泰牙side

「くれぐれもひめには知られないでくれ」


理事長に念を押されたこと。


ひめは人間として・・・人間と生きてきた。


もしひめが自分が人間じゃないって知ったら、今までの人生を否定することになる。


「楓、頼むから余計な事は・・・」


「でも・・・ひめはいずれ気づくことでしょ?早いか遅いかだよ」


楓は悪気がない様子で、頭を抱えたくなった。


『あの・・・二人とも・・・』


「「ん?」」


ひめは・・・あの事実を受け入れられるのか・・・。


『今日はありがとう。もう帰ろう?』


いつの間にか夕方でみんな寮に戻る時間になっていた。


「そうだね。行こうか」


俺はひめの頭を撫でて・・・手を繋ぐ。


触れた手に暖かい何かが流れ込んできて、心地いい。


これがひめの特性。


治癒能力。


「ずるい!俺も!」


楓が後ろから追いかけてきて、反対側のひめの手を握った。


君は・・・最後のロギア種。


ロストビーストなんだ。


誰にも知られてはいけない。


無論、ひめにも。


『ねえ泰牙、今日の夕食は?』


「んー、ハンバーグにしようかな」


『本当!?私、ハンバーグ大好き!』


「お部屋片付けたら夕飯食べようね」


君はここで俺達に護られてればいい。


何も知らなくたって、君ならやっていける。


何が起こったって最後まで君を護るから。




寮に帰って夕食作りをしていた。


『ねーねー泰牙ー、これなあに?』


間延びした話し方に違和感を覚えていると、ひめがふらふらと歩み寄ってくる。


右手に持っている瓶に気づき取り上げる。


「あっ!それ俺の!」


楓が気づいて声を上げる。


「ひめ、とりあえず水飲んで」


ミネラルウォーターをコップに注ぎ、ひめの元へ持っていく。


『やあだあ。それ貸してぇ』


取り上げた瓶に手を伸ばしてくるひめ。


勢い余って抱きついてくる。


可愛い・・・じゃなくて。


「これ飲んで」


コップを持たせても拒否するだけ。


「分かった。じゃあ今日はもう寝よう?」


ひめを部屋へ連れて行こうとすると


「泰牙!それ獣化促進剤じゃ・・・」


唯斗の声とほぼ同時くらいに


―――バサッ―――


突風が吹いた。


ひめの身長すら軽く超える大きな翼が視界いっぱいに広がる。


白く綺麗な翼。


『っ・・・』


フラッとよろけたひめを抱きとめた。


獣化状態はこっちの世界じゃ酷く体力を消耗する。


「あれが、、ロギア種」


俺はひめを抱き上げてベッドに寝かせた。


全て忘れていてくれと思いながら。


「今の力・・・あいつが感じ取っていなきゃいいけど」


心配をよそにすやすやと眠るひめ。


ひめは最後のロギア種と呼ばれているけど


もう一人、獣界で大暴れして監獄に収容されている奴がいる。


ひめとは対極の位置に当たる悪魔の力を持って生まれたもの。


あいつからもひめを守らなければ・・・。


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