第10話 デート・ア・デッド②「気づき」

 ——いや、気持ちは分かる。


 たしかに俺も、一人で買い物するときはかなり高確率で無◯良品に寄る。


 しかも、結構面白いんだコレが。

 四コマ漫画用のノートとか、コオロギのパウダーが詰まった煎餅とかが売っててな。


 ……でも、デートには向かなくね?

 いや、デートじゃないんだけど。


「圭、お会計行くよ。あっ、ダジャレだ」


「早くね⁉︎ 今から無印デート始まる展開じゃないのかよ!」


「だって靴下しか買わないもん。……そんなに私とデートしたいんだ? へ〜」


「そういうことじゃないけどな……」


  ◇ ◆ ◇


 無◯の店舗から出てすぐ。


「私ラーメン食べたい」


「いや急だなオイ」


 つーか、女子がデートで堂々と「ラーメン食べたい」とか言うもんなの? 知らんけど。


「なんでラーメンなんだ?」


「だってラーメン食べたい気分だもん」


 ——いや、気持ちは分かる(二回目)。


 たしかに、ラーメン食べたくなるときって直感だと思う。

 クーポンとかポイントカードとか下賤な理由じゃなくて、突然、「あ、なんかめっちゃラーメン食いたいわ」ってなるよな。


  ◇ ◆ ◇


 結果、フードコートのス◯キヤに決定。伏字ばっかだな今日。


 一応説明させていただくと、ス◯キヤとは、中部エリアに点在するファストフード的なノリのラーメンチェーン店のことだ。入店時に大将から「アイラッシャイ!」とか言われない。


 家族連れにも人気のため、店舗だけでなくデパートのテナントとしてもよく見かける。

 近畿地方にも何店舗かあるらしい。が、首都圏からは数年前に撤退したそうだ。今ググった。


 並んでいた列が動く。


「次の方どーぞー」


 葵は途端、ドヤ顔になる。


「メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシでっ」


「いやス◯キヤにそういうガチなオーダーないから! ラーメンセット二つで!」


 まったく……。


 この行為は、言うなれば鳥◯族でテキーラ・サンライズを注文するようなものだ。

 ス◯キヤに対しての不敬と捉えられても反論できないぞ。


  ◇ ◆ ◇


 食後。

 テナントでトレイを返すと、不意に葵が声を上げる。


「あの子、迷子かな……?」


「え? ああ……そうかもな……」


 ハンバーガー屋の前に、ポロポロ涙をこぼす少年がいた。

 見た目だけで考えると、たぶん小学校低学年とかそこらだろう。


 葵は少年に近寄った。以外と優しいんだよな。


「……ねえボク、お母さんは?」


「…………天国」


 よ、予想外の反応すぎるぞ⁉︎

 葵、どう対応するんだ……?


「——だって圭、なんとかしてあげて!」


「丸投げ⁉︎」


 諦めやがった!

 ……仕方がない。笑顔を作ってなんとか対応せねば。


「ボ、ボク。お名前は?」


「……佐藤皇帝カイザー


 まさかのキラキラネーム⁉︎

 ……てか、サトーカイザーって凄いな。スターゲイザーみたいでかっこいい……のか?


「じ、じゃあ、カイザーくん。兄ちゃんたちと一緒に来よっか」


「でも知らないひとについてっちゃダメって先生が」


 このガキめんどくせェェェ!

 仲良し政策と並んで日本の教育の汚点だァァァ!


 つーかカイザーくん、知らないひとに名前を教えるのはアリなんか⁉︎ 

 キミと同じ名前の子とか存在しないから一瞬で特定できるけどいいんか⁉︎


 ——どうしたものか。

 諦めて放っておく? いや、それは絶対いかんな……。


 俺が頭をフル回転させていた矢先。


「カイザーく〜ん……!」


「わ! なに⁉︎」


 葵が俺の後ろからぬっと登場すると、裏声でカイザーくんの名前を呼ぶ。


 その手には——さっきまで彼女が履いていた靴下がはめられていた。


「ボクはストッキングの妖精、スート・キングくんだよ〜! 怪しい人じゃないから、ボクと一緒に行こ〜よ!」


 葵の顔は恥ずかしさで真っ赤だ。名前がアオイなのにアカイぞ。

 どうやら、さっき靴下買ったから今履いてるのはどうなったっていいらしい。


「うわぁ! スートくん!」


 しかし、カイザーくんは思いの外嬉しそうにしている。

 そんなに楽しいか? ストッキングの妖精って……。


  ◇ ◆ ◇


 無事にカイザーくんをインフォメーションセンターへ届けた。


『——ピンポンパンポーン。迷子のお知らせです……』


 ちゃんとアナウンスされてるな。よかったよかった。


「それにしても葵、さっきは見事だったな。……形はともかく」


「そ、そうかなぁ」


 えへへ、と頭を掻きながら葵は微笑む。


 見慣れない格好のせいか、改めて対面すると不覚にも惚れそうになってしまう。

 基本的に抜けてるしたまに怖いけど……完成度は高いんだよな。


  ◇ ◆ ◇


 短いようで長いデート(?)を終え、帰りの電車に乗った。


 窓からは沈もうとする太陽がうかがえる。


「圭、楽しかった?」


「楽しかったけど、こんなに疲れるとは思ってなかったな」


「そう? 私、別に疲れてないよ……?」


 元気いっぱいでなによりですよ……。


「来週からは……またぼっち生活か……」


「…………」


「お前、マジでことあるごとに俺に絡みつくのも大概しろよ……? 俺はまだリア充コース狙ってんだから」


「…………」


 返事がないな……言いすぎた?


 葵の方を向くと——既におねんねモードになっていた。なんやねん。

 ガタン、と電車が揺れる。それに合わせて、ことん、と俺の肩に頭が乗っかる。


 悪い気分はしない。顔は可愛いし。

 ……ヨダレとか垂らされたら話は別だが。あと寿司屋の件は忘れてないが。


 葵はむにゃむにゃと寝言を呟く。


「……圭ぃ……私は……圭だけでいい……から……」


 ……ラブコメ感凄いけど、普通に迷惑だから多少は我慢してほしい。

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