」


 二人は魔法で身体を綺麗にし、躾られた犬のように大人しく椅子に座って待っている。そこにアースが空いた時間で作った木製のカートに料理を乗せて運び、二人の目の前に並べていく。


「ほう? これは魚か? 中々でかいな」

「それはキングサーケン(鮭)の切り身だよ。塩焼きにしてみた。白米によく合うからま、食べてみてよ」

「今日のご飯も美味しそうですっ!」


 ひそかに自分は昼に焼き味噌おにぎりを食べたとは言えないアースだった。


「うんっ! 美味いっ! この塩加減がまた絶妙だっ! この茶色いスープもまた和むな!」

「ん~! 幸せですっ! 毎日こんな美味しいご飯が食べられるなんて……アース様々です!」

「ありがとう。………ってちょっと待とうか。何故俺が専属料理人みたくなってんの!? 二人はいつになったら料理を学ぶのさ!?」


 姉が骨だけになった切り身を皿に乗せ、味噌汁を一口胃に流し込みアースに言った。


「アースよ、私達はこんな料理など食べた事がないのはわかるな?」

「へ? あ、うんまぁ……」

「なら、習った所で完成形を知らないと身に付かないと思うんだ。剣や弓にしてもそうだが、師匠がこうやるのだぞと、完成形を示してから指導するものだ。だからな、全ての完成形を知るまで料理には手を出せんのだよ」


 アースは思った。


(あ、こいつもう自分で作る気はないな……)


 不思議なプライドを見せる姉にアースは頭を垂れるのであった。

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