第32話心残りを残したまま、卒業を迎える

卒業式、当日。


「卒業生代表、答辞──」

「答辞。春の訪れ──」

答辞をすらすらと言っている生徒会長、倉沢拓実を見つめながら、香河は高校三年間の思い出を巡らせていた。


卒業式を終え、教室に俺を含めた卒業生が戻ってきた。

在校生は、後片付けをしているはずだ。

担任が戻ってくるまで、教室は騒がしいことこの上ない。

俺は、自身の席でまったりとしていた。

「はるっち、四人で食べに行かない?卒業したんだし、どう?」

近付いてきた透が食事に誘ってきた。

「そうだね、いいよ。なっちゃんと倉沢くんだよね、四人って」

「そうだよ。彼女と一緒かと思ったけど、ありがと」

「まあ、夏花ならいつでもいいと思って」

「ふーん、はるっちがそう言うなら。一緒に帰ろうな」

「うん」

透は、友達のもとに戻っていく。

遠野とは難なく話すことができた。二年の冬頃には、今までのことが嘘のように話せるようになった。

生徒会長の倉沢とは、今年になってから仲良くなり、親しい関係になった。


担任が教室に入ってきて、別れの挨拶やクラスメートへの一言など、卒業らしいことをして、卒業アルバムを担任から受け取っていく。

最後に担任を含めて、集合写真を撮った。


解散して、クラスメートのほとんどが教室に残るなか、俺は、教室を後にした。

校舎を出て、まわりを見渡す。

満開の桜が風で吹き飛ばされ、桜の花びらが舞っている景色を見つめていると、後ろから声を掛けられた。

「春ぅっ、大学生になったら私以外の女子と仲良くしないでよ。私の彼氏なんだからねーっ!」

俺は、振り返り声の主──夏花に駆け寄り笑い声をあげて、こたえる。

「はははっ。夏花って心配性だなぁ、夏花以外には付き合おうって物好きいないから安心してよ。夏花が大好きだよ、俺は」

「ありがとう、春っ!約束だからね、春っ!」

抱きついてきた彼女の背中に腕を回して抱き締め返す俺。

「はいはい、分かってるよ。夏花」

「はいは、一回だよ。春っ!」


こんな微笑ましい日常は、いつまで続くかは誰にも分からない。

明るく続いている未来さきを夏花と歩いていけることが、幸せだと想う。

高校生活を終え、未だに神前とは険悪な状態が続いている。

それだけが俺の唯一の心残りだ。

後悔したところで、が生き返ることはない。


人生に正しい選択がどれかなど決まってはいない。

道を踏み外さなければ、どうとでもなれるだろう。







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