第10話元カノのわがまま

本屋を出たところで、後ろから呼び止められた。

「春くんっ!ありがとう、最後にわがまま言ってもいいかなぁ......」

俺は、足をとめ振り返り、笑顔でこたえる。

「言っていいよ。なっちゃん」

「私を......抱き締めてほしい」

「いいよ」

俺は、彼女の前まで歩みより、彼女の背中に腕を回して優しく抱き締める。

「はる、くぅん。ううう、はるっはるぅごめん。ごめん、ごめん、ごめんね。自分勝手で、わがままな女でっはるぅくん。あああああああぁぁぁぁ」

「謝らなくていいんだよ。なっちゃん」

俺は、彼女が泣き止むまで抱き締め続けた。

塞き止めていた想いが溢れだした彼女の身体に温もりが伝わるように抱き締め続けた。


彼女が泣き止み、声をかけた。

「一人で帰れる、なっちゃん?」

「もう......大丈夫、だから。春くん、私を好きでいてくれてありがとう。とても嬉しい。私も好きだから、春くんのこと。春くんと付き合ってた時間がとても幸せだったんだよ、私」

「俺もなっちゃんと付き合えて幸せだったよ」

「春くん、本当にありがとう」

そう言って、儚い微笑みを浮かべて一筋の雫が頬を伝い、地面に落ちた。

「佐井川さん伝いで、言ってもいいから。佐井川さんは、なっちゃんのこと心配しているから。佐井川さんを悲しませないであげて。もう行くよ」

「うん」

俺は、歩きだした。彼女が追いかけてくることもなく、胸が苦しいままだった。

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