第Ⅰ章

何だろう・・・この目眩と頭痛は・・・。


『パパ・・・聞いてないよ?転校の話の時に言えたよね?』


問い詰められてるにも関わらず理事長ことパパはしれっとしていて、余計に怒りたくなる。


『もう!なんであの時教えてくれなかったの?』


「だって、あの時言ったら絶対転校してくれないと思って・・・。」


大の大人が、子供に向かって“だって”って・・・。


情けなさ過ぎて頭を抱えた。


「まあまあ・・・愛しの愛娘を男子校に野放しにはできないからちゃんと護衛をつけるよ」


護衛?


パパの言葉の後、理事長室のドアがノックされた。


「どうぞ」


パパの声でドアが開き、三人の男の人が入ってきた。


全員綺麗にタイプの違うイケメンだ。


一番最初に入ってきた人は・・・


黒髪が無造作にセットしてあって、だらだらに着崩した制服。その合間から見える鎖骨はエロさ全開。


次に入ってきた人は・・・


銀色の髪がワックスで所々遊ばせてあり、笑った時にできるえくぼとちらっと覗く八重歯が印象的。


そして最大の長所は・・・透き通るように綺麗な赤い瞳。


ビー玉みたいで、目が合うと逸らせなくなる。


最後に入ってきた人は・・・


茶髪で表情はムスッとしていて、制服はきっちりと全てのボタンが止まっている。


長身で足が長く、見上げないといけない。


ほんのり頬が赤いのは気のせいだろうか?


「彼らがお前の護衛をしてくれる」


『・・・・・・』


呆気に取られて返す言葉が出てこない。


イケメンなのは正直嬉しいけど、いきなり護衛と言われても信用できない。


「じゃ、後は君たちに任せたよ。聞きたいことは全て彼らに聞きなさい。いいね?」


パパは何故か逃げるように理事長室を出て行った。


いや・・・いいね?じゃないよ・・・。


いきなり4人にされるのはきつい・・・。


もう既に沈黙が続いている・・・。


すると・・・


「ねえ・・・」


一番最初に入ってきたえろさ全開の人が話しかけてきた。


『はい・・・』


人見知りと緊張で返事しかできない。


「名前はたしか・・・白崎氷萌(しらさき ひめ)だったよね?」


『そうです』


またしても単調な返し・・・。


「とりあえず部屋を案内しよっか?」


にっこりと人懐っこい笑顔を向けられて、自然と緊張が緩んだ。


『よ、よろしくお願いします。』


ぺこりと頭を下げる私。


「ふっ・・・何で敬語?みんな同い年だよ。俺は泰牙(たいが)」


「俺は楓(かえで)!ひめって小さくて可愛いね!」


泰牙くんを押しのけて飛びついて来たのは銀髪の可愛い男の子。


『!!??』


男性に耐性のない私はうろたえて声が出ない。


「楓、驚いているだろ。離れろ」


最後に入ってきた優等生が楓くんを引き剥がしてくれた。


「こいつらは放っておいていいから、行こう?」


泰牙くんが私の腕を引っ張っていく。


男の人の手って大きくて固い・・・。


「ちょっと泰牙!ずるいよ!ひめ!俺と繋ご?」


追いかけてきて私の返事も聞かずに手を握って来る楓くん。


初めてのことが多すぎる・・・!


緊張して絶対手汗すごい・・・。


「ひめはなんで転校させられたか知ってる?」


楓くんが首を傾けて聞いてきた。


可愛い・・・と一瞬見惚れて我に返る。


『パパが家に帰れなくなるから一人暮らしは早いって心配されて・・・』


ママは単身赴任でもうしばらく会っていない。


心配性なパパは寮制で自分が管理している学校に私を転校させる事に決めたらしい。


「へえ・・・まだ聞いてないんだ」


楓くんは意味深な事を言って私を見る。


その言葉の意味は分からなかったけど、いつの間にか部屋についていたらしく聞くタイミングを逃してしまった。


「ちょっと待っててね」


「絶対入ってきちゃだめだよ!!」


泰牙くんと楓くんが慌てた様子で中に入って行き、何故か無口の優等生くんと二人っきり。


空気が冷たく感じる・・・。


『あの・・・名前・・・』


耐えられなくなり小さな声で問いかける。


「唯斗(ゆいと)」


無愛想だけど答えてくれた。


会話が終わるのを恐れて質問を絞り出す。


『唯斗君は中に入らないんですか?』


同い年と分かってはいるものの敬語になってしまう。


「俺はあの二人とは違うから。部屋はちゃんと片付いてるし。それにお前一人置いていって何かあったらどうする?」


言い方はきついけど私のことを気遣ってくれていて本当は優しい人なのだと安堵する。


先ほどまで顔を見ることすら恐れていたが今は安心して目を向けられる。


見られていたのが嫌だったのかすぐに顔を背けてしまった。


『ありがとうございます・・・』


小さな声で呟くようなお礼になってしまったけどちゃんと届いたみたい。


体ごと向こうに向けてしまったから。


するとドアの奥からばたばたと音がして


「おまたせ!!どうぞ!」


泰牙くんがドアを開けてにっこり笑った。


「ひめの部屋はそこで荷物はもう届いてるよ」


茶色のドアを指してそう言う。


『片付けますね』


部屋に入ろうとすると


「敬語じゃなくていいよ。俺も手伝う」


私の頭をよしよしと撫でて私より先に部屋に入って行く。


『ありがとう・・・。』


初めてのことで気の訊いた言葉が出てこない。


馬鹿な私は素直に後を追いかけて部屋に入ってしまった。


カチャリ


この場に似つかない音がする。


「ひめは無防備だなー。言っとくけど、俺そんなに優しくないよ?」


『わっ・・・』


さっきより低い声が聞こえ後ろから抱き締められる。


『あ、あの・・・』


「本当に癒されるね・・・」


『え・・・?』


この状況に困惑していて泰牙くんの言葉を気に留めている余裕はなかった。


泰牙くんは私をギュッとして、頭を撫でてくる。


『放してください・・・』


腕を弱々しく掴んで言い放つ。


「呼び捨てがいいなあ。それと敬語もやめようか?」


耳元で離されて吐息がかかり、体温が上がる。


『泰牙・・・放して・・・』


とにかくこの状況から抜け出したくて言われた通りにした。


「よくできました」


そう言って私から離れた泰牙。


でもすぐに右手が私の頬に添えられて


「ご褒美あげる」


何この距離・・・。近い・・・。


固まって動けない私。とその時


「ふざけんなバーカ」


『え!?』


いきなり窓が開き、楓くんが入ってきた。


「ちっ・・・」


泰牙くんが小さく舌打ちをする。


「鍵かけるのは無しだよ―。てかひめも今の状況は逃げるべきだよ?」


楓くんはそう言いながら私の元へ近寄って来た。


『ごめんなさい。びっくりして・・・。ありがとう』


楓くんは童顔で身長も少ししか私と変わらずとてもフレンドリーで