第6話 深緑のダンジョン
時刻は深夜、アースは一人月明かりを頼りに深い森の中を歩いていた。
「さてと、まずは【ストレージ】のモード変更からだな」
ストレージには様々な機能が付いている。その中にはダンジョンなどで使用する際に宝箱を自動で回収、開閉するモードもあった。これは数年前にステータスをあれこれ確認していた頃に気付いた仕様だ。あの時はダンジョンがあるなんて知らなかったため、自動回収開閉モードはオフに設定していた。その他にも、ストレージには錬金モードや自動鑑定モードなども付いている。鑑定に至っては親切な日本語翻訳付きだ。まさに破格のスキルと言える。ただし鑑定は魔力を必要とするため、常時発動はしないようにオフにしていた。
「鑑定は帰ってからで良いよね。さて……」
アースの目の前の森が開け、その先の地面には違和感バリバリの石造りの階段が口を開いて待っていた。
「あれだな。間違いない。なんって森に似つかわしくない造りなんだ……」
アースは階段に近づく。
「……これも美味しい食事のため……! 人生初ダンジョン……! いざ……っ!」
アースが階段に一歩足を踏み出すと、アースの身体は地上から消え、気が付いたら洞窟っぽい所にいた。
「うん、想定内想定内。さて、ここからはもう正体を隠す必要もないよね。人化の術解除!」
アースは人化の術を解除し、本来の竜の姿へと戻る。
「よ~し、全力で暴れるぞっ! おっりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
アースは竜の姿でダンジョン内を縦横無尽に飛び回り、ダンジョン内にいる魔獣をアッサリと駆逐しつつ、最速で地下へと進んでいった。
「ジャイアントスパイダー弱すぎでしょ。これなら山頂にいた魔獣の方が数倍強いよ」
地下十階のボスすら雑魚扱いし、アースは階層を余裕で下っていく。宝箱の中身など見向きもせず、もはや目的を忘れ何処まで下れるかとアタックを始めていた。
そうして期限となる一週間、アースは最下層のボス、ユグドラシルを倒し、深緑のダンジョンを攻略し終えていた。
「うん、最下層のボスはまぁまぁだったかな。そろそろ期限になるし家に帰ろう」
アースはダンジョンコアを破壊することなく、地上へと戻る魔方陣を使い地上に戻った。宝箱の中身は既にわかっている。目当ての調味料の他、様々なアイテムが手に入った。中にはとても見せられないようなお宝も混じっている。
アースは期限をキッチリと守り、自分の家へと戻った。
「ただいま~」
「っ! アース! 良かった、無事だったか!」
「アースさんっ!」
姉妹が入り口の扉を開けたアースに駆け寄る。
「一週間もどこに行ってたんですか! 心配しましたっ!」
「ごめんごめん。ちょっと食材と調味料を集めに行ってたんだよ」
「一週間も?」
「えっと……ほら、俺道に迷いやすいからさ。ようやく帰ってこれたんだよ」
「あぁ~……。次からは気を付けて下さいね? 森にはあの熊以外にも危ない魔獣は沢山いますから」
「うん、気を付けるよ」
妹の方は納得したのかお茶を入れに奥の部屋へと向かった。その間に姉がアースに問い掛ける。
「で? 目当ての物は手に入ったのか?」
「もちろん。今夜はちょっと豪華な食事にしようか」
「ふっ、それは楽しみだ。私たちを原始人呼ばわりしたのだ。さぞ美味い料理が食えるんだろうな?」
「ふっふっふ~。腰を抜かさないでよね?」
それから妹の煎れてくれたお茶をすすり、久しぶりにのんびりとした時間を過ごした。姉妹の方は特に変わりなく、この一週間は妹の弓の訓練に付き合っていたのだそうだ。
そして大分陽が傾きかけた頃、アースは外にある釜戸へと向かった。
「さて、じゃあ調理開始といきますか!」
本日のメニューはオークキングのステーキを塩胡椒で焼いたものに、野菜を細かく刻んだミネストローネ。そして、メインはまさかあるとは思わなかった白米だ。この世界にも白米があると知った時は小躍りしたくらいだ。
アースは改めて飯盒を作り、洗った米と水を入れ焚き火にかける。次にちょっと分厚く切った肉を火にかけ、シンプルに塩胡椒のみで味付けする。レアでいけるかは不明だっため、ミディアムに仕上げた。そして肉に火を通している内に野菜を細切れにし、鍋に刻んだにんにくを入れ焼き目をつける。そこにオリーブオイルと水、野菜を投入ししんなりとなるまで煮る。野菜がしんなりしてきたら潰したトマトを投入し、塩、胡椒、コンソメで味を整え、弱火で鍋に蓋をして放置する。
「なんだ? やたら良い匂いが漂ってくるぞ」
「あの人間が何か作ってるみたいだ」
「人間が?」
どうやら木の上にいるエルフたちの所にオーク肉が焼ける匂いが漂っていっているようだ。
「……集落に入れてくんないならあげないもんねー」
アースは性格まで幼くなっているようだった。
やがて飯盒から米の炊ける良い香りが漂ってきた。
「よし、じゃあ米と肉は皿に盛り付けてと、スープは鍋のまま運んでカップに盛り付けよう」
アースは完成した料理を家の中へと運んだ。
「出来たよ、さ、晩御飯にしようか」
「「はいっ!」」
二人の口から涎が垂れていた。どうやらここにも肉の焼ける匂いにやられた者がいたらしい。
アースは蓋を被せた皿を二つ二人の前に並べ、鍋からカップにスープを盛り付ける。
「ま、まだか! まだ食べたらダメなのか!?」
「凄く良い香りがしますっ!」
「よし、じゃあスープも行き渡ったし、蓋を開けていいよ」
「「おぉ~!」」
姉がナイフとフォークを握り肉の皿にかぶりつく。ちなみにこのナイフとフォークは銀鉱石から作った純銀製だ。スープにつけたスプーンは木を加工したエルフたちのものだ。スープに限ってはこの木の味わいが良く合う。
「う、うぅぅぅぅぅぅっ……うまぁぁぁぁぁぁぁいっ!! なんだこの肉はぁぁぁぁぁぁっ! 厚いがトロけるような歯ごたえ! そしてしょっぱさと少しピリリと肉の味を絞める調味料! 極めつけはこの白い穀物だ! 肉に合いすぎる! なんだこれは……なんだこれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「ん~~っ、このスープも酸味がきいてて美味しいですっ! お野菜もいっぱい入ってて私好みですっ!」
アースも肉を口に運ぶ。
「ん……んまぁぁぁっ!? オークキングの肉ってこんな美味いのっ!? やばっ、これマジヤバっ!」
「「……オーク……キング……?」」
「……あ」
あまりの美味さについなんの肉か口が滑ってしまったアースであった。
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