第七話 始まりの夜
「次のニュースです。本日午後、京都四条河原町の交差点でものすごい爆発が起きました。交差点の道路は陥没し、周辺店舗にもかなりの被害が出ました。通行していた車や歩行者の多くが巻き込まれ、負傷者は少なくみても五十人近く出た模様です」
テレビ画面には壮絶に破壊された交差点が映し出されていた。
パトカーや消防車のサイレンが点滅し、道路に陥没したアスファルトがみえる。
「爆発が起きた時、このあたりはかなりの人通りがあったそうです。その中での大惨事に巻き込まれたのですが、亡くなられた方はいないそうです。それでは現場から伝えてください」
画面が切り替わり、マイクを手に持つリポーターの周りには人だかりができていた。Vサインをしたり飛び跳ねたり、手を振りながら携帯をかけている姿もあった。
「この爆発の原因は未だにわかっていませんが、地震や事故ではないというのが専門家の意見です。おそらく隕石が落ちたのではないかという見解が高まっています。ある目撃者の話によれば、爆発は二回あったらしく、一度目は突然交差点で爆発が起き、二度目は落雷だったようです」
切り替わり、顔を隠してインタビューに答える女子高生の映像が映し出された。
「たまたま通りかかったんですけど、そのときは爆発のあとでメッチャ人が集まりはってて。そのとき急に空が暗くなってきたなと思ってたら、ずどんって地響きするくらい落ちてきたんです」
再び、リポーターが画面に映される。
「自然現象だろう、というのが大半の見方のようです。ただ二つほど問題がありまして、一つはクレーターの中に人影を見たという目撃証言です。一人はお坊さんで、もう一人は侍だったということなんですけど、確認はとれていません。立ち入り禁止となっている現場には自衛隊も駆けつけていましたが、現在は警察が入れないようにしています」
「二つということですけど、もう一つはなんですか?」
キャスターの問いかけに、イヤホンを押さえながらリポーターは答える。
「交差点上空に浮かんでいた何か、を見たという証言が複数あることです。残念ながら撮影した人は誰もおらず、確認はできていません。ですが、白い姿をしていたという証言もあり、天使かもしれないと言う人もいます。どちらにせよ、今回の不可思議な現象は、自然現象で片づく見込みです」
「もし自然現象なら、隕石はみつかっているのでしょうか?」
「現在のところ、そういった情報は入ってきてません。ただ、クレーターの規模は小さいので、隕石自体それほど大きくないだろうというのが専門家の話です。小さい隕石だと落ちた衝撃で砕けてしまい、周りの砂などに紛れてわからなくなることが多いそうです。ですので発見するのは難しいと思われますね」
中継が終わると、次のニュース原稿をキャスターは読み始めた。
テレビを見ながら夕食の鱧の湯引きを食べていたさくやは、茶碗に残っているご飯を口に入れ、お茶で流すように飲み込むと、そそくさと部屋へとむかった。
扉を閉めると、さくやはベッドに居る機械犬を見た。
「な、なんかすごいことになってるんですけど」
「それより、あの一撃をかわして追っ手連中が逃げたことの方が問題だ。仕損じたのはまずかった。わたしが近くにいることを、ヤツらに知られてしまった」
「あんたが撃てって言ったからじゃない。どうすんのよ!」
さくやは機械犬の首をつかんでぐるぐると振り回す。
目が回るからやめてくれー、という声で手を離した。
ぽーんと宙を飛ぶ機械犬。
ベッドの上にくるりと着地した。
「乱暴だな。大丈夫だ、まだヤツらも我々のことを知っているわけではない」
「それはそうだろうけど……そうだ、もう一個願えるんだった」
さくやは星のダイスを振ったとき、出目が「2」だったことを思い出す。
「もとに戻してあげる」
「マジでか!」
さくやは立ち上がり、右手の人差し指をベッドの上でおとなしく座る機械犬に、左手の人差し指は天井を指差して願いを叫ぶ。
「機械犬よ、元の姿に戻るもに☆」
十秒……二十秒……、と時間だけが過ぎていく。
なんの変化もないことにしびれを切らしたさくやは、おとなしく座るAIBO姿の機械犬を指でつついた。
「元に戻った?」
「……戻ってないようだ」
機械犬は深い息を吐いた。
「星のダイスを振ったら、すぐに願いをいわないと効果がなくなるのかな」
試しに別の願いをしてみる。
「今日の学校の宿題を片付けるもに☆」
こんなことで宿題が終わるわけないとつぶやきながら、ノートをめくってみた。すると今日出題された範囲の問題がすべて、解答が書かれてあった。
「これは、どういうことだ?」
機械犬の問いかけに、さくやは一つの答えを導き出す。
「星のダイスを振った人が、心から願ったことは叶うんじゃないかな。イヌになる前の姿をわたしは知らないから、心から願いようがないしね」
「漠然と願っても叶わない、ということか」
そういうと、そそくさと布団の中へと潜り込み、機械犬は眠りについた。
「はやくお風呂に入りなさい」
という母親の声に、
「はーい」
さくやは顔をほころばせながら部屋を出る。
これからどうなるんだろうという不安よりも、念願の魔法少女になれたうれしさでいっぱいだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます