第二章

第9話 デート・ア・デッド①「休日」

 週末がやってきた。

 雲ひとつ見えない空。暖かな日差し。心地よい風。

 ……行くのは室内のデパートだから、天気とかあんまり関係ないけど。


 着てく服がなかったからジャージだけど、これでいいのか?

 ……乙女的にはダメなのか?

 いや、そもそもデートじゃないからそんなの関係ないな。関係ない関係ない。


 ……そうだ。これは久々の「おでかけ」だ。

 たまたま前回から時間が空いて、互いに心も体も大きくなっただけであり、別にデートとかじゃない。

 ……アレ? この発言だと、俺が一番乙女みたいだな。


  ◇ ◆ ◇


 ——ピンポーン。


 インターホンを鳴らした。

 誘ってきたのはアイツのくせに、待ち合わせ場所は自分の家って……なんか不服だ。高校生は基本女性優位だから、仕方ないか。


「はーい」


 ガチャリ、と扉が開く。


 葵は……ガチっぽい服やんけ……。

 ゆったりとしたブラウスに、丈長めのお姉さんっぽいスカート。

 ファッションに詳しくないのでそれくらいしか言葉で表せないが、とにかく読モみたいな服装だった。

 最近めっきり見なくなった沖縄のカップル的な読モじゃなくてな。


「お、おはよう」


「おはよ」


 葵は目を細め、口元を緩ませながら返してきた。

 たまに見せる怖い笑顔ではなく……妙に色っぽい微笑みだった。


  ◇ ◆ ◇


 駅の構内。

 電車を待つため、俺たちはベンチに腰を下ろす。


「あっ、飲み物持ってくるの忘れた〜。圭ぃ、なんか買ってきて〜」


 ……うん、よかった。いつもの葵だ。


 俺はベンチの隣の自販機の前へ歩を進める。


 どれにしようか。ここは俺のセンスが光るぜ。

 葵って炭酸大丈夫だよな? でも朝からシュワシュワは厳しいか……。


 ……悩んだ末、無難に130円のお茶を買った。


「はい、つめたいものどうぞ」


「つめたいものどうも」


 軽口の最中、葵は肩掛けバッグから財布を取り出そうとした。

 別にこのくらい……


「奢りでいいぞ」


「いいの? ありがと!」


 にへら、と微笑む。思いの外喜んでくれたらしい。

 なんか、めちゃくちゃいいことした気分になった。


 ——渡されたばかりのお茶のキャップ部分を見つめ、葵は不思議そうな顔をしている。

 まさかの不良品……?


「どうかしたのか?」


「ここに書いてあるんだけど、振って飲むのが義務なんだって!」


 ああ、それね。


 義務って言い方はどうかと思うが、確かにそのお茶って、急須のイラストの下に「よく振ってからお飲みください」って書いてあるよな。

 ……でも、実際に振ってる人見たことないんだよなあ。


 すると、葵は難しい顔で深呼吸をする。

 ……え? 精神統一?


 そして、バッと目を開くと……


「フンフンフンフンフンフンフンフン!」


 音速でペットボトルを振りまくる。

 名だたるバーテンダーもビックリの振り様だ。

 10秒間たっぷりシェイクして……ご満悦の表情。


「成し遂げたね……!」


「お、おう……!」


 泡がブクブク立ってとても美味しそうには見えないが……気にしたら負けだ。


  ◇ ◆ ◇


 花山駅に到着。

 普段この駅を使う際は制服を着ているので、私服だとどこか新鮮さを感じる。


 デパートまでは徒歩1分。直結と言っても過言ではない。素晴らしい立地だ。

 学校とは反対側の通路を通るから、休日登校のリア充な部活勢にエンカウントする可能性も低いしな。男女が組んず解れつしてるのを見ると虫唾が走る。


 すると、隣で歩いていた葵が口を開く。


「休みの日に圭と二人で歩くのも久しぶりだよね」


「下手したら小学生ぶりかもな」


「そうだね。だって圭、中学のときあんまり話しかけてくれなかったから」


 そうだな。話題を変えようか。中学の話とか、嫌な予感しかしない。


「圭、中一のときは吟遊詩人で、中二からは完全に暗黒時代だったもんね」


 言いやがった!


「……さ、さあ? なんのこと……カナ?」


「え? 中一の頃書いてた『神月烈風記』と、私が使う脅しの常套句の『無限おっぱい消しゴム事件』……」


「掘り返すな! あと常套句ってなんだよ! それが話題に上がる度に俺は震撼してるんだぞ⁉︎」


  ◇ ◆ ◇


 ——到着後、最初はどの店に入るか。

 これは、デパートデート(?)において、地味に超重要な問題である。


 服を見たい人もいれば、遊べる本屋からの人もいるし、ゲーセン派もいる。

 ……ちなみに俺はゲーセン派だ。

 太鼓叩かなきゃ始まらん。リュックにマイバチも入っている。


 だがしかし。ここで俺が「じゃ、ゲーセン行こっか」などと言ったら、それはもう男として失格だ。

 デートとはあくまで——レディがファーストなのだ。


 ……なんて語っている俺だが、デート的ななにかとか人生初だから、実際のところはよく分からない。

 だからここは無難に……


「葵。最初どこ行きたい? 服でもいいし、ビ◯バンでもいいし、ゲーセンでもいいぞ」


 そう……相手にすべてを委ねる、典型的なチキンである。


「うーん……無◯良品行きたい。靴下が欲しくて……」


「おばちゃんかよ! 靴下程度なら近所のフレマの無◯コーナーで売ってるくね⁉︎」

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