6 Courage is grace under pressure.
第三十六話 打成一片
前のめりにボラ将軍の懐に飛び込んだブラックエンジェルは、アンブレラを下から右上へと振り上げる。
刹那、ボラ将軍が一歩身を引く。
かわすよりも速く振り上げた切っ先が、ボラ将軍の頬をかすめる。
ブラックエンジェルは振り上げた勢いのまま飛び上がり、後方へ一回転。一連の流れの中で蹴り上げた。
つま先でボラ将軍の顎をすくい上げるも、そのまま足首を掴まれる。
「――っ!」
目を見開くボラ将軍。握る手に力を込めて、ブラックエンジェルの足首を捻るように放り投げた。
頭から落ちる瞬間、アンブレラを持たない片手をついて受け身を取り、ブラックエンジェルはなんとか体制を立て直す。
「なかなかやるじゃない」
離れた場所で二人が戦っている様子を見ながら、ホワイトエンジェルは閃星銃の側面にある突起部分を親指で引き、横に振って回転式弾倉を取り出した。
「ボラが敵軍の将となっていたとは……因果なものだな」
ホワイトエンジェルの肩にしがみついている機械犬が顔を上げる。
「知り合い?」
「戦友だ。惚けた事を言う愉快なヤツではあるが、敵にすればかなり厄介だ」
「気づいてる? アイツのパンダ目」
ホワイトエンジェルの指摘を聞いて、機械犬がうなずく。
「目の周りの黒ずみのことか。間違いなくケロッチに操られているのだろう。しかもかなり長い間」
「やっぱりね。だから厄介なの?」
「いや、ボラは剣の使い手ではなく、ホラ吹きの使い手なのだ」
ホワイトエンジェルは、取り出した空の薬莢を思わずこぼしてしまった。慌てて拾い上げる。
「なにそれ。ボラだけにホラ吹きって、ふざけてるの?」
「ふざけてはいない。ヤツの吹くホラは現実になるのだ」
ホワイトエンジェルは薬莢に電撃の魔弾を込め終えると、一発ずつ回転式弾倉に入れていく。
「嘘が現実に?」
「もちろん、回数も使用範囲も限定的だ。使える時間もごくわずかだが、その間だけ、ボラの思うがままとなる」
「うわーっ、チートやん。ちなみに制約はどれくらい?」
「一日に五回。使用範囲は槍が届く距離くらいだ」
「使える時間は?」
「息を止めていられるほどだと聞いている。すでに使い切っていてくれると助かるのだが」
そうねとつぶやくホワイトエンジェルは、閃星銃に魔弾を込め終えた。
ブラックエンジェルは振り下ろされてくる剣をアンブレラで受け止めては、後ろへ飛び跳ねる。かわしてもかわしても、どういうわけかボラ将軍の剣の一振りが先に襲い来ていた。
「破壊のガンナーと呼ばれながら、魔法少女というおかしな者になって傘を振るうか。リョーマよ、堕ちたものだな」
「なにっ」
薙ぎ払う如くボラ将軍の大振りの一撃が迫る。
かろうじて受け止めるも、威力に押されてそのまま弾き飛ばされた。握っていたアンブレラを離し、後方へ回転。地面に両手をついて舞い上がった。空中で体を捻り、ボラ将軍の位置を確認しながら体制を立て直す。
「使い慣れていない武器で、我に勝てると思うな!」
着地する瞬間を狙って、ボラ将軍が切り込んできた。
振り下ろされる一瞬、ブラックエンジェルは身を横にひねりながら、相手の手の甲めがけ蹴りを入れた。
弾いた剣が宙を飛ぶ。
ブラックエンジェルは、受け身も取れず、そのまま地面に落ちた。勢いのまま転がり撥ね、慌てて起き上がる。
「くっ……」
肩を上下に動かして苦しそうに呼吸しながら顔を上げた。
剣を拾い上げるボラ将軍の呼吸は乱れていなかった。変わりに、ウヒヒと笑って口角を上げる。
「おやおやおや、どうかしたようだな。足が鈍くなってきたか。立っているのがやっとだな。いま楽にしてやるから、そこでじっとしていろよ!」
一歩ずつ近づいてくる。
ブラックエンジェルの膝が震え、片膝をついてしまう。手をついて立ち上がろうとするも、顔すら満足に上げることができなかった。
「どうしたブラック!」
ホワイトエンジェルが声を上げる。
「どうやらボラの術中にかかっているらしい」
肩に乗る機械犬が冷静に答える。
「マジか? どうしたらいい?」
「術が効いているあいだはどうすることもできない。使用範囲外に逃げるか、効果の時間切れまで耐えることができれば勝機はあるのだが……」
「こうなったらわたしが撃つ!」
ホワイトエンジェルは閃星銃を両手で持って構えた。
「銃を撃ったことは?」
「ない!」
ホワイトエンジェルは、はっきり言い切った。どうすれば当たるのか教えてと機械犬に尋ねるも、止めておけと言われてしまう。
「使ったことがないのに命中させるのは難しい。そもそも、閃星銃が扱えるのはブラックだけ。引き金を引いても撃てない」
「それを先に言ってよね」
銃を構えるのをやめたホワイトエンジェルだったが、息を大きく吸い込んでありったけの声で叫んだ。
「諦めるなっ!」
ホワイトエンジェルが叫んだとき、ボラ将軍が剣を振り上げる。
暗雲に覆われていく空。
にわかに辺りが薄暗くなっていく。
「これが最後だ。覚悟しろっ」
剣を振り下ろそうとしたとき、ブラックエンジェルは右腕を高く突き上げた。
「打成一片、ブラックフラッシングパンチ」
振り上げた拳を、激しく地面に叩きつけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます