挿話 静樹水織は期待する


 駅前のカフェで友達と別れて、私は今日も重い足取りで自分のマンションへと帰ります。


 ユカちゃん、マリコちゃん、それからミキちゃん。

 いつも私と一緒にいてくれる友達。

 オシャレで、明るくて、でもちょっとだけ、ほんのちょっとだけ苦手な、私の友達。


「……ただいま」


 家のドアを開けて、部屋に帰り着きます。

 カバンをリビングに置いて、そのまま洗面所に向かいました。


 私は外から戻ると、決まってすぐにシャワーを浴びます。

 化粧を落として、身体を洗って、元の地味な私に戻るんです。


 髪を乾かして、いつもの部屋着を着て。

 これが、本当の私。

 ありのまま飾らない、背伸びもしない静樹しずき水織みおりです。


「……ふぅ」


 倒れ込むようにソファに寝転んで、天井を見ます。


 今日もお疲れ様です、私。

 よく頑張りました。

 おいしいものを食べて、ゆっくりしましょうね。


 スマホから、『イツイツ』という出前サービスで、夜ご飯を注文します。

 今日は何にしましょうか。


「……ピザは身体に悪いですよねぇ」


 おいしそうだけど、我慢我慢です。

 放課後によくみんなでカフェに行くので、ご飯は控えめにしないといけません。


「うーん……」


 ところで、最近私の生活にちょっとした……いえ、あまり小さくない変化がありました。

 同じクラスの男の子と、仲良くなったんです。


 ……仲良くなったんでしょうか?

 彼の方は、そうは思ってないのかもしれません。

 ひょっとして、私の一方的な思い込みでしょうか?


 とにかく、全然話したこともない、目を合わせたこともなかったかもしれない男の子と、話す機会が急に増えました。


 最初は、ホントにどうしようかと思いました。

 クラスの子に、あの油断した姿を見られるなんて。

 イツイツはたしかに便利ですが、ああいうことがあると、少しだけ使うのが怖くなったりもしてしまいます。


 だけど彼は……蓮見はすみ悠雅ゆうがくんは、とっても変な男の子でした。


 学校ではいつもひとりでいて、全然目立ちません。

 私も、暗いのかな、とか、怖いのかな、と思っていましたが、実際は全然そんなこともなくて。


 それに、私の地味な姿を見ても、そんなのなんでもないみたいな顔で、ちゃんと誰にも言わずにいてくれています。


 うん、やっぱり変な人です。


 それから蓮見くんはよく、私の注文を受けてくれます。

 初めはそれも嫌だったのに、今では蓮見くんが来ると、ちょっと安心する私がいたりします。


 学校で目が合うようになったり、漫画を貸してあげたりもして……。

 なんだかやっぱり、仲良くなってるんじゃないでしょうか?


 蓮見くんは正直、クラスではちょっと浮いています。

 馴染めてないというか、受け入れられてない感じです。

 確かひとりだけ、別のクラスの男の子と友達みたいですが。


 もう二学期も終わりなのに、大丈夫でしょうか……。

 余計なお世話かもしれませんが、やっぱり少し気になってしまいます。


 だって、蓮見くんはすごく……うん、すごくいい人です。


 私が風邪で倒れた時も、わざわざ上がり込んで助けてくれました。

 女の子の家に入るなんて、気を使うことばかりのはずなのに。


 それでも蓮見くんは、私が不安にならないように、ちゃんと断りを入れながら、いろんなことをしてくれました。

 だから私はその優しさに甘えて……帰ろうとする彼を引き止めてしまったりもして……。


 今思うと、申し訳ないことをしてしまいました。

 でも、それでホントに残ってくれるところは、やっぱりすごく優しいです。


 ……そんな人が、クラスで浮いているなんて。

 納得がいかない、というか、みんな見る目がないんじゃないかって思います。

 たしかに、社交的な人じゃないですけど……。


「……はぁ」


 実は私には、彼が浮いている原因に心当たりがありました。

 でも、それはやっぱり納得がいかない、もっといえば、かわいそうな理由で……。


 本当にそれが原因なのか、わかりませんが。

 いつか機会があれば、ちゃんと蓮見くん本人にも、聞いてみたいなって思います。


「……これにしましょう!」


 やっと夜ご飯が決まって、私はアプリから注文画面に進みました。


 今日は配達、どうなるでしょう。

 やっぱり、知らない人でしょうか。

 それとも、蓮見くんでしょうか。


 蓮見くん……だといいなぁ。


「……あっ」


 アプリの画面が変わって、注文状況が『配達中』になります。


 到着予定は15分後。

 配達する人の名前は……。


「……ふふっ」


 あ、そうだ。

 用意しておいたアレ、ちゃんと渡さないといけませんね。

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