7 The world is a fine place and worth the fighting for.

第四十三話 空へ…

 サ・ルアーガ・タシア王国の外れにある渓谷へとヴァンに道案内されたさくや達は、そこで巨大な飛行船を見た。

 円筒を横に倒したような形状の船体の下部には、車輪のついた豪華な儀装馬車のようなゴンドラが取り付けられていた。

 船底型で全体は赤く、縁は金色で装飾され、同側面には金色の星型紋章が見られる。


「これが俺の飛行船だ」

「岩石竜くらいに大きいですね」


 リョーマのつぶやきにさくやもうなずき、ヴァンとボラの後に続いて乗り込んだ。

 ゴンドラ内は意外と広く、座席が設けられている。天井も高く、四人が座っても広々とした空間だった。

 前列の運転席にヴァン、隣の助手席にはボラが座る。

 後部座席にさくやとリョーマが腰掛けた。

 ヴァンが手元のレバー動かすと、左右に大きく揺れ、ふんわり浮遊感に包まれる。


「かなり揺れるんだな。大丈夫か」


 窓から外を見ながら、何気なくボラがつぶやく。

 慌てて機械犬が、後頭部めがけて飛び蹴りをくり出した。


「一番気をつけなければならんのはお前だ、ボラ。うっかり落ちるとホラを吹いただけで実現するじゃないか」

「意図的にホラを吹こうとしなければ発動はしない。機械犬は気にしすぎだ」


 蹴られた後頭部をさすりながら、ボラはヴァンに声をかける。


「こう見えても高いところは苦手なんだが、落ちたりしないよな」


 ボラの言葉の後、ガクッと、急に全体が沈んだ。

 きゃーと声を上げて、さくやとリョーマは機械犬を間に挟んで抱きあう。


「気流の乱れで揺れただけだ。安定したら静かなもんだし、落ちたりしない」


 はははと高笑いをするヴァンは、飛行艇をさらに上昇させた。

 窓の外には斑に浮かぶ雲の群れが浮かんで見える。


「天空城がどこを飛んでいるのか、ヴァンは知っているのか」


 機械犬の問いかけにヴァンは首を横に振った。


「天空城は、はるか上空を飛んでいる。飛行船でもたどり着けない」

「どうするのだ?」

「約束の日時に飛行船でも行ける高さにまで降りてきてくれる。今回は、星のダイスを運んでいることをジャーク・ローヒーはすでに知っている。なので、こちらから接近しなくても向こうから降りてくるのさ」

「なぜ知っているとわかるのですか?」


 今度はリョーマが尋ねた。


「詳しい原理は俺も知らない。聞いた話によれば、星のダイスは普通では聞こえない特殊な音を発しているらしい。その音を感じ取れるのは王家の血を引く者だけなのだが、古代の遺物を用いればわかるそうだ。さすがに実物は見せてもらっていないが、ジャーク・ローヒーはそれを持っている」


 さくやは思い出す。ケロッチに操られていたリョーマが、異世界より転移してきた翌日には、星のダイスを奪いに学校に乗り込んできた。あのときケロッチは、星のダイスがどこにあるのかがわかる古代の遺物を使っていたのかもしれない。


「古代の遺物ってなに?」


 さくやが質問を投げかければ、リョーマが説明してくれた。


「二千年よりも前に栄えたゼオン王朝時代に生み出された数々の秘宝のことです。いまのわたしたちよりも遥かに文明が進んでいたといいます。御伽噺として語り継がれており、数多の城塞都市が空を飛んでいたといいます」

「マジで?」


 リョーマは首を縦に振る。


「大主教ジャーク・ローヒーの天空城イ・ナ・コス・アは、古代の遺物と言われています」

「へえ、この飛行船もひょっとして」

「残念ながら違う。俺の飛行船は、古代の遺物を参考にして作られたものだ」

 

 忘れるところだった、と思い出したようにヴァンはボラとリョーマに小さな包みを渡した。


「場内に入る際、いまもケロッチに操られていることにする。目の下や周りに黒墨を塗っておいてくれ」


 包みを開けると、炭粉が入っていた。


「これって、わたしも?」


 塗り始めた二人をみて、さくやはヴァンに尋ねる。


「怪しまれず入るには塗っておいてくれ」

「ケロッチに操られてないんだけど」


 ぼやきながら、リョーマに塗ってもらう。

 入城したら速攻で落とそう、さくやは心に決めた。


「俺様は、星のダイスをジャーク・ローヒーに渡しに行かねばならない。その間に囚われの王女様を救出してくれ」

「どこに囚われているのかわかっているのか?」


 機械犬の問いにヴァンは首を横に振った。


「わからない。さすがの俺様でも、場内を気兼ねなく散歩できるほど歩いたことはないんでね。かつては城塞都市と同じ規模の広さだったが、長い年月で崩れ落ち、いまは王城並みの広さとなった。とはいえ、くまなく探すには時間がかかる」

「だったら、星のダイスを使えばいい」


 ふふん、とさくやは笑い、思いついた考えをみんなに発表した。機械犬は嫌な顔をするも、王女様のためならばと首を縦に振った。

 願い終えたさくやは、ヴァンから小箱を渡される。

 指輪を入れておくような立方体の小さい箱には、花柄の装飾がなされていた。


「一応、献上するのだからそれらしい箱を用意した。それに入れてくれ」


 言われたとおり、星のダイスを小箱に入れてヴァンに渡した。


「ボラとリョーマは俺様と一緒についてきてくれ。王女様を逃がす時間を作るために暴れてもらう」


 ヴァンが言い終わったとき、正面の窓に見えていた積み重なる大きな雲から突如、巨大な物体が突き破るように現れた。

 靄の中に浮かぶ天空城はまるで、雲海に囲まれた山城のように空に浮かんでいた。

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