第17話喫茶店で幼馴染みと

翌日、9時過ぎ。

喫茶店に入り、特等席であるカウンター席に近付くと見覚えのある女子がすでに座っていた。

来ないと踏んで、訪れたのに遭遇するとは。

間隔をあけて座りたいがあいにく、隣に座らざるをえない。

カウンター席でないと落ち着かないので譲れない。

俺は、彼女の隣の椅子に腰をおろした。顔見知りの女性の店員が気付き、「いらっしゃい、春くん。いつものだよね」、と言って奥に向かう。

隣からため息が聞こえたと思ったら、「最悪、同じ空気を吸う羽目になるなんて」、と愚痴を吐いてきた。

サクッと食パンをかじるいい音がした。

「何じろじろ見てんの、ほんとっきもいんだけど!男子はこれだからっ」

彼女を一瞥しただけなのに、じろじろはおかしいだろ。

「じろじろ見てねぇっつうの。神前は......」

小声で返して、言いかけた言葉をのみ込む。

「何っ、お前は何を言おうとしたの?はっきりしてくんない、イライラするんだけど」

「......それじゃ、言わせてもらうけど何で俺を目の敵にするの?」

深いため息を吐いて、再び睨み付けてこたえた彼女。

「私は、お前が嫌いだ。大嫌い。なんでなんでなんでなんで忘れられるのっ!私は、一度たりとも忘れたことはない。私は、この憎しみが消えるなんてことはない、そう確信してる。お前がへらへら笑ってるのが気に食わない、恐怖に歪んだ顔にしてやりたいと思ってる。お前が楽しそうに両親、友達、恋人と笑っているのが無性に腹立たしい、潰してやりたい、壊してやりたい──お前が笑えて彼女が笑えないこの世界が憎い、塵になって跡形も亡くなればいい。お前も、あいつもあいつもあいつも──こんな私も。亡くなれば、あの娘は許してくれるかな......」

息継ぎなしのまくし立てられた、並々ならぬ嫌悪と憎悪を伴った言葉に思考がうまく回らない。

高揚していた彼女は、最後には哀しみを抱いた声音で親愛していた、いや親愛している相手に向けた言葉を口にした。

俺に向けられた彼女の敵意、悪意、殺意が入り交じるが射ぬいた。

俺には返せるような言葉がない。

「......」

「ごちそうさま」

彼女は、手を合わせ呟き、レジで会計を済ませた。

「謝ってくれないんだね、

そう言い残し、喫茶店を出ていく神前。


今になって、ようやく思い出した。何故、あれほどのことを忘れていたのだろう。確かに手を貸さなかった。確かに彼女の手を握らず、断った。神前の頼みを。


神前と彼女は、いつも一緒にいた。神前が頼み込んできたときにはもう手遅れだった。俺が手を貸したところで。


「お待たせ。春くん......ってどうしたの、具合でも悪くなった?」

「いつも通りですよ。いただきます」

「春くん、隣にいた彼女と話したの?」

俺は、初めて彼女に嘘をついた。

ティーカップに口を付け、ダージリンを口に含んだ。

神前のせいで、味が感じられなかった。





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