第2話  one round

「その力はいつから?」

「1年前からよ」

俺と海原蘭はファミレスにいる 俺はコーヒー 蘭はパフェを食べている 先程までの興奮は収まり今はまた落ち着いている


「ちょっと聞きたいことあんだけど」

「何?」

「その力に名前とかあんの?」

「いやないけど...私は"魔法"って呼んでる」

「なんかかっこいい名前つけたくね?」

「ブッ...!」

海原蘭はむせ出した

「BLEACHの技名みたいなカッコいいやつにしたいな 例えば run in the past」

「いやダッサ!英語習いたての中学生みたいなクオリティーじゃん!私恥ずかしくてそんなこと言えない!」

「じゃあどうすんだよ」

「いや名前なんてどうでもいいでしょ!」

「いや大事だ 例えばドラゴンボールのカメハメ波 ワンピースのゴムゴムの実 ベン・トーの氷結の魔女などその物語の代名詞となることが多い」

「ドラゴンボールとワンピースにベン・トーが並ぶのね ベン・トー好きだけど浮いてるよ!」

「それにしても過去に戻るとかいう便利な力をなんで消したいんだ?」

「前も言ったと思うけど私は陸上部で短距離なの この力のせいで...」

「走れない...いや走れるが故に走れないか」

つまり走ることによって過去に戻ってしまうため結果が出せないのだ どれだけ速く走ろうと0に戻ってしまうのだから

「その力制御できないのか?」

「私のこの力の発動条件は全力で走ること つまり全力じゃなければ走ることは可能

でもね全力で走るから陸上は楽しいのよ

全力じゃなければ 0.01秒に全力を尽くさなければ意味がない」

海原蘭は悔しそうに歯をギシギシ震わせている パフェの器はもう空っぽだ

「でもねこの力は一年前に急に現れたの ある日練習で何時間練習しても終わらない あれおかしいなって思ったら視えてきたの 逆再生される世界を 私はこの力ができたのに何か原因がありその原因を掴むことでこの力をなくすことも可能だって思ってる」

「心当たりは?」

「分からない...けど毎日一回は全力で走ってこの力の有無を確かめてる」

「それにしても不思議だよな 蘭は毎日その力を少なくとも一回は使ってる訳だろ 世界が巻き戻ってるってのに誰も気づかない」

「太郎はでも気づけた」

「その力を視ることにも条件があるのか...それとも俺が特別なのか...」

「特別?田中太郎なんて名前の人には1番遠い言葉ね!」

海原蘭は子どものような無邪気な笑顔を見せる

「よし決めた!」

「何を?」

「蘭の魔法の名前は"回る世界"(one round)だ!」

「...好きにして...というか太郎あなたずっと名前で悩んでいたの そんなことはいいからもっと真面目に考えてよね!」

「まぁいいじゃねーか とりあえず明日からいろいろやってこうぜ」

「いらっしゃいませー」

「今日も練習きつかったな」

「やめたくなりますよー...ってお前太郎転校初日にして女子とデート!?」

そこには部活帰りの加藤と神崎が 

「違うわよ!」

海原蘭は咄嗟に否定する

「違わくないぞ」

「は?なに言ってんのよあんた!」

「おおーラブラブっすね じゃあ俺たちは邪魔になりそうだし明日学校で」

「またな太郎 そして幸せになれよ」

「ああ!またな神崎!加藤!」

「勘違いされたじゃない!どうすんのよ!」

「時間も時間だし俺たちも帰るか」

「ちょっと!」


必死に否定してくるところは子どもらしさがありかわいい 

「蘭じゃないか 隣の子はお友達かい?」

店を出たところでサラリーマン風の男に話しかけられた

「蘭の...彼氏です」

「違うだろ!同じクラスの田中よ」

「面白い子だね よかったら一緒に夜ご飯食べて行かないか?」

「えっ」

「じゃあお言葉に甘えて」


こうして俺は海原家へ行くことになった

なんとなくそこにこの物語のヒントがある気がする


蘭の力が発現したのが1年前

俺の記憶がないのも...1年前

田中太郎なんて名前は偽名だ 本当の名前を知らないから 偶然でないのは確かだろう 必然と呼べるかはわからない でもきっと意味がある 探すんだ ここにいる意味を


「ちょっと太郎!彼氏だなんて言わないで!

お父さん単純だから信じちゃうかもしれないのよ!ねぇ 聞いてるの!」

「聞いてるさ」


難しく考える必要はないか

俺はこいつといる ただそれだけでいい


続く





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