第13話不機嫌な彼女
翌日。
俺は、夏花を見かけ、声をかけたが無視されてしまう。
めげずに、彼女の教室まで行き彼女が座る席の机に顎を置いて、話しかけた。
「夏花ぁ、夏花さーん。聞いてますか、ねぇ、怒らすことしたかな。俺」
弄っていたスマホを机に置いて、返事もせず、顔を逸らし窓に視線を移した。
「夏花、本当に心当たりがないから教えてくれない?」
無視を決め込んでくる。
徐々に頬が膨らんでいく。
無視されるような、怒らすようなことをした覚えがない。
不機嫌な彼女は、人を近付けさせないオーラを漂わせていない。
立ち上がり、前屈みになり彼女の顔に近付き、頬にキスをする寸前に掌で口を塞がれる。
「そういうのは、嫌」
身体に悪寒がするような、低い声で拒絶された。
「ごめん」
俺は、首の後ろを手で触れ謝る。
「......」
教室に漂っていた空気が、黒く濁っていくのを感じとり、教室を後にした。
どうすればいいのだろう。
俺は、席で頬杖をつきながら、夏花にメールを送ろうと文面を考える。
「悩み事かな?」
机に手を置いて、声をかけてきたのは学級委員長の心彩だった。
「まあ、そんなとこだけど。あいつ見ませんでした?」
「見てないよ。この時間にいないのは珍しいよね、寝坊したとかじゃない?」
「あいつに限って寝坊はないと思うけど」
「意外に真面目だしね。授業中、居眠りもしないしね。SHR始まるからスマホはポケットね」
「わかってるよ」
昼休み。
廊下を歩いていると、夏花と親しい真瀬愛海と出くわす。
「真瀬さん、夏花が口を聞いてくれないんだけど。どうしたらいいかな?」
「香河先輩、こんにちは。そうなんですか、そういえば......いつもなら香河先輩の話題を出してくるのに、今日は一度も聞いてないですね。それにいつもより低い声で、ぴりぴりしているというのか、そんな感じでした。そうですね、抱き締めるというのはどうですか?」
「ああ......そうなんだ。別のはないかな?」
「うぅん、キスをするというのは?」
小さく唸り、提案してきた。
「その類い以外でお願いできるかなっ!」
「その反応は既にしたんですね。香河先輩のキスでだめでしたらあれしかないです」
察して、苦笑いを浮かべて、鋭い目付きを向ける彼女。
「あれとは何ですか、真瀬さん?」
「しゃがんでください、香河先輩」
彼女に言われた通り、しゃがむと耳打ちされた。
ごにょごにょ、とされて、こそばゆい。
「それだけでいいの?」
「はい。それにしても珍しい。もしかして夏花を押し倒し──」
「してないからっ!いくらなんでもそこまでする度胸はないよ」
「しませんよね、香河先輩は。夏花が好きになった彼氏ですから」
彼女の強い信頼に胸が痛い。
満面の笑みが胸を抉ってくる。
「どうしたんですか、香河先輩?」
「何でもないよ。教えてくれてありがとう、真瀬さん」
俺は、目的を果たすため駆け出す。
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