第一章 中学生編
入学式から2ヶ月が経った。
皆の名前と顔をしっかりと覚え、大体のグループが形成され始めた時期。
そんな私達に学校の一大イベント、体育祭が始まろうとしていた。
皆が一日の授業のうちの1~2時間を使って、体育祭での練習に励む。
この学校の体育祭は、自分で種目を選択してそれに参加するという仕組みだった。
運動音痴の私は、強制参加のクラスリレーのみ出場することにした。
わざわざ嫌いな物に参加出来るほど、私は前向きな性格でもないしね。
それぞれの選択した種目を練習する皆の姿をぼーっと見つめていると、練習を終えた夏美がこちらに向かってきた。
「乃々果、暇そうだね。本当に参加しなくて良かったの?」
『夏美!お疲れ様。うん…だって私の運動神経だよ?全生徒の前で大恥かくと思ったら耐えられないよ!むしろ、クラスリレーもしたくないくらいだもん。』
「それなら良いけどさぁ…」
私の手渡したハンカチタオルで汗を拭く夏美。
私の友人二人は運動部に入っていて、かなり運動神経が良い。
春香は女子バスケ部、夏美はテニス部で、クラスの中でもこの体育祭で期待をされているメンバーに入っている。
「でもさ、50メートルは参加すれば良かったのに。愛しの貝塚と一緒に走れたんじゃないの?」
『べべべ別に良いよそんなの!!』
ふーん…とにやにやする夏美の顔を見ないように、必死に顔を反らした。
サッカー部の貝塚くんは、普段走り慣れているからだろうか50メートル走に参加した。
ちらりと貝塚くんのいる方へと目を向ける。
『貝塚くん、凄いなぁ…』
思わずぽつりと声が溢れた。
圧倒する足の速さで一人堂々と一位を取っていた。
周りのクラスメイトが彼の元へと集まって、きゃあきゃあと囲み騒いでいた。
騒ぐ気持ちもとても分かる、だって貝塚くんの足の速さは本当に凄くて他の人を置き去りにしていたのだから。
50メートル走はうちのクラスが一位で確定だろう。
凄いな、かっこいいな。
なんてドキドキしていると、クラスメートの女の子が貝塚くんの腕を組んだのが見えた。
「なにあの女子、付き合ってもないのにベタベタしてきっしょ。」
『言い過ぎだよ……』
会話は遠くにいるせいで聞こえないけれど、仲睦まじい様子がこちらからも見て取れる。
近すぎる距離感に、心臓がチクチクと痛くなった。
「乃々果もあっち行きなよ!貝塚かなりモテるんだから、取られちゃうよ!」
『いいよ…私は貝塚くんを見れたらそれで充分だし…』
「全然充分じゃないし!付き合いたいと思わないの!?」
『だって私みたいなクソ陰キャが、人気者の貝塚くんと付き合える訳ないじゃん。高望みすぎてそんな理想持ったらバチ当たるよ。』
夏美は私の発言を聞くと、大きく溜息をついた。
「乃々果は可愛いんだから、ちゃんと自分磨きすれば絶対モテるよ!だから自信くらい持ちなよ?」
『……夏美、その目は飾り?大丈夫?』
「はぁ……」
私の発言に大きくため息をつく夏美。
私が可愛い?彼氏ができたどころか、モテた事すらない私が可愛いだなんてありえない。
この世に女は私一人だけにならない限り、私を可愛いなんて思う人など現れないだろう。
……一瞬だけ、ほんの一瞬だけでも貝塚くんに可愛いと思われる時が来てほしい。
私なんかと貴方が肩を並べて歩く日など来るわけが無いのだろうけど…。
でも、想像だけは許してほしい。
貝塚くんと付き合えて、二人でデートしたり、笑い合ったり…貴方と恋人になれた時のことを考えるだけで私は幸せになってしまう。
どうしようもない程大好きなんだ。
いつか、私の想像が現実になりますように。
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