4 Think of what you can do with that there is.
第二十二話 転移の魔法
「友達を泊めるから」
帰宅した夢野さくやは、母親に報告するや自室にリョーマを招き入れた。
「狭苦しいところですがどうぞどうぞ。まず制服を脱いで。かわりをすぐ出すから」
クローゼットを開け、なるべく大きめのサイズのゴスロリワンピースを選び出す。
リョーマは部屋の棚に並べられた魔法少女のフィギアの数に圧倒されながら、ひとまず銃を机の上に置き、言われるまま制服を脱いでいく。
「どうしてあのとき、銃が撃てたのでしょうか」
「星のダイスを使ったから」
さくやは、褌下着姿のリョーマに着替えを渡した。
ついでに錫杖で殴られた頭部の様子をみる。
「血は出てないけど、コブができてる。イヌ、他に怪我をしてないか見てあげて。保冷剤もってくるから」
「うむ、わかった」
機械犬が肩からぴょーんと飛び降りると、さくやは部屋を出てキッチンへ向かった。
リョーマはワンピースを頭からかぶり、袖に腕を通して着替えていく。
その様子を、機械犬は首を上げながら舐めるような視線を向けて見ていく。
「膝を擦りむいている。他に痛いところはあるか?」
「大丈夫です、機械犬殿。それより、わたしは二度もさくや殿に助けられたわけですね」
着替え終えたリョーマは、機械犬を前に腰を下ろした。
「しかも、わたしを助けるために星のダイスを奪われてしまいました。なんとお詫びすればいいのでしょう」
「さくやはその点も考えて行動していた。ケロッチに渡すと見せかけて星のダイスを振り、『3』の出目を使ってリョーマを助け、逆転の一手を作り、帰還の手段も作ったのだ」
「どういうことですか?」
リョーマが問いかけたとき、さくやが部屋に戻ってきた。
山盛りの惣菜パンとジュースが注がれたグラスと保冷剤を載せたトレーを机の上にそっと置く。
「これで頭冷やしてね」
さくやは保冷剤をリョーマの頭の上に乗せた。
落ちそうになるのを、リョーマは慌てて両手で押さえる。
「りんごジュース、よかったら飲んで」
さくやは笑顔でグラスを差し出した。
受け取るリョーマ。
さくやが飲むのを見てから、リョーマも口をつけた。
「わたしの分はないのか?」
機械犬が催促してくる。さくやは細目でじっと見つめ、自分のりんごジュースを差し出した。
「AIBOなのに、飲んでも大丈夫なの?」
「見た目はこんなんだが、中身は烈火の戦士、機械犬。飲むぐらい造作もない」
本当かな、と疑いの目を向けつつ、さくやは機械犬に一口飲ませてみた。
急にガタガタとおかしな身震いを始めたので、それ以上飲ませるのを止めた。
「ほかに怪我したところは?」
「膝を少し擦りむいていたが、ほかは大丈夫そうだ」
機械犬の言葉をきいて、リョーマに膝を見せてもらう。
「血が滲んでるじゃないの」
さくやはリョーマの両膝に絆創膏を貼り、他に怪我をしていないか確認していく。左手の小指に切り傷を見つけ、そちらにも忘れず絆創膏を巻いた。
「さくや殿、尋ねたいことがあるのですが」
「なにを知りたいの?」
「星のダイスのことです。わたしを二度も助けていただき感謝しています。ですが、敵の手に奪われたのは、わたしのせいです。機械犬殿は、ケロッチに渡すと見せかけてさくや殿がダイスを振り、三つの願いをしたと言ってます。ほんとうですか?」
「まあね」
「星のダイスを取り返すために帰還できるのですか?」
リョーマの問いかけには答えず、さくやは脱いで置かれたままの制服を広げて裏表を確かめる。
「あー、わたしの制服がボロボロになってしまった」
汚れは洗濯すれば落ちるが、ほつれた箇所は縫わなくてはならない。
「裁縫、苦手なんだよね。こんなとき、ラパパッて魔法が使えたらいいのに……そうだ」
チュチュバッグから『魔法少女に変身される皆様へ、安全活躍BOOK』と書かれた説明書を取り出し、ページを捲る。
心なしか、ページが増えて分厚くなっていた。
「攻撃魔法以外、よく読んでいないんだよね……おっ、回復魔法がある。星の子達が溜まったら試してみよう」
「さくや殿、帰還の方法があるなら教えて下さい」
さくやはりんごジュースを口に運び、ページを捲って息を吐いた。
「おっ、あった。転移魔法」
さくやの言葉に、リョーマと機械犬は身を乗り出す。
絨毯の上に説明書を広げ、さくやは読み始めた。
「えーっと、なになに……『転移魔法について。この魔法をつかうことで、どこでも自由に行き来できるとってもすてきな魔法です。過去現在未来、異世界にさえ行けますが、たくさんの星の子達を使います。使用前には充分な星の子達を貯めることをおすすめします』だって」
「これだ。この魔法なら、星のダイスを奪い返しに行ける」
機械犬は、嬉しさのあまり高らかに吠えた。
「お母さんに見つかるでしょ」
さくやは強引に機械犬の口を塞いだ。
「大変です」
説明書の続きを読んでいたリョーマが声を上げた。
「見てください。『魔法の扉をつくりだし、その扉をくぐることで別の世界にいけます。ただし、魔法の使用者が一度でも行ったことがある場所でない限り、移動できません』って書いてあります」
さくやと機械犬は慌てて説明書を覗き込み、三人は互いの顔を黙って見つめた。
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