第二章 高校生編
高校入学、一週間前
無事に受験に合格した私は、ため続けたお小遣いを片手に街に繰り出していた。
お洒落な人達が歩き回る、地元からは離れた街。
その一角にある美容院を予約していた私は、煌びやかな外観に圧倒されつつ、緊張を必死に飲み込んで足を踏み入れた。
「いらっしゃいませー!」
『っ…よ、予約してた黒崎です。』
「お待ちしてました、こちらの席にどうぞ。」
私を出迎えてくれたのは、綺麗に髪をセットした少しチャラそうな見た目の男性だった。
初めて出会うタイプの人に、私の緊張感は更に増してしまった。
強張る足を少し変に動かしながら席へと向かい、ゆっくりと腰を下ろした。
私が座るとすぐに彼が口を開いた。
「今回はカットとカラーでお伺いしてますが、そちらで大丈夫ですか?」
『はい!』
緊張感から、少し声が大きくなってしまった。その自分の声に恥ずかしくなってしまって、思わず俯いてしまう。
彼はそんな私の様子を気にする事もなく、話を続ける。
「ご希望のカラーはございますか?」
『え…? えっと、とにかく明るくしたいです…』
「明るくですか…ナチュラルなブラウン系やアッシュカラーなどもございますが、その辺の希望はありますか?」
初めて聞く単語に、私の頭はハテナでいっぱいだった。
ブラウンは茶色のことだよね?アッシュってなんだろ…とにかく舐められないように、明るくしたいとしか考えて来なかった。
私は戸惑いながら目線を動かす。
『あ…』
すると、奥の方に別のお客さんを接客している女の美容師さんを見つけた。
彼女の髪は、鮮やかで眩い程のゴールドのブロンドヘアーだった。
私は迷うことなく、彼女の方を見つめながら口を開いた。
『金髪…あの人みたいな、金髪になりたいです。』
「金髪かぁ…それならブリーチをしなくちゃいけないですね。それに、お客さんは黒髪なので最低2回はブリーチが必要です。大丈夫ですか?」
『大丈夫です、お願いします。』
ブリーチがなんなのか理解もできてないまま、私はオーダーした。
すると彼は分かりました。というと、そのまま薬剤を取りに行った。
数分待つうちに、彼は戻ってきて、ブリーチ剤を私の髪へと丁寧に塗っていった。
「染みませんか?」
『大丈夫です。』
痛みは感じなかったものの、独特な匂いが少し気持ち悪いな、と思った。
長い時間をかけて丁寧に塗った後、3.40分くらいそのまま待たされた。
そしてシャンプーして乾かした後、再びブリーチ剤を塗られる。一回目だとやはり金色にはならなかったから。
長時間かけて塗って、また待って…その長い時間に少し疲れそうにもなった。
彼から手渡された紅茶を飲みながら、ひたすらに終わる時間を待っていると、あの金髪の彼女が声をかけてきた。
「初めてのカラーですか?長い時間お疲れ様です。」
『は、初めてです!でも、これで金髪になれるなら全然大丈夫です…』
彼女は私の言葉を聞くと、にこやかな笑顔を向けてくれた。
「高校生?初めてのカラーなのにブリーチって思い切りましたね〜!」
『…高校デビューなんです、恥ずかしいですよね。』
「えー!全然恥ずかしくなんてないですよ!高校デビュー、上手く行くといいですね。」
彼女は私の言葉を否定するどころか、応援までしてくれた。
きっとこんなの元クラスメートが知れば、大笑いするだろう。
そんな私の少し暗い気持ちを吹き飛ばすよう、彼女は雑誌を持ってきてくれた。
「折角だしメイクも覚えましょ!化粧品は持ってますか?」
『なにも持ってないです…』
「じゃあプチプラで、おすすめなの教えます!」
彼女はファンデーション、アイシャドウ、アイライナー、チーク、リップ…など、全て必要な化粧品を教えてくれた。
おまけに手が出しやすい安価な物を。
どれも丁寧にやり方を教えてくれて、彼女と話をしていると楽しくなってあっという間に時間が過ぎていった。
「あ、時間ですね!シャンプーします〜!」
「いつの間に!長々お話しちゃってすみません…」
『そんな!楽しかったです。』
ブリーチを担当してくれた彼が来てから、そんなにも時間が経ったのかとかなり驚いた。
私はシャンプー台へ向かう前に、彼女に向かってお礼を伝えた。
『あの、家に帰るまでにおすすめの化粧品全部買います!』
「はい!きっとお似合いになると思います!」
私も彼女の言う通りにすれば、あんな素敵な女性になれるのだろうか…
そんな期待を込めながら、二度目のシャンプーを受けた。
あんなに緊張していた美容院も、ここちの良い物へと変わっていた。
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