第三十七話 矛盾撞着な世界
突き上げるような衝撃と同時に爆発が起こった。
全身を貫くほど強烈に揺さぶられ、ひっくり返るボラ将軍は、思わずわーっと声を上げる。
足場がぐらついて割れ、体が沈む。
掴んだ土塊も砕けていく。
いきなり陥没したのだ。
崩れていく地面から抜け出そうと、這いつくばってもがきながら、それでも必死に斜面を這い上がっていく。
何度滑り落ち、土砂に飲み込まれかけても、諦めずにあがき続けた。
そんなボラ将軍を他所にして、回転しながら空中に飛び上がったブラックエンジェルは、ホワイトエンジェルの傍に着地した。
「あれ、体が軽い。自由に動ける。さっきまで足が重たくなっていたのに……どうして」
腕を振り上げて後ろ見たり、足を上げて飛び跳ねたりして、ブラックエンジェルは自分の動きを確かめる。
「ブラックは、ホラ吹き使いのボラの術中にかかっていたのだ」
機械犬はホワイトエンジェルの肩の上で声を上げた。
「ホラ吹き使いってなんですか?」
「大げさについた嘘が事実になるという、チート能力。局所的で回数制限ありの限定された能力みたい。というわけで、アイツとは距離をとって戦いなさい。電撃の魔弾を撃てるようにしておいたから」
ホワイトエンジェルから閃星銃を渡される。
「ホワイト殿、ありがとうございます」
ブラックエンジェルは、目の前にできた巨大な窪地から這い上がってきたボラ将軍に狙いを定め、引き金を引いた。
銃口から渦巻く稲妻が迸る。
ボラ将軍は、咄嗟に左手の盾で防ごうと構えたが、強力な電撃が直撃。その場に膝を付き、崩れるように倒れた。
ホワイトエンジェルは両手を打って、子供のように喜んだ。
「さっすがブラック。百発百中の腕前ね」
「ホワイト殿が電撃の魔弾を込めてくれたおかげです」
「さて、決着が着いたところで」
ホワイトエンジェルは、馬から降りようとしている見極め役のヴァンへ向かって歩き出す。ブラックエンジェルも後に続いた。
「貴公らの勝ちだ。俺様としては、ボラ将軍には是非とも勝って、魔法少女の力を借りたかったのだが仕方あるまい。勝者の権利として、君たちはなにを望むのか」
「よお、ヴァン。久し」
肩に乗る機械犬がしゃべりだした瞬間、ホワイトエンジェルは躊躇なく手で口を塞いだ。慌ててヴァンに背を向け、もがき暴れる機械犬を顔の前に持ってくる。
「黙ってよ!」
「いきなり塞ぎおってっ」
「あいつも敵なんでしょ。ケロッチといいボラといい、イヌの仲間はみんな敵になってるやん」
ホワイトエンジェルの言葉に言い返せず、機械犬はおとなしく口を閉じた。
改めて、ヴァンと向き合う。
「わたしたちはジャーク・ローヒーから王女を救い出すために来ました。どうせあなたも、ジャーク・ローヒーの手先に成り下がってはるんやろ」
ホワイトエンジェルが問いかけると突然、ヴァンは高笑いをはじめた。
「俺が? よしてくれ。俺様は武器商人。敵味方関係なく欲しがる客に武器を売るのを生業としている。王国の不可視の障壁を破ったのはボラ将軍の能力のおかげであって、俺ではない。近隣諸国が結託して行った王国壊滅連合軍に手を貸し、カスミ王女を誘拐するために王城破壊の手伝いもしたが、ジャーク・ローヒーの手先ではない。俺様の願いは世界平和。この世から争いを消し去ることなのだから」
ホワイトエンジェルは肩に乗る機械犬を掴み、顔の前に持ってくる。
「コイツ、馬鹿なの?」
「どうだろう……昔からこういうヤツだったと思うが」
「だって、世界平和を願っているといいながら、ジャーク・ローヒーに手を貸して争いを起こしてるやん。矛盾してる! 阿呆をとおり越したド阿呆の上いく真性の馬鹿とちゃう?」
傍で聞いていたブラックエンジェルは眉をひそめ、ホワイトエンジェルの耳元に囁く。
「ホワイト殿。平和が何かは人の数だけ存在する不確かなものです。争いをなくせば平和になるわけではありません」
「そうね、ブラックの言うとおり。争いを起こす人たちは政治や経済などの合理的な理由があってはじめるものだよね」
「だとすると、あの武器商人ヴァンは、争いを終わらせたい合理的な理由があることになります」
機械犬の発した言葉から、その理由をブラックエンジェルと一緒にホワイトエンジェルは考えてみたが思い浮かばなかった。
「人形相手になにをゴチャゴチャ言っているのか知らんが、この世において武器商人だけが、矛盾撞着を言っても許されるのだ」
言い切るヴァンの言葉に、ホワイトエンジェルは目を向けた。
「だから俺様は堂々と言える。争いが嫌い。すべての兵器が嫌い。傭兵も嫌い。争いを嫌いながら子を設けて戦場に送り出す奴らも嫌い。自分でも思いもしない悪魔の行動をとってしまう武器が嫌い。勝敗のニュースを聞きながら飲み食いして騒ぐ連中も嫌い。そんな嫌いな連中に武器を売る俺自身も大嫌いだ! だからこそ、争いのない平和な世界を願うのだ。この愚かで馬鹿げた世界を、お前の手で変えてくれ」
ヴァンは懐に手を入れてから二人の魔法少女に拳を突き出した。
ゆっくりと手のひらを開いていく。
そこには、星のダイスが光り輝いていた。
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