第18話癒しを求める

俺は、神前と別れた後に視詩乃みしのさんと30分ほど会話を続けた後に会計を済ませ、喫茶店を後にした。

視詩乃さんは、俺が注文した物を運んでくれた女性だ。

ショッピングモールで、夏花が部活を終え、訪ねてくるまでの暇潰しで来ていた。

本屋に立ち寄り、漫画の新刊コーナーを眺めていた。

特にこれといった漫画がなかった。

ラノベコーナーで、一冊だけ気になったのを手に取り、レジに向かう。

会計を済ませ、本屋を後にした。

小腹が空いて、一階にあるミスドに向かうことにした。

ミスドが見えてきたところで、こちらに歩いてくる一組のカップルが目についた。

気付いてないフリをしようと、目線を逸らした。

女子の方が、会話を遮り、大声で名前を呼んできた。

「あれっ、ハルじゃん。おーい、私だよー」

腕をぶんぶんと左右に振り、満面の笑みを浮かべ、彼に構うことなく、駆け寄ってきた。

彼女の胸が大きく揺れていて、周りにいたカップルや男性が食い付いていた。

「ちは~、ハル。無視なんて酷いなぁー、5年も付き合いのある私に。それはないよっ~、傷ついた~」

俺には、彼女が傷ついたように見えなのだけど。

「傷ついたように見えねぇけど、悪い。デートしてんだろ、彼と」

「そうだね~、退屈過ぎたからハルに会えて救われたよっ」

笑顔で、付き合っている彼とのデートを退屈って言いやがった。

「退屈って。彼にめっちゃ睨まれてるし。刺されないかな、俺」

「だいじょっっぶぅっ。私がいるからねっ」

「元凶が大丈夫って言っても説得力ないんだけどっ!」

「まあまあ。前々から気になってたけどさぁ、ハルってモテんよねぇ!何でモテ始めたの?」

笑みを浮かべた顔を近付け、腕を身体の前で伸ばし、ひとさし指を俺に向けながら、器用にひとさし指で円を描きながら聞いてくる。中腰になり、前屈みで胸を主張しているように。

かすかに、ブラが見え......

「えっとぉ......モテてるなんて自覚はないんだけど。そうか?」

「無自覚モテ男ってかぁっ!ハルはぁ~」

叫んで、嘆き始める彼女。

両手で顔を覆い、呻き始めた。

面倒臭いのに絡まれたと今更思う俺だった。

「無自覚モテ男って、嫌なんだけど」

「事実でしょーがぁっ!可愛い後輩ちゃんといちゃラブしてるし、元カノもいるんだからっ!」

「その二人だけだよ。付き合いがあるのは」

でしょ!だけって、だけって言うなぁー」

俺は、叫び狂う彼女に付いていけないでいた。

俺の前だけ何だよな、彼女がいろんな表情をするのは。

彼女──宇佐見みえなは、中学からの付き合いで、中高でクラスが別れたことがなく、5年も一緒にいる女子だ。茶髪のミディアムショートで多少色気を感じさせる。クラスでは、属したグループで嫌われないように他人ひとの意見に同調している。

「おーい。みえな、そろそろ行かね?」

彼が宇佐見の肩に手を置いて、促す。

「いくぞー、俺をのけ者にして──」

彼は、彼女を引きずっていく。

「ハルぅー、まだハルとはな──」

もう最悪だよ。これで夏花の機嫌が悪ければ──。

ミスドの前にできていた列にならぶ。






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