第7話元カノの今──
放課後。
俺は、夏花の教室に迎えに行くと、すぐに夏花が駆け寄ってきた。
「春ちゃん先輩、わざわざ迎えに来てくれたんですか?嬉しいです」
「帰ろうか」
「はい」
俺が歩きだすと、隣を夏花が歩く。
ぎこちない会話を続けた。
昇降口を出て、校門が近付いてきたところで後ろから聞き覚えがある声がした。
「凪沙の彼氏、元カレの香河じゃん。モテるね、彼女かな?その娘。今帰り?」
「なっちゃん......とは別れているんですけど。そうです。」
「凪沙、さん?」
「何でもないから。えっとぉ」
「佐井川だよ、よろしくね。香河。ちょっと借りていいかな、彼女さん?」
「は、はい......」
「行こっか、香河。凪沙のことで」
「......夏花、すぐ戻るから。待ってて」
「はい」
佐井川の後ろをついていく俺。
佐井川は、歩くスピードをゆるめない。
昇降口の外の壁に近付き、スカートから飴を取り出し、
「あげるよ、はい」
と言って、掌に飴を握らせる佐井川。
「ありがとう。この場面をどこかで......」
握らされた飴を見ながら、デジャブを感じた。飴は、ピーチの味だった。
「『キミスイ』のことじゃない、それ」
「ああ、そうか。それで話って?」
佐井川が『キミスイ』を知っていたことに驚いた。声はあげなかったが。
壁に寄りかかる佐井川を見つめる。
「凪沙さぁ、香河と別れてから笑わないんだよね......」
俺は、どう返すのが正解なのかわからず黙る。
「正確にいうと笑うことはあるけど、前までの笑顔じゃないって感じなんだ。香河は、何もしてないって言ってんだけど......なんかねぇ。悪いけどさ、凪沙とより戻してくんないかな。お願い、香河。もう凪沙のあんな顔みたくないんだよ」
今にも泣きそうな佐井川。声が震えている。握りしめている手は、震えていた。
「なっちゃ、遠野さんが別れたわけを話してくれないし、話したらだめらしい。遠野さんは、拒絶したいとは感じないけど、何かあるらしい。今の俺には......難しい、というか無理だと......思う。ごめん......なさい、佐井川さんには申し訳ないけど。ほんとっごめん、佐井川さん。待たせてるから、じゃあ。遠野さんをよろしく、お願い......佐井川さん」
俺は、佐井川をその場に残し、走り去る。後ろでは、佐井川の悲痛な声が聞こえた。
俺には、無理なんだ。ごめん、佐井川。
そして──なっちゃん、ごめん。
俺は、夏花のもとに戻る。
「せん、ぱい......さっきの人は......」
「え......っと、帰ろう。夏花」
俺が、歩きだそうとしたらシャツを引っ張り、ひき止め、優しく包み込んでくれているような気持ちにさせてくれる。
夏花の言葉にはそう感じさせられた。
「......う、うん。春ちゃん先輩、泣いていいですよ。かっこわるいなんて、思いませんから」
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