余計なことはいい、手を組め、さすれば勝てるかもしれない、やるだけはやってやる

 数時間後。多数のワープ反応が検出されると同時に、それが反乱軍の全戦力であることがシグナルでわかる。

 続々と集まる艦隊は優に八十隻を超えていたが、それは地球軍全体の戦力と比較してみれば微々たるものだった。

 しかもこれらの艦隊の大半は正規軍のものより古く、いかに横流しや強奪を行っても最新鋭機はそのうちの果たしてどれだけになるか。

 宇宙戦艦は、主武装であるビームが命中すれば旧式でも最新鋭を撃沈できるだろうが、それは同じステージにあがったわけではない。

 むしろスタートラインの時点で大きく引き離されている。射程距離も、機動性も、負けているのだから。


『君が、件の離反者というわけか』


 反乱軍艦隊の中で、唯一、ミランドラよりは型が落ちるものの、今なお地球軍で主力を誇るのと同じタイプの戦艦が光信号と共に突出して出てくるのを見れば、省吾もミランドラで出迎えることになる。

 そして、映像通信がひられた時、そこには四人の老兵がいた。

 うち、中央の男が細い目をしながら、省吾を見定めていた。

 状況が状況ゆえにお互い、オンラインでのあいさつになってしまった。


「ジョウェインと申します。閣下とのお目通りに対して、通信越しであることを許し下さい」

『ん。私はカラマスという。緊急事態だ。それは無礼ではない。第一、我々は軍隊とは少し違う。肩肘は張らなくてもいい』


 というものの、それは便宜上のものだ。

 ここで省吾がため口を言おうものなら、相手はこっちに不信を抱くだろう。

 それに……。


(さて、こっちの老人たちがどういうキャラクターなのかを把握したいところだが、正直今はそんなことやってる暇がない)


 ここにきての新キャラクター……否、本来であればいて当然の存在であるが、打ち切り故に描写されなかった反乱軍の代表たち。

 当然ながらどのような性格をしているのか、その目的はなんであるかなどわかるはずもない。

 しかし、それはユリーやフラニー、ジャネットたちも同じだ。

 だが彼女たちと違うのは、彼らはかなり責任のある立場であり、反乱軍とはいえ組織の長だ。老獪さなどが全くないということもないだろう。

 しかし、今はそれを気にして考察している暇はないのだ。


「早速ですが閣下。ファウデンの暴走は一将官の目から見ても、残虐非道であります。さらに言えば、あのようなマシンを作り上げたという事実もまた驚愕するべきであり、さっそくこれ戦争の枠を超えました。あの男は、越えてはならない一線を越えたのです」

『そのことについては、こちらでも確認が取れている。地球の現状はわからぬが、被害は甚大であろうな。今すぐに、人類が息絶えるとは思わぬが、人口延命装置の類は全滅、事故も多発していることだろう』


 まるで他人事のようにいうが、それは想像を絶する事態が起きているからこその言葉なのだと省吾も思った。

 なにせ、目の前でアル・ミナーの集光レンズが破壊され、さっそく死を待つだけとなった星々に対しても、それが史上最低の行いであると憤ることはできても、件の宙域に住まう人々がどうなってしまうのかは想像できなかった。

 苦しみ抜いて死ぬのか、それとも……。


『ファウデンめ、よもやここまでやるとはな』

『もはや一刻の猶予もない。今すぐにでも彼奴を殺さねば、今度は他の惑星も同じ運命をたどることになるぞ』

『そうなっては新政権の樹立だの、なんだのといった安定策も無駄になるな』


 カラマス以外の代表たちも怨敵討つべしという風な意気込みも見られる。

 時間があるのなら、彼らの性格を見ておきたかった。

 そう思いつつ、省吾はさっそくの提案を投げかけていた。


「敵は凄まじい性能を発揮して、大艦隊と大砲を再び地球へワープさせました。しかし、幸いなことに我が方にもあのマシンと同じ出自を持つマシンがあります。そして、これは何度も私の命を救ってくれました。あなた方が奪取しようとしていたトリスメギストスの事です」

