第三十九話 一点突破
「……というわけで、お願いね」
ホワイトエンジェルは耳打ちし、ブラックエンジェルは静かにうなずいた。
ヴァンは星のダイスを握り、懐にしまい入れる。
「一戦交えようというわけか。たしかに、ブラックエンジェルはボラ将軍に勝ったが、俺様は負けていない。いいだろう、ホワイトエンジェル。俺が勝ったら、我が願いを叶えてもらう」
「わたしが勝ったら、星のダイスを返してもらうから」
「承知した」
間合いを計りながら互いに距離を取っていく。
ホワイトエンジェルが白いアンブレラを握りしめると、機械犬が耳元でささやく。
「これ以上戦えば、星の子達が切れて変身が解けるぞ」
「あと一撃くらいは撃てるよ、たぶん」
「ヴァンは武器商人だが、戦場を渡り歩いてきている。並みの傭兵よりも強いぞ。変身が解けたら、普通の夢野さくやに戻ってしまい、ヤツの攻撃を魔法では守ってくれなくなる。怪我ではすまないんだぞ」
「でも、星のダイスが使えるわたしを殺しはしないでしょ」
「その甘さと油断が命取りになりかねん」
心配してくれてありがとう、ホワイトエンジェルは機械犬の頭を優しく撫でた。
ヴァンは腰に下げている紅蓮の剣をすらりと抜く。
その剣をみて、機械犬が吠えた。
「それはドッグ・セイバー! どうしてお前がっ」
「いいことを教えてやろう。機械犬を異世界に飛ばしたあと、残されたこの剣を報酬としてジャーク・ローヒーから譲り受けたのだ。長い間手に入れたかったのだが、どうしても機械犬が売ってくれなくて」
「誰が売るかっ」
鋭いツッコミをするも、傲慢なヴァンの高笑いにかき消されてしまう。
「というわけで、めでたく俺が手にしたわけだ。機械犬の弟子であるホワイトエンジェルよ、ドッグ・セイバーの力、とくと味わうがいい!」
威勢のいいヴァンの声が合図となった。
ホワイトエンジェルとブラックエンジェルは視線を合わしてうなずくと、左右に別れて駆け出した。
先制攻撃をしようと走り出しかけていたヴァンは、意表をついた二人の動きに視線を奪われ、思わず出足が鈍る。
遠ざかっていくブラックエンジェルではなく、向かってくるホワイトエンジェルに対応すべく、剣を握る右腕を内側に巻き込むように構える。
「たぁーっ」
軽く腰を落とす姿勢で一歩前へ、素早く突き出してきた。
ホワイトエンジェルは思わず、ひーっと声が漏れでる。
咄嗟にヴァンの右側へ避けると、左脚を軸にしながら上半身を右回転。体をひねりながらアンブレラで横殴る。
ヴァンは剣を振り上げ、左拳でアンブレラを受け止めた。
攻撃を止められた瞬間、ホワイトエンジェルは腰と足に力を入れ、大きな円を描くように右足でヴァンを蹴り飛ばす。
ヴァンは地面に転がるも、すぐに立ち上がった。
「やるなっ」
体制を立て直したヴァンは再度、腕をしなやかに伸ばす突きの連撃を仕掛けてきた。
一歩、また一歩と後ろへ下がりながらギリギリで切っ先をかわし、アンブレラを構えてワンタッチボタンの押した。
開くと当時に光の障壁が発生。ヴァンの突きを弾き返す。
「その傘は、盾の役割か」
「便利でしょ」
「だったら突破するまでだ!」
三度、ヴァンは連続突きを繰り出してきた。
アンブレラで攻撃を防ぐも、光の障壁が弾け飛ぶ。
「星の子達の力が切れた!」
機械犬の叫びと同時だった。
アンブレラの布を突き破って、ヴァンの連撃がホワイトエンジェルを襲う。
「獲ったぁーっ」
ヴァンが剣を振り上げ、まとわりつくアンブレラを振り払い、踏み込んでとどめの一突きを刺す。
「――なにっ」
いるべき場所にホワイトエンジェルの姿がない。
剣の切っ先が届く前に両膝を九十度に曲げ、両腕を振り上げて飛び上がっていた。
地面から足が離れると同時に顎を上げつつ、上体を反らす。腹筋で両足を振り落とし、背筋で上体を引き上げていく。着地の勢いのまま、バク転を続けて三回。
あっという間にヴァンから距離を取った。
「ホワイト殿!」
ブラックエンジェルが助走しながら叫んだ。
握っていたのは、拾いに行った黒いアンブレラ。
地面に対して平行に構えて引き、軸足の左脚に体重を乗せ、腹筋に力を入れながら体を反らしていく。
右腰を中心に右半身を動かし、腹部に伝えてきた力を胸、右肩へと伝達。ホワイトエンジェルがいる方向に向けて脇をみせるようにしながら肩を入れ、右足を踏み出すと同時に腕を振り投げる。
一直線に飛んでいくアンブレラ。
受け取る瞬間まで、ブラックエンジェルは飛んで行く方向から視線を離さなかった。
「サンキュー」
ホワイトエンジェルは、語尾を上げるように礼を叫ぶ。
受け取る勢いのまま、空中で背面宙返りを一回転。
上空に暗雲が立ち込め、雷鳴がとどろき出す。
ヴァンの技を思い出しながら、アンブレラを握る腕を内側へ巻き込むようにひねって構える。着地と同時に身をかがみ、地面を蹴ってヴァンめがけて勢いよく飛び出した。
「一点突破、ホワイトライトニングシュートッ」
腕を内側へと切り込むようにひねりながら、アンブレラを突き出した。
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