第四十一話 奪還の道筋
「……凄いじゃないか」
さくやにゆっくり歩み寄り、ヴァンは声をかけた。
「傷ついた兵士達全員を全回復させ、あっさり帰国の途につかせた。星のダイスの力は本物だ。ならば、この世界から争いをなくすのも造作も無いはず。さあ、願ってくれ! 俺の代わりに」
「だから、それは無理だって」
さくやはきっぱりと言い切った。
納得がいかないヴァンは再度尋ねる。
「なぜだ?」
「いまのは、わたしが心から願ったから叶ったの。逆を言えば、心より思っていない願いは実現しないよ」
「お前は、争いのない平和の世界を望んでいないのか?」
さくやは首を横に振った。
「望んでる。でも同時に、争いすべてがなくなるとは思っていない」
「なぜだ?」
武器商人ならわかると思うと前置きをして、さくやはゆっくり説明をし始めた。
「剣や銃が消えたところで弓矢や大砲が代わりとなるよね。それらを消しても、科学や魔法が武器に用いられ、いずれは包丁やナイフ、石ころでさえ武器として使いだす。使い方次第では、文字や言葉でさえ凶器となり得てしまう。それに、対立する者同士の力が拮抗するから争いが起きるのであって、争いのない世界というのは強者が弱者をねじ伏せている世界か、生存競争をする生物のいない無の世界かのどちらかだよ」
そこまで言うと、ヴァンの表情が変わった。
唇まで青ざめた顔色は血の気を失っている。
さくやは、とどめとばかりにひと押しした。
「敵味方関係なく武器を売りながら対立を長引かせてきたくせして、世界平和を願っているなんて度し難い馬鹿としかいいようがない。マッチポンプは素敵なお仕事ですね」
言い終えて様子を伺ってみるも、ヴァンは黙ったまま下を向いている。
マッチポンプの意味がわからなかったかもしれない。
自作自演かヤラセといえばよかったと反省しつつ、うなだれているヴァンの姿勢から真意は伝わったはずだと、さくやは確証した。
きっと今の彼は、自分のしてきた行為がいかに愚かであったか振り返っているのだろう。
無理もない。
とはいえ、このままでは見るに忍びない。
争わずに平和を模索するには話し合いしかない。互いに強力な武器を持ち、いがみ合う双方の関係がこじれているのなら、第三者に仲立ちを頼んで妥協点を探すか、互いに距離をおいて会わないようにするかのどちらかだ。
この世から争いをなくそうなんて、たやすく実現できない。だから、神頼みのごとく星のダイスにすがりたくなるのだろう。
「そうだ、あと一つ残ってた」
思い出したさくやは、三つ目の願いを口にした。
「機械犬よ、元の姿に戻るもに☆」
「おー、マジでか!」
とお、と掛け声上げて機械犬はさくやの肩から飛び降りる。空中で前回りを一回転。華麗に決めて着地したのに、なんの変化も起きなかった。
それでも、期待しながらみつめるリョーマ。
「まだ戻りませんね……機械犬殿」
「さくや、戻って欲しいと思っていないのか?」
涙目の機械犬をみて、さくやは笑ってごまかそうとする。
「おっかしいな……。いまの小動物サイズのイヌが気に入ってるのは確かだけど」
星のダイスを使っても戻らなかったショックを知って、機械犬は倒れてしまった。こうなったらふて寝してやると丸くなってうつ伏せてしまう。そんな機会犬の頭をを、リョーマはそっと撫でた。
さくやは息を吐く。
「以前、試したことがあって、そのときもやっぱり叶わなかった。イヌのことをもっと知っていて、心から元に戻って欲しいと思っている人が星のダイスを使えば戻れると思うんだけど……たとえば王女様とかね」
王女様、とさくやが発した言葉に機械犬は顔を上げた。
「そうだ。カスミ王女様なら、戻してくれるかもしれない」
「そうそう、わたしが駄目でも、王女様ならヴァンの願いを叶えてくれるかもしれないよ」
王女様、とさくやが発した言葉にヴァンも顔を上げた。
「……王女様? おぉーっ、たしかにカスミ王女様ならば叶えてくれるかもしれない。では、みんなで助けに行こう!」
そんな簡単に助けに行けるか、と機械犬が吠えまくる。
「でも武器商人のヴァンなら、天空城の出入りも許されているはず。そうだろ」
ボラの言葉に、ヴァンは大きく頷いた。
「もちろんだ。俺様を甘く見てもらっては困るぞ。ジャーク・ローヒーも、武器を購入していただいている大切な顧客の一人だからな。商売のつながりから、飛行船に乗って奪還した星のダイスを届けに行く約束もしている」
「ならば、それを利用して助けに行けるかもしれない!」
機械犬は、鼻息荒く声を上げた。
盛り上がっている彼らを他所に、さくやは三つ目の願いをこっそり口にする。
「戦闘で壊された街道や城壁、街並みよ、戻れもに☆」
陥没したりえぐれたりして荒れた街道が、みるみるうちに修復されていく。崩れた城壁も崩れる前に戻っていった。いまごろは、王都内の石造り建築も修繕されているに違いない。
戦うだけが魔法少女の務めではないのだ。
「カスミ王女様、か。どんな子だろう」
さくやは、澄み渡った空を見上げた。
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