『フム……新型、であることだけはわかっていたが、今となっては恐るべき力だと思う』


 果たして彼らにトリスメギストスの性能データがどこまで知れ渡っているのかはわからなかった。


『しかし、本当に長距離ワープは可能なのかね』

『失敗をした場合のリスクを考えれば、通常ワープで攻め込む方が良いではないだろうか?』

『先発隊との合流をはかってからでも遅くはない』

「しかし、それでは遅すぎます」


 老人たちはここまで来ておいて、今更ながらに腰を重たくしていた。

 それは省吾からすればイライラするものであったが、致し方のないことであるとも思う。そう、思って飲み込むしかない。

 それでも焦るのは、今この瞬間でもファウデンの狂った思想が渦巻いていることに気持ち悪さを感じているからだ。

 それに、もっと最悪なのはゴエティアの性能を理解すれば、人は不要であるという事実だった。

 奴は機械を操る。その点に関してはトリスメギストスの性能を越えているだろう。あえてそちらに特化させたのかもしれない。

 最悪、部隊全てを掌握される可能性だってあるのだ。それを何とかするのがトリスメギストスの役目にもなる。

 とにかく分の悪い賭けであることに違いはなかった。


「我々の目的は単純です。ゴエティアと呼称されるマシンを破壊。そしてバベルというキャノンも破壊。この二つさえできれば、お互いに戦力比は五分になると思われます。その為に、この要塞基地を使おうというのです」


 要塞基地には一応、移動用のエンジンが搭載されている。速度としてはかなり遅く、加速もよろしくないが大質量であることが武器だった。


「こいつを巨大な隕石としてバベルにぶつけることで、まず大砲は潰せるでしょう。同時に多くの艦隊を巻き込むことも可能かもしれません。なにより、ハッキングを受けようとも超重量の物質の加速を止めることなど、不可能です」


 そして同時に、要塞は巨大な盾となる。いかに大艦隊が相手でも、この要塞基地を艦隊装備で粉々にすることは不可能。

 だがバベルの直撃を受けようとも、残骸は残る。それに、バベルは連射ができないと悟った。


「今すぐに、やるか、やらないかなのです。このまま放置すれば、次はどの惑星が同じく原始時代に帰されるかわからないのですよ?」


 省吾の物言いは極端なものだったであるが、真理でもある。

 ゴエティアの能力によって電子機器に依存した文明社会は崩壊の危機に陥っている。それを、他の惑星でもやるのか。同じことができるゴエティアを増やして、抗えない者として君臨させるつもりか。

 それは恐ろしいことである。

 省吾は有無を言わせるつもりはなかった。新参者であろうと、そこは遠慮をするつもりはなかった。


『……俗なことを言えば、ニューバランスを排除した後に新政権を立てたところで、地球は死に星になっては意味がない。地球には、やはり惑星間の統一組織でいてもらわねばならんからな』


 カラマスの言葉はあえて俗物のような言葉を吐いたように思った。

 彼の言葉の意味は理解できる。仮に地球を放置し、各植民惑星が独立した所でそれらが維持できるとも思えない。確実にどこかで争いは起きる。

 ある意味でニューバランスという存在は必要悪として君臨していたのも事実だった。

 そこにはまだ人間の意識が介入しているからこそ、ある程度の自制が効いた。しかし、このままいけばそんなものとは無縁の何かが支配をする。

 その未来は、良くない。


「だから、今すぐにワープによる奇襲をしかけて、戦うしかないのです。勝たねば意味がありません。だらだらと問題を先延ばしにして、マシな結果は出ませんよ」


 その為には、トリスメギストスというより、トートのご機嫌を取る必要もあるが、それも対応を考えてはいた。あとはそれをうまいこと働かせるだけだ。


(トートの奴がゴエティアに共感したら、それこそ俺たちのおしまいだが、そうはならないと思いたい。それに、ファウデンの動向も気になるがフィーニッツのジジイたちも一体何を企んでいる?)


 あの一件以降、博士らの存在は露としてしれない。

 ろくでもないことを企んでいるだろうが、果たしてそれがどう対応するべきか、頭が痛くなるのも事実だった。


(なるようになる……では駄目だ。確実に、仕留める必要がある)

『確かにマシな結果が得られない戦いは意味がない。ではジョウェイン君。話を聞こうか。一分一秒でも惜しいとは思うが、作戦内容を把握せんことには戦えない。艦隊戦とはそういうものだ』


