第33話番外編むすっとしてた彼女が笑顔に

講義が終わり、早めの昼食を摂ろうと食堂に向かっていると、目の前で楽しそうに談笑している男女を見かけた。

女子は何度も話したことのある、いや、中学の頃に仲の良かった人物で、神前東江だ。

男子の方は何度か見かけた程度で、神前といるところを何度か見たことがある。

彼のフルネームを私は知らない。

神前は、あの頃と同じような無邪気な笑顔を彼に見せている。取り繕った笑顔ではない彼女の笑顔はあの頃と変わらず、素敵に見えた。

ことを知らないあの頃の笑顔はツクレナイかと思っていたけれど──。

何だかほっとした。彼女が心の底から笑えているみたいで。

彼女が彼と別れたのを見計らって、近付き声をかけた。

「東江ちゃん。久しぶりだね、元気そうで良かったよ」

「ああ、。元気......なのかな、私。久しぶりではないよ、度々宇佐見を見かけるし。今さら何、宇佐見」

立ち止まり振り返った彼女は、よそよそしい態度で返してきた。

「態度違うけど、彼との。そんなに睨まないでよ、東江ちゃん。他人をあれほど憎んでたのに、彼にはあれほどまでに心を許してる感じで気になって。よそよそしい態度はきついよ、東江ちゃん......」

「あの頃に戻れるなんて思い上がってんの?多少は丸くなったとは思うけど許さないから、宇佐見......そして私もあの娘に、もう行くよ」

踵を返し、歩きだした彼女を呼び止める。

「待って、東江ちゃん!あのっ......しっ、幸せに、ね......」

私の言葉はむなしく、彼女には届かないようだった。

足をとめることもせず、歩み続ける彼女の後ろ姿はすぐに消えた。


彼女から苗字を呼び捨てにされるのは相当こたえた。


拒絶されるのは、初めてではないけれど神前にはっきり拒絶されるのは、辛いよ......


香河春──ハルもこんな気持ちだったのかな......それはないのか、ハルは欠落してたようだったし。

ハルを思いだし、声を聞きたくなって彼に連絡するためスマホを操作した。


「もしもし。ハル、声が聞きたくなってさ──」

彼の声を久しぶりに聞いて、何故だか分からないが声が震え、涙が溢れだした。

県外の大学にいるであろう彼は、いつも通り──話し相手になってくれる。

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