第9話元カノに贈る想い

翌日。

ショッピングモールの本屋で、漫画が並んでいるコーナーで悩んでいた。

棚に並んでいる一冊を取ろうとしたら、漫画やアニメのシチュエーションのように他人ひとの手と触れあう。

「「ごめ、んな......」」

謝りあって、気付く。

「えっ、なっちゃん?」

「は、春くん......」

相手は、遠野凪沙──元カノだった。目を逸らして、当たり障りのない言葉を呟く。

「少女漫画も読むんだったよね、春くんって......」

「......うん。なっちゃんもこのシリーズ買ってたよね、今度買うからいいよ。はい、なっちゃん」

俺は、漫画を彼女に手渡した。

「ごめんね、春くん。じゃ──」

「待って、なっちゃんっ!」

走り去ろうとした彼女の腕を掴み、呼び止める。

「はっ、はな......しっ、てぇっ」

俺の手を振り払おうと抵抗する彼女。

「言いたいこと、あるんだよ。なっちゃんに」

「前に、も......言ったよ。だめだって......春く、ん」

「聞いたけど。一分だけ時間を俺にくれない?なっちゃんの」

「うん。逃げないから、離して。春くん」

「ごめん。付き合ってたときの笑顔......じゃなくて、今までの笑顔が見れないって聞いたよ」

彼女は、俺に向かい合う。

「えっ......誰から、聞いたの?」

「佐井川さんから。それで、俺の本音を言って......いい、かな」

「う、うん。ほ、んね?」

彼女は、小さく頷いて聞く。

「なっちゃんは、素敵な女性だよ。別れてほしいって言われたときも、今でもなっちゃんのことが好きだよ。それは揺るぎない事実なんだ。俺が何とか出来るならしてやりたいけど、無理なんだよな。無理でも無理なりに、少しはなっちゃんの心の支えになれることがあったら、言ってくれ。話せないなら、メールでもいいから。俺は、いつでもなっちゃんの心の支えになるつもりだから」

彼女は、泣きじゃくり、涙と鼻水でくしゃくしゃになった顔を両手で覆っている。

俺は、最後に彼女──遠野凪沙にもう一度想いを伝える。ストレートな言葉セリフで。

俺は、今でもなっちゃんのことが大好きだよ。それだけは伝えておきたかったんだよ、と言い切り、彼女をその場に残して、本屋を後にした。


俺は、一筋の雫が頬を伝うのを感じながら、なっちゃん──遠野凪沙の泣き顔と嗚咽混じりの泣き声は、に焼き付いて今後、忘れることはないだろうと想う。

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