 状況は動いた。

 省吾は、頷き作戦を説明した。


***


 それとほぼ同時期に戦闘部隊も慌ただしく動いていた。


「隊長!? そんな爆装の戦闘機でよろしいのですか」


 メカニックの一人がマークが倉庫から引っ張り出してきた戦闘機の調整をしながらも、悲鳴のように呼び掛けた。

 その戦闘機は、デルタ翼が特徴の機体で、開発には旧世紀のヨーロッパ関連の航空会社が関わっているという話もあったが、そのような古い歴史の話は彼らには興味はなかった。

 むしろ、宇宙でも使えるという点のみが重要である。もちろん、大気圏内でも同等の性能を発揮するという意味において、戦闘機の形は時代が変わっても右に倣えで似たような姿で作られるという。


 だが技術が進歩すれば、多少の無茶をさせることができるようで、この機体はブースターやスラスターを後部に集中させ、高い推進力を得ることができた。

 この技術は旧式のテウルギアであるゲオルクにも採用されている。その実、速度に関してはテウルギアは旧式タイプの方が上だった。

 それでもラビ・レーブが台頭したのは扱いやすさもさることながら高い拡張性と汎用性、柔軟な運動性にあり、加速という点に関しても専用のブースターを装備すればよく、またシールドなどの防御も充実していたことがあげられる。

 だが、人型マシンが隆盛を誇ったのはスペックだけの話ではなかった。

 それは、人間の心理ともいうべきか、人が、最も力を感じる姿は、やはり人であったという、ただそれだけの話だった。

 たったそれだけのことで、人型マシンは量産をされた。


「人型マシンは、巨大な人体の延長線。俺たちの手足を動かすように、テウルギアも手足を動かし、人の姿のまま戦闘機や戦車と同じ性能を発揮して、戦術と戦略が取れる。フン、もっともらしい理由だ。俺も嫌いじゃあない。しかし、その代償が高性能化で、それを今じゃ逆手に取られた」


 テウルギアは巨大な情報端末でもある。

 それがハッキングを受ければおしまいなのは当然のことだった。


「おい、元戦闘機乗りはかき集められるのか?」

「はぁ、ジョウェイン艦長がロペス艦長を通じて、反乱軍などかメンバーを集めるとか」

「最低でも十機は欲しいな……少なすぎるが……」


 ないよりはマシだろう。

 あえての旧式を用意して最新鋭の裏をかく。果たしてそれがうまく行くかどうかはわからないが、少なくとも操られることはない。

 それが知性を持つものであれば通用するはずだ。


「ミサイルは満載にしてくれ。どうせ使い切る。機銃のブレの調整頼むぞ。人型と違って、後の微調整が難しいからな」

「了解です」


 作業に戻っていくメカニックの背中を見送り、マークは本来の愛機を見る。今回の戦いでは使う予定がない……というわけでもなかった。


「おい、小娘。涙は枯れたか?」


 といって、マークはそっぽを向いたままのアニッシュを呼び寄せていた。


「ったく、機体がなくなった程度で泣いてんじゃねぇよ。よかったじゃねぇか、生きてんだからよ?」

「それは、そうですが……」

「フン、大方、機体損失に加えてボーイフレンドを撃ったことを気にしてんだろうが……ま、それは気にするな。状況が違えば、撃ってたのは俺らかもしれん。ま、ナイーヴなガキにそれをいっても納得はしねぇか」


 アニッシュはまだぶすっとしていた。


「やれやれ。おい、小娘、アニッシュとか言ったか。テメェに俺の機体を預ける。トリスメギストスとのデータリンクだけは調整しろ。そうすりゃ少なくとも、お前だけが操られることはねぇだろ」

「私が、隊長の?」

「使えるもんは使うしかねぇんだろ。あのバケモンに対抗できるのはトリスメギストスだけ。あいつは操られなかった。その力を俺たち全体ではなく、一機に絞れば防御はマシになるだろう」

「でしたら、隊長が乗れば……」

「誰が戦闘機に乗れるんだ? うん? お前、できるのか」

「それは……」

「悪いがパイロットを遊ばせておく余裕はねぇ。こっちは三人死んでるからな。そして勝ち目があるなら、どんな方法も使う。いいな?」


 マークはあえて返事は聞かなかった。


(全く。艦長の裏切りに面白半分で付いてきて、極め付けが戦闘機に逆戻りか。こいつは、傑作だ。笑える。面白い話だな)


 野獣とも呼ばれた男は、不謹慎ではあるが、戦闘の昂りに浸っていた。

 この感覚こそが、マークの楽しみだった。


(最新鋭の化け物に戦闘機で挑む。これで楽しむなってのが無理な話だな)

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