第二十三話 帰還の道筋
『魔法の扉をつくりだし、その扉をくぐることで別の世界にいけます。ただし、魔法の使用者が一度でも行ったことがある場所でない限り、移動できません』
さくやは『魔法少女に変身される皆様へ、安全活躍BOOK』に書かれてあった文言を機械犬とリョーマに見せた。
読み終えた三人は、互いの顔を見つめた。
「これはどういう意味なのかな?」
さくやは、ずいっと機械犬の顔に近づく。
「つまり、一度訪れたことのある場所にしか転移できないってことだな」
機械犬は自慢げに後ろ足で立ち、前足をあげた。
「つまり、どういうこと?」
さくやはリョーマの顔に目を向ける。
「さくや殿が、わたしたちの世界に来たことがあれば、転移できるということだと思います」
リョーマは困り顔のまま愛想を浮かべた。
二人を交互に見たさくやは、腕を組み、深く息を吐いた。
「なるほどね……それって、つまりどういうこと?」
聞かなくてもわかっていることを、さくやはわざわざ二人に尋ねた。
リョーマは口を閉じてうつむき、機械犬へと視線を送る。
「さくやが転移魔法を使っても、サ・ルアーガ・タシア王国には行けないってことだ」
何度もうなずく機械犬。
そんな機械犬をむんずと掴むと、さくやはベッドへ放り投げた。
ぬわあああああああああー、と嘆き声を上げながら仰向けに落ちたのをみて、リョーマも天井を見上げながら絨毯に寝転がった。
小さな希望が、一瞬で見えなくなったのだ。
「こういうとき、お腹がすいてるからいい考えが浮かばないんだよね。なんか食べよう」
さくやは持ってきた惣菜パンの一つ、元祖ビーフカツサンドを寝転んだままのリョーマに手渡した。
鼻をひくひくさせて匂いをかぎ、何気なく一口かじる。すると、がばっと飛び起きた。
「なんですかこれ! さくや殿、おいしいです」
「でしょでしょ。パンはさっくり焼いてあって香ばしいし、ビーフカツなんて二枚も入ってる。しかも柔らかくてふわっと噛み切れる食べやすさ。ソースは甘辛くも酸味の効いたトマトソースがつかわれてて、これがカツの美味しさを引き立たせてるんだから」
口に頬張りながら、さくやはふんわりオムレツサンドやフレンチクロワッサン、クリームパンなどもリョーマに勧めつつ、いっしょに頬張っていく。
機械犬はベッドの上から恨めしそうな目でみながら、涎をたらしていた。
「中身は違っても、見た目はAIBOなんやけど……」
大丈夫かなと気にしながら、さくやは小さくちぎっては機械犬の口に入れてみた。
食べるたびに、これはウマウマだーと声を上げ、脚をバタつかせてベッドの上で転がる。その姿にさくやとリョーマは思わずわらってしまった。
さきほどまでの暗鬱とした空気が一変、穏やかになったところで、さくやは説明書を読み返してみた。
「そういえば、リョーマの銃って魔法の弾が撃てるんだよね」
「はい、そうですけど……なぜ急に」
どうしていま聞くのですかと言いたそうな顔をするリョーマに、さくやは両手を突き出した。
「ちょっと見せて」
リョーマは机の上に置いた黒光りする銃を手に取り、さくやに手渡した。
ずっしりとした手応えに思わず落としそうになる。
「こんな重いものをよく扱えるね。見た感じ、こっちの世界にもありそうな形状の銃だよね」
「名前は閃星銃。現在の持ち主であるわたしだけが引き金を引ける、専用の銃です」
リョーマは親指で突起部分を引き、銃を横に振って回転式弾倉を外した。
「六カ所の穴が開けられた回転式弾倉に星の子達が魔弾を装填してくれることで、いちいち再装填せず続けて撃つことができます。一日に六発。その際、気まぐれで爆裂弾を装填することがあり、威力は絶大です」
「ロシアンルーレットか、なかなか危険ね。あっ、だからわたしと戦ったとき、一発だけものすごい火力がある弾を撃てたのね」
回転式弾倉に装填されていた銃弾を取り出し、空の薬莢をひとつ、さくやに手渡した。
「これに星の子達は魔力を込めるのか。特定の魔法も」
預からせてねと断りをいれて、さくやは机の上に空の薬莢を置いた。
「銃弾は空だったはずなのにケロッチを撃てたのは、さくや殿が星のダイスをつかったせいなのですね」
「まあね。魔弾が撃てるってことは、リョーマは魔法使いなの?」
「いえ、わたしは」
「リョーマは魔法が苦手なんだ。だからわたしが閃星銃を貸し与えたのだ」
ベッドで仰向けに寝そべる機械犬が、リョーマより先に答えた。
「わたしの師匠、機械猫様から形見わけで頂いたもので、かつて何者かが星のダイスの願いによって生み出した銃だと聞いている。師匠亡きいまとなっては、詳しいことはわからんが」
「イヌの師匠がネコなんて、おかしすぎ~」
突然、さくやはお腹を抱えて笑い転げた。
機械犬とリョーマはなにがそんなにおかしいのか、わからなかった。
「でも、これで二人の世界へは、なんとか行けそうね」
「まじか、さくや!」
「本当ですか、さくや殿」
体を起こして声を上げる二人に、さくやは笑ってうなずいた。
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