第28話【10000PV突破記念】番外編恋人を待っていたところ──

俺は、講義を終え食堂に向かっていた。

男女四人とすれ違う。一人の男子が二人の女子に小突かれていた。


食堂の席はちらほら空いていた。頼んだ物が出てきて、トレーを窓際の席まで運ぶ。

トレーをテーブルに置いて、腰をおろして、合掌して、箸で肉じゃがのじゃがいもを口に運んでいた。

女子が正面の椅子に腰かけてきた。

「あれあれ~春くんがいつになくきめてるねぇ~。彼女といちゃつくご予定なのかなぁ~羨ましいぃぃっなぁっ!」

女子は毛先を弄り終え、ひとさし指をたてて円を描くように動かした。

「麻井か、そうだよ。嬉しいことにね。モテそうなのに彼氏がいないなんてな、可哀想に」

俺は、摘まんでいた唐揚げを一口で食べる麻井に返した。

「ほんとかわいそうな私。って春くんは高校生の頃からモテてたんだよね」

身を乗り出して、聞いてきた。

「モテてたって言ったら、嫌な奴じゃん。モテてたって言えないよ、俺は」

「実際にモテてたんだから。私から見て、春くんの三人はモテてたって思うけど......したことないし、私」

だから、はカウントされないって。したことないよ、俺も。経験ないの、麻井って。意外だな、言われてそうだけど。」

「言われてたよ、この容姿だったから。もう死んじゃいたい、なんて思うことはいつもだったよ。でもからなぁ......

表情が暗くなり、最後に無理やり笑顔にした彼女。

「大変だったんだな、麻井。妬まれもしたんだろ、女子から。幸せになれるといいな、麻井」

「春くんと友達になれていることが幸せだよ。ありがとう、春くん。。夏花ちゃんと付き合ってなかったら、春くんと付き合って隣で笑いあって、結婚までしたかったのに......だよね。私じゃ」

彼女は、切ない表情のまま、笑みを浮かべた後に涙を流した。

「......そう、だな。その気持ちは嬉しいけど......」

「同じ高校だったら、早く出逢えていたら......付き合えてた、だろうな」

「そうだったら、麻井は

「春ぅ、ごめんね。遅れて......って三里先輩、泣かされたんですか?」

夏花が駆け寄って謝ってから、麻井に気付き心配した声をかけた。

「ううん。羨ましいよ、夏花ちゃんが。またね、結婚したら、連絡は必ずだよ」

そう言い残し、彼女は、トレーを返却口に返すため椅子から立ち上がり歩きだした。

「何したの、春。三里先輩に」

麻井が座っていた椅子に腰かけた夏花が鋭い眼光を向けてくる。

「付き合いたい......って言われたんだ」

「そんな感じとは思ってたよ、胸が苦しいよ。今からどこ行く、春?」

「そうだな──」


俺と夏花は、食堂を後にして、大学を出た。



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