第十二話 一発必中

「とおーっ」


 魔法少女に変身したさくやは、開いている窓から外へと飛び出し、空中で前回りをしてアンブレラを開き、グランドにふわりと着地した。

 一瞬のうちにアンブレラを畳んで右手から振り返り、傘を握る右手を腰に構え、左手を突き出すや、重心を左脚に持っていきながらすぐに左手拳を腰に構え、アンブレラを持つ右手を前へ振り回して手前に引き寄せつつ、左手は指を伸ばして顔の前で腕を交差させるタイミングで右足に重心をかける。


「魔法少女!」


 左手を引き抜きながら腰を左に回し、アンブレラを握る右手を体の前で左へ振り下ろすやすぐに右上へと突き上げた。


「ホワイトエンジェル!」


 ポージングを決めながら名乗りを上げて魔法少女ホワイトエンジェルに変身したさくやは、校舎三階の窓に立つ追っ手の侍を見た。


「決まった」 


 拳をぐっと握りしめて、ホワイトエンジェルは喜びを噛みしめる。

 辞書を片手に散々悩んで決めた魔法少女の名前を叫び、登校前に鏡の前で何度も練習した変身ポーズ。まさに、魔法少女の見せ場である。


「ここまで完璧にできたにもかかわらず、お披露目の場が学校内だなんて……正体バレたかも」

「油断するな。来るぞ」


 ホワイトエンジェルの耳元で機械犬が叫ぶ。


「わかってる」


 当然のように編み笠をかぶる侍も窓から飛び降り、グランドを駆けてくる。腰に差す刀の柄を握り、抜こうとしていた

 アンブレラを握るホワイトエンジェルは、先端の石突きを空に向けて構える。

 上空に突如として雲が立ち込め、辺りが薄暗くなっていく。

 遠くで雷音が聞こえだすと、アンブレラの石突きをめがけて雷が落ちてきた。

 凄まじい雷がアンブレラに集約されると、抜刀して迫る侍へ振り降ろして叫んだ。


「一刀両断、ホワイトライトニングスラーッシュ!」


 雷撃が、侍の動きを封じて刀を叩き折り、編み笠を燃やし尽くした。

 膝から崩れ落ちる相手の顔をみて、機械犬が吠えた。


「おまえは、リョーマ!」


 耳元で大声出されたホワイトエンジェルは顔をしかめる。


「知り合い?」

「破壊のガンナー・リョーマ。仲間の一人だ。無事だったのはうれしいが、どうしてわたしを襲うのだろう」


 仰向けに倒れたリョーマの顔を、魔法少女ホワイトエンジェルと機械犬は覗き込む。髪を後ろに束ねるあどけない少女の目元には、黒いシミのようなものがついていた。


「異世界で流行ってるメイク?」

「いや、これは……以前見たことがある。間違いない。目元の黒いやつは何者かに操られている印だ」

「寝不足のときにできるクマじゃないの? そうでなければファンデかチークの塗り過ぎか、太陽光の反射の眩しさを抑えるアイブラックとか」


 触ろうと手を伸ばしかけたとき、リョーマの目がパッと見開いた。

 ホワイトエンジェルは慌てて飛び退き、距離をとって身構える。


「軽く飛んでだいたい十メートル。さっすが魔法少女、すごい力ね」


 リョーマは生まれたての子馬のようにゆっくり起き上がり、立ち上がろうとしていた。


「油断するな。来るぞ!」

「大丈夫だって。相手は刀。しかも叩き折ってあげたから。こっちは遠距離魔法をぶっ放せば勝てる」

「ちがう、あいつは」


 機械犬が言いかけたとき、リョーマは懐に手を入れる。

 取り出したのは黒光りするハンドガン。

 躊躇なくホワイトエンジェルに向けて引き金を引いた。


「マジっ!」


 ホワイトエンジェルは咄嗟にアンブレラを開く。

 魔法少女になれば『魔法が使えるだけでなく、強度、腕力、脚力などが通常の八百万倍になる』と説明書にも書かれていた。


「そんな弾丸、簡単に跳ね返しちゃうんだから」


 リョーマの撃った弾丸はアンブレラをたやすく貫通。

 ホワイトエンジェルの耳元をすり抜けていった。


「いっ! 魔法少女アイテムでも跳ね返すはずなのに、なんて破壊力っ」

「あいつの銃弾には抗魔法が付与されている。魔法少女といえども、当たれば怪我ではすまない」

「そういうことは先に言って」


 耳元で説明する機械犬に言い返しながらアンブレラを畳み、ホワイトエンジェルは駆け出した。

 引き金を引き、銃口が火を吹く。

 ホワイトエンジェルは必至に目を凝らす。

 銃弾が止まって見えるわけではない。

 リョーマのハンドガンの銃口をみながら、飛んでくる弾丸の軌道を予想して、横ひねりや側転、ハードルや跳び箱を飛び越えるように小さくジャンプしながら交わして接近していく。


「星のダイスを渡せ!」


 ホワイトエンジェルがしゃがんだ瞬間、リョーマは引き金を引いた。

 発射された弾丸の軌道を避けるため、ホワイトエンジェルは思い切りジャンプした。

 グラウンドに着弾と同時に爆発、土が大きく抉れる。


「ひょおわあああああーっ」


 ホワイトエンジェルの肩にしがみつきながら、機械犬が情けない声を上げていく。

 高く舞い上がったホワイトエンジェルは空中で身を翻し、三回転半。グランド中央に立つリョーマの位置を確かめる。

 いつの間にか、ホワイトエンジェルのはるか頭上に黒い雲が立ち込め始めていた。

 稲妻がほとばしる。

 凄まじい雷が魔法少女の靴に集約され、引き金を引いているリョーマめがけて降下し、ホワイトエンジェルは叫ぶ。


「一発必中、ホワイトライトニングキークッ」


 白き閃光がリョーマを直撃した。

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