第4話


「早起きさんだねえ、ルアン」


起き抜けとは言え最低限の身支度を整えてきたルアンとは違い、ナバラは客人を招き入れても失礼が無いほど身形が整っている。

嫌味を込めて深く息を吐き出すルアン。


「それで。今度は何が聴こえたんだ。」


「せっかちさんだねえルアン。」


「ナバラ…」


「そんなに怖い顔をしなさんな。眉間の皺がまた増えるよー。さあさあ、温かいうちにどうぞ。」


茶葉を少ない水で沸かし、羊乳とたっぷりの砂糖を入れ更に沸かし香辛料を入れた飲み物。ルアンの好物。

部屋に入った時から香りで気付いてはいた。器を手に取ると香りが表情を和らげてくれるのが分かる。


「いただく。」


丁度いい温度。こっくりとした甘さととろっとした舌触りがたまらない。身体の内部から温まり、心地よさが広がる。


「で、何が聴こえた。」


「ふむ。まあいっか。」


とりあえず満足したのか、執務机に腰掛け卓上に置いてあった器を手にとる。そのままの姿勢で黙り込むナバラ。先程までのヘラヘラした顔は消え、今は眉間に皺を寄せている。


「木が…」


ぽそっと呟く声。聞き取れないぞと目線を送ると、困った表情で返ってきた。


「木が限界だ…と聴こえた気がするんだ」


「気がする?今回は随分あやふやだな」


「雑音で聲がハッキリ聴こえなかった。なんと言うか、耳を塞がれた状態で聴いてる様な……。」


「場所は。」


「"森"から馬で3・4日の範囲。ここから行くには難しい。」


黙り込むルアン。今回は情報が少な過ぎる。だが放っても置けない。

器に残った羊乳を一気に飲み干す。


「観察塔に行ってくる。コイツは自分で読め。」


小瓶をナバラへ投げ渡し、ルアンは部屋を出る。


「せっかちさんだよねえ。」


渡された小瓶を開け返事を読む。


「まあ、僕もそうなんだけど。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る