第一章 中学生編

「…という訳で、新入生の皆さんは各自自分の教室へと向かってください。」


体育館で沢山の先生からの話を聞き終えた後、私達生徒は教室へと足を向かわせる。座りっぱなしだった足がじんじんと痺れる。


ほんと、学校のこういう話の長さってどうにかならないの?折角のわくわく気分も、この長ったるい話で台無しになるんだよね…


そんな私の考えは友人達とも同じだったらしく、一人が私の肩をガバッと組むと愚痴を零した。


「あぁー!ほんと話長くない!?何、あのハゲ共は全員話す事に飢えてんの?マジでうっざいわぁ…」


「春香、気持ちは分かるけど落ち着けー。男子めっちゃ見てるよ?」


「は?男子とかどうでもいいし。」


『あはははー…』


私を挟んで歩くのは、男勝りでボーイッシュな雰囲気が漂う春香。

それを宥めるのはクラスの中でもかなり美人で、隠れた人気を誇る夏美。


内気な私に小学生の頃から仲良くしてくれている、大切な友人だ。


私は二人と共に足を進めながら、心底友人達とクラスが離れなかった事を安堵していた。


だってコミュ症拗らせまくってる私だもん、この二人と離れたら友達なんて出来るわけがない。なんなら何でこんなクラスの中心的な人物が友達なのか訳わかんないくらい…


ギャーギャーと話す二人を見つめながら、いつの間にか私の目の前には目指していた教室の扉が聳え立っていた。


ガラリと扉を引き、新しく用意された出席番号の席へと向かい腰を降ろした。

…これが、今日から私の机。

小学生の時の机とは違って、少し大きくて綺麗な気がする。


新しいスタートを噛みしめるように、私は机を撫でる。

すると、私の頭上から明るい声が聞こえた。


「おー!黒崎おんなじクラスじゃん!よろしく〜」


『お、おはよう…よろしくね!』


私に話しかけてきたのは、貝塚誠くんだった。彼は小学校の頃から目立っていて、人気者だった。


少し長めの襟足と、初日なのに着崩した制服が彼の明るく目立つ性格を表している様だった。


引っ込み思案でクラスの端が似合う私と、誰よりも目立ってクラスの中心が似合う彼は同じ小学校でも接点なんて無かった。

だからこんな風に声をかけてきた事に、動揺が隠せなかった。


「黒崎、ブレザー貸してくんない?俺忘れちゃってさぁ…今眠いからそれ掛けて寝たいんだよね。」


『え…あ、うん、いいよ…』


スクールカースト頂点の彼。

そんな貝塚くんは私にとったら少し怖くて、断ることなんて出来なかった。


私は渋々ブレザーを脱ぐと、彼にどうぞと手渡した。


彼は嬉しそうに私にニコッと笑顔を見せると、ブレザーを受け取った。


「ありがとー!黒崎が隣の席で良かった!」

 

『隣……?』


彼は私のブレザーを羽織ると、私の隣の席へと突っ伏してそのまま眠りにへとついてしまった。そこで私は今初めて彼が隣の席だという事に気づいたのだった。


まさか、こんな陽キャが隣だなんて…

最悪、早く席替えしてくれないかな…。


私が口元を引き釣らせながら、隣の彼をじーっと見つめていると不意に彼の瞳がパチっと開かれた。

そして、気まずい事に目がしっかりと合う。


『ご、ごめっ…』


「黒崎のブレザー、いい匂いすんな。」


『いい匂い…?』


「なんか、癒やされるわ。」


ツリ目がちの彼の瞳が、気持ち良さそうに細められ、緩んだ口元を隠すこともせずにそう言ってきた。


『そ、そっか…』


あまりの見慣れない無防備な笑顔に、自分の心臓がぎゅっと締め付けられた。


『貝塚く……ってもう寝てる!!』


先程の笑顔から一瞬で寝顔に変わった彼。

すぅすぅと、心地良さそうな寝息が聞こえる。


自分のイメージの中の彼と、目の前の彼とのギャップに頭が追いつかない。

なんとなく、この可愛い寝顔を他の人に見せたくなくて、私は頭までの自分のブレザーを掛けた。


『こんなん、報われない恋じゃん……』


意外にもあっさりと、自分のこの感情が何かは把握できた。


“”恋“”


間違いないだろう。


我ながら単純で、一瞬で一目惚れしてしまったと思う。

だけど、彼を見れば見るほど心臓の鼓動が速さを増していく。


けど、陰キャの私が人気者の貝塚くんと結ばれるなんてありえないよね…

叶える気はないけど、ひっそりと想い続けさせてもらおう。


私はちらちらと彼の寝顔を見る度に、にやける自分の口元をひっそりと隠した。





これが、私と彼との出会い。


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