第十八話 結界の中へ
「撃てない銃を構えても、威嚇にならないケロ」
銃を構えるリョーマに向かって、錫杖を振り回してケロッチが迫ってくる。
全力で振り下ろされる錫杖の一撃。
リョーマは左手に握る銃で受け止め、払いのける。すぐに下からすくい上げるような二撃目がリョーマを襲う。
「たあーっ」
リョーマは左足で錫杖を蹴り飛ばすも、複数の輪がついている錫杖の先端部分が頭上を襲った。脳天を突き刺すような衝撃に膝から崩れ落ちていく。
「一日に六発しか撃てないお前の銃は、星のダイスを手に入れるために戦い、今日の分を撃ち尽くしている。しかも剣を失ったお前など、赤子をひねるほど容易いケロ」
錫杖で突かれたリョーマは倒れ、銃が転がり落ちた。
「機械犬から奪い取った星のダイスを渡せケロ」
ケケケケ、と笑うケロッチは足蹴りしながらリョーマを仰向けにさせ、喉元に錫杖をグイッと突きつけてきた。
「わ、渡さない!」
リョーマは錫杖を掴み、払いのけようとする。
だが、渾身の力を込めて上から押さえられているせいで退かせなかった。
「くっ、諦めろ……ケロッチ」
「何故だケロ」
「手に入れても……異世界に飛ばされたわたしたちには戻る方法がないし、星のダイスも使えない。星のダイスの力で戻ろうとしても無駄なんだ」
リョーマは失望と怒りをまぜた荒い声を上げた。
だが、ケロッチはケケケケと不気味な笑いをこぼした。
「……まさか、戻る方法が他に?」
「当然だ。我は期限付きの転移魔法で異世界に来ているのだ。時間が来たら帰還できる。但し、帰れるの俺っちだけケロ。お前は操って連れてきた荷物に過ぎない」
「に、荷物だと」
「気に食わないなら道具と呼んでもいいケロ。さあ、星のダイスを渡せ。おとなしく渡すのなら、道具として一緒に連れ帰ってやるケロ」
リョーマは、ケロッチをにらみながら必死に思い出そうとしていた。
じぶんは一体、いつからコイツに操られていた?
屋上で目を覚ますまでの記憶が、すっぽり抜け落ちている。
刀を握り、銃を撃った感覚もなにもかも。
思い出した記憶は、随分と遠い。
大主教ジャーク・ローヒーの天空城イ・ナ・コス・アが、サ・ルアーガ・タシア王国上空に現れるという知らせが入り、機械犬をはじめとする王国の戦士たちが王城へ集まるよう召喚状が配られた。
もちろん、リョーマの手元にも届けられた。
あのとき、召喚状を持ってきたのは、ケロッチだった。
渡されたとき声をかけられ……その後が思い出せない。
「さあ、渡すケロ」
リョーマの気が緩んだ瞬間。
ケロッチは錫杖を振り回し、シャラララーンと鳴り響かせた。
リョーマの目が虚ろに変わり、錫杖から手が離れていく。
「ようやく精神制御の術がかかったか。二度目ともなると、術のかかりが悪くなるのは仕方ないとはいえ、手こずらせおって」
ケロッチはリョーマの顔を引っ叩いた。叩かれたリョーマの顔には、怒りの表情すら浮かばない。
「さて、星のダイスを渡すケロ」
操られているリョーマは、肩にしがみついているAIBO姿の機械犬をそっと差し出した。
「なんだ、それは」
「……機械犬殿です」
「これが? 哀れな姿になったものだな」
ケッケッケケケケー、ケロッチは高笑いをしながら、機械犬の首根っこを掴んだ。
「うるさい、ケロッチ。好きでこんな姿になったのではない」
もがいて暴れるも、AIBOの短い手足では虚しく空を切るばかりだった。
「すべてはジャーク・ローヒーの呪いのせいだ」
「さすがジャーク・ローヒー猊下。そんなことより、星のダイス『もに☆もに』を出すのだ」
「誰がお前に渡すか!」
☆ ☆ ☆ ☆
ようやく五条大橋にたどり着いたさくやは、すぐに異変に気がついた。
どういうわけか、人も車も渡ろうとせずに五条大橋を避けていく。
橋の中央に目を向けると、リョーマと錫杖を持った修行僧の姿をみつけた。しかも、修行僧は両足をばたつかせるAIBOを掴んでいる。
間違いない、あれは機械犬だ。
「ということは、あの修行僧がもう一人の刺客?」
「渡っちゃ、だめ」
橋に足を踏み入れようとするさくやは、追いかけてきた香織に肩を掴まれた。
どうしてと振り返ると、香織は虚ろな顔で夢遊病者のようにフラフラと立っていた。しかも目の下に黒いシミのようなものが見える。
「まさか、操られている? あの修行僧がもってる錫杖が結界を張っているのかも」
さくやは推測し、疑問が浮かんだ。
なぜ、平気なのか?
思い当たることがあるとすれば、唯ひとつ。
じぶんは魔法少女だからだ。
変身してなくても特殊な力が働いているに違いない。
これが、星のダイス『もに☆もに』の力なのか?
「普通の人が誰も近づけないってことは、橋の上で変身しても気にされない。つまり、誰にもバレないってことね」
黒い日傘を畳んださくやは、ぼんやりしている香織を橋の手前で座らせた。
「大人しく待っててね。すぐに終わらせてくる」
チュチュバッグを五条大橋の親柱傍に置いて、せーので駆け出す。
「いっくよ~、へーんしんもに☆」
さくやは走りながら右手を前に突き出した。
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