ひめSIDE


『・・・うっ・・・』


目を開けると、激しい頭痛に襲われる。


何これ。体に力が入らない。


「おはよ、ひめ」


『ひゃあっ・・!!』


いきなり後ろから声が聞こえて素っ頓狂な声を上げる。


起き上ろうにも骨抜きのような状態で動けない。


「ははっ、相当疲労してるね」


声の主が泰牙だと気づいて心拍数が上がる。


『なんでここに・・・』


ここ私の部屋だよね。


「覚えてない?」


泰牙が私の頭を慈しむように撫でた。


そういえば・・・ご飯を食べてからどうしたんだっけ・・・。


「寝ちゃったんだよ。緊張して疲れたんだね」


そう言われて確かにと納得する。


『でも・・・なんか体に力が入らないんだよね・・・』


「それは好都合だ。それって何されても抵抗できないってことでしょ?」


私の上に跨る泰牙。


『ちょっ・・・』


嫌でもこの先を想像してしまい顔が熱を持つ。


「ひめは俺がちゃんと護るから」


すがるようにそう言って首元に顔をうずめてくる。


『泰牙・・・』


「黙って」


あんなに余裕そうだった泰牙が震えた声で言った。


心配になって泰牙の頭を撫でて安心させようとする。


少しして・・・


「ひめ、理事長が呼んでる。まだ寝てるのか?」


唯斗くんの声がドアの向こうから聞こえる。


『んー!』


返事をしようとしたら、泰牙の手が私の口を塞いだ。


「起きてるのか?」


喋れないし、泰牙の顔が近い・・・。


「あけるぞ」


どう見ても内鍵がかけられているドアを、平然と力ずくで開けて入ってくる唯斗くん。


「ちっ・・・」


「やはりか・・・」


壊れた鍵なんかよりこの険悪なムードをどうにかしないと・・・。


『唯斗くん・・・パパが呼んでるんですよね?』


唯斗くんは即座に泰牙を私から引き剥がし私を担ぎあげた。


「行くぞ」


『ちょっ・・・降ろしてください・・・!』


体に力が入らないから運んでもらえるのはありがたいけどこの体勢は・・・!


『ゆ、唯斗くん!!』


「なんだ」


低い声で返事をされる。


『い、いえ・・・』


怒ってるのかと思い、何も言えなくなる。


本当は優しいんじゃないかと期待していたが、そんなことないのかもしれない。


そのまま理事長室に連れて行かれ、ソファに降ろされる。


「ひめ、聞いたよ。倒れたそうだな」


いつもと雰囲気が少し違うパパに背筋が凍る。


『うん・・・』


戸惑いながらそう答えるとパパは私の頭に手を置いて


「気をつけるんだよ」


と言い放った。


暖かいパパの手に凍った背筋も空気も緩んでいく。


『うん・・・分かった』


なんだか拍子抜け・・・。


「護衛の三人はどうだ?」


『うん、いい人たちだと思うよ』


まさか上に乗られたなんて言える訳もなく。


心配そうに聞いてきたパパに笑顔を向ける。


「そうか。どうしようもなくなったらここに来るんだよ」


見透かしているのか、心配性なだけなのか、どちらともとれるような言葉を言い放たれる。


『うん』


話は終わったようで気づいたら体に力が入るようになっていた。


「失礼しました」


唯斗くんがドアを開けてくれる。


『またね』


パパに手を振って理事長室を出る。


唯斗くんの後を追って廊下を歩いていた。


校舎はシンとしていて今日が休みなことは聞かなくても分かる。


『唯斗くん、運んでくれてありがとうございました』


沈黙した空気に耐えられず話しかける。


「ひめ」


唯斗くんは立ちどまって私の名前を呼んだ。


『?』


こっちを向くわけでもなく


「俺もため口でいいし呼び捨てでいい」


そう言ってまた歩き出した。


『うん・・・分かった』


少し戸惑ったが、泰牙の呼び捨てに慣れたのであまり意識しないでもできると確信していた。


「それと・・・大丈夫か?」


相変わらずこっちを一切見ないで話を続けてる。


『うん、もう普通に歩けてるし大丈夫だよ』


心配してくれている所を見ると不器用なだけなのかと思えてくる。


「違う。泰牙だ」


私の返事はどうも的外れだったみたい。


『泰牙・・・?何もされてないよ』


そう言えば今朝押し倒されている現場を目撃されていた。


急に恥ずかしくなる。


唯斗は歩くスピードを緩めず


「昨日の夜、泰牙がお前の傍を離れなかったがまさか一緒に寝ていたとはな」


だんだんと声が低くなっていたのは気のせいだろうか。


唯斗を追いかけるように歩みを早くした瞬間


【お前か・・・アンジュ】


全身の血の気が引くような冷たい声が頭の中に響いた。


『はぁ・・・はぁ・・・誰っ・・・』


息が苦しくなる。


何今の・・・


どういう意味・・・?


「ひめ?」


唯斗が異変に気付き近寄ってくる。


「ひめ!!」


前方から泰牙が走ってくる。


「大丈夫だから、落ち着いて呼吸して?」


泰牙が背中をゆっくり擦ってくれた。


だんだんと息が整えられる。


「唯斗、楓も呼んであそこ行ってて」


泰牙が重苦しい顔でそう言うと、唯斗は無言で頷いて歩き出した。


『唯、斗・・・』


息苦しい中名前を呼ぶと、唯斗は足を止め私の方を向く。


『大丈夫だ、から・・・』


笑顔を作ってみたけど苦笑いになってしまった。


「あぁ」


それでも唯斗は笑い返してくれて、再度歩き出す。


「ひめ、目閉じて」


泰牙に言われるがままにゆっくり瞼を下ろす。


「ちょっと痛いかも」


頭に何かが触れる感触。


ピリッと痛みが走る。


驚いて目を開けようとしたけど、泰牙におさえられた。


「我慢して・・・」


泰牙の泣きそうな声が聞こえて大人しくする他ない。


「よし・・・これで大丈夫」


その声に目を開けると、汗ばんだ泰牙が心配をかけないように笑っていた。


見間違いかな・・・


泰牙の手、震えてたような・・・


気のせいだよね?


「戻ろうか、ひめ」


何事もなかったかのような顔をする泰牙。


聞かないでほしいということは言われなくてもみてとれる。


『うん・・・』


無理に聞いても困らせるだけだと思い、何も聞かないで部屋に戻った。


その後、泰牙がご飯を作ってくれた。


唯斗と楓は帰ってこない。


「ひめ、なにかあったら連絡してね」


泰牙もお出かけするらしい。


用心深い泰牙に苦笑いする。


『子供じゃないんだから』


「冷蔵庫の中の飲み物はちゃんと見てから飲むんだよ」


それでも心配している泰牙。


『うん、分かった』


安心させるように答えて泰牙を見送った。


それから部屋の片付けをして、シャワーを浴びた。


一人ということもあり、ソファでくつろいでいたらいつの間にか寝てしまった。


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