第二章 高校生編

入学式当日。 

いよいよこの日がやってきた。


朝早くに目を覚ました私は、シミュレーション通りに自分の容姿を整える。

色素の薄いカラーコンタクトをつけ、彼女に教えてもらった通りのメイクを施す。少しあの人に教えてもらったのよりかは派手目な物だけれど…


何度も練習したコテで綺麗に巻き髪を作って、制服は最初から短く切ってしまったスカートを身につける。

最後に甘い香りの香水をワンプッシュ。


全ての用意を終えた私は全身鏡の前に立つ。


『うん、どこからどう見ても今時のギャル。大丈夫、大丈夫…』


内気な自分を消すように、頬をパチンっと叩いてスクールバッグ片手に家を出る。


中学の時の皆と会わないために、わざわざ遠い高校を選んだ私は自転車で通える距離の学校ではないため、電車へと乗り込んだ。


沢山のサラリーマン、OL、学生でいっぱいの満員電車に酔いそうになりながら、必死に吊り革を掴んで転がらないように耐えた。


ま、毎日これを耐えなきゃいけないんだ…自分で遠い所を選んだとはいえ、ちょっと大変かも。


長い時間かけて辿り着いた高校は、駅からは幸いな事に近いので降りてからは一瞬で着くことができた。


『うっ……わぁ…』


高校にたどり着いた途端に、私の口からはあまりよろしくはない声が漏れた。

それもそのはず。

だってこの学校、見事にヤンキーとギャルしかいないではないか。


「やっば、タバコ普通に持ってきちゃった〜」


「てかさ、バイク通学禁止とか意味わかんなくね?」


「萎えるわ〜」


『……』


あまりの治安の悪さっぷりに、思わず口元が引きつってしまった。

仕方ないといえば仕方ない。


だって、自分を変えるためにも校則が自由なこの学校を選んだのだから。

それに不登校で出席日数の足りない私は、うんと偏差値の低いこんな高校しか入れないのだから。


ある程度覚悟は決めてきた物の、あまりのあれっぷりの生徒を私は中々受け入れることができなかった。


『大丈夫、大丈夫…私はギャル、もう陰キャじゃないんだ…皆とおんなじ仲間だ……』


自己暗示をかけながら、重い足を引きずるように私は校内へと足を踏み入れた。

すると、中学のときと同じように体育館に移動するように伝えられる。


ほんとに案内もなく、伝えられるだけで場所なんか全然分からないので、皆の向かう方へ静かに着いていくしかなかった。


体育館まではそれ程距離もなく、案外すんなり着くことができた。

先着順に座るだけのようなので、私は流れるように座り込んだ。


「ねー、そのカラコンラヴ○ールのカラコン?」


『うぇっ!?』


座ると同時に、隣からいきなり声をかけられて変な声が出てしまった。

私は咄嗟にコミュ症を必死に抑えながら、言葉を振り絞るように出した。


『うん、そのブランドのキャラメルだ……よ……っ!?!?』


カラコンの色を言いながら、彼女の方を見るとあまりの外見の派手さに吃ってしまった。

彼女は、真っ赤な髪に、耳と口元に大量にピアスが開いていたのだ。


どのギャル達よりも派手な外見に、ぽかんと開いた口を塞ぐ事も忘れてしまった。

彼女はそんな私の様子など気にも止めずに話を続ける。


「やっぱ?カラコンはラヴ○ールが一番盛れるよね〜あたしのはオリーブだよ、分かる?」


『あ、うん。オリーブいいよね。超盛れる。ラヴ○ールのカラコンはハズレないよね。うんうん。』


自分でもきちんと喋れているか分からないけれど、必死に動揺を隠しながらカラコンの話を懸命にした。

彼女はそれなー!と嬉しそうに私の手を握ってくるのだった。


彼女の外見通りのコミュ力に圧倒されながらも、私は話を一生懸命に続ける。


「しかもさ、その香水あのブランドのたっかい奴の匂いじゃない!?」


『これね、ネットで調べて安くて似た香りのやつ見つけたんだ。3000円もしないよ。』


「嘘!?なんてとこのやつ?絶対買うんだけど!」


私はバッグからつけてきた香水を取り出して、彼女に手渡して見せた。

彼女は凄い凄いと喜びながら、つけてもいいかと聞いてきた。


もちろんいいよと言うと、彼女は手首にワンプッシュして匂いを嗅いだ。

すると高いテンションを更に高くして、大喜びしたのだった。


私は彼女の無邪気っぷりに、思わず笑ってしまっていた。


「あたし由衣!そっちの名前は?」


『私は乃々果。』


「じゃあのんちゃんだ!あたし達友達になろーよ!よろしく!」


『う、うん…!よろしく!』


あだ名をつけて、私と友達になってくれた彼女は赤い髪を揺らしながら微笑むのだった。


この友人との出会いが、私の高校生活を鮮やかに彩ってくれる存在となった。

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