第30話番外編幼馴染みに抱く想いは今も変わらずに

「東江ちゃん。うまいよ、初めてなのに」

隣にいる奏が笑顔で、できあがったシフォンケーキを褒めてくれる。

「褒めてくれて、ありがとう。奏ちゃん、冷める前に食べよっ」

私は、お礼を言って、シフォンケーキをのせた皿を食卓テーブルに運ぶ。

「うん、そうだね。食べよう、二人で」


食卓テーブルに皿を置いて、向かい合って椅子に腰をおろした。

二人は、合掌して、いただきますと言ってフォークでケーキを口に運ぶ。

「「美味しい~」」

「奏ちゃん、読んでたマンガの続き貸してくれない」

「うんっ。いいよ、食べ終わったら、部屋で読もうっ」

「ありがとう。宿題終わった、奏ちゃん?」

「英語のプリントと数学が残ってるよ。東江ちゃんはどうなの?」

「私も同じだよ、読書感想文もあって、何を読もうか悩んでるんだ。はぁー、多いよね」

「多いよね、嫌になっちゃう。ケーキ、食べ終わったら、一緒にやらない?宿題」

「そのつもりだったんだ、実は」

「手提げ鞄持ってきてたんだったね」

二人は、ケーキを食べ終え奏の部屋に向かう。


英語のプリントの問題を解いていると、奏があることを口にした。


あのさ、東江ちゃんに言いたいことがあるの。私、東江ちゃん──。


◇◇◇

私は、そこで夢から目覚めた。

呼吸が少し、荒いのに気付く。

ああ、奏とお菓子作りをしたあの日のときの夢をみたんだ、私。

お菓子作りが上手い奏に教えてもらって、シフォンケーキを作った日の夢なんてみたことないのに。

「東江さん、唸ってたけど何か嫌な夢でもみたの?」

隣から男性の優しい声が聞こえた。

私は、声がした方に顔を向けると優しい目付きをした顔があった。

「まあ、そんなところです......ったぁぁ」

頭がズキズキと痛み、顔をしかめて小さく声をあげた。

そういえば、昨日は友達に合コンに誘われ、男性に飲まされたな。ビールを。

「無理なら断ればよかったのに。何で飲んだの?」

「怖かったんです、あの顔が。断ろうにも断れないですよ、だって──」

「ああぁ......逆浜って、強面で圧があるからね。僕も距離をとって近付かないでおいて、正解だったよ。ビール飲めそうなのに、東江さん。意外だよ」

「そうですか?二十歳はたちになって二ヶ月ちょっとでそんなに飲めないんです......ここって、あの......浜名先輩の家ですか?」

「ごめん、解散後に酔いつぶれてた東江さんをおいて帰ることができなくて。その悪いとは思ったけど......ほんとっごめんね。何もしてないから、東江さんに」

何もしてないからという言葉を聞き、かけていた布団をどかすと、何も身に付けてない身体が目に映る。

「えっ、私の服はどこにあるの?なんでなんで、脱いだ覚えないよ」

「えっとその......ベッドの下に......」

彼は、気まずそうにベッドの下を指差した。

私は、ベッドからおりて、脱ぎ捨ててある服を掴み、慌てて着る。

「ありが、とう。ごめん、......みせちゃって。ううぅ、あああぁぁっ」

恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいっ、大学の先輩にみられたことが。

私は、羞恥で力が抜けて、その場に座り込み、両手で顔を覆い隠し、泣き出した。

彼の心配した弱々しい言葉が聞こえるが、まともに彼の顔をみれない。

最悪だよぅぅ、涼香のせいで。

もうもうもうっっ、ほんとに嫌だよ。

涼香ってば、ほんとにもうっっ!

友達を誘っておいて、酔いつぶれた私をおいて帰るか普通?


彼は、泣き崩れた私に水を渡してくれた。


私が、幼馴染み──香河春に抱いている憎悪に似た感情を友達に向けることになろうとは。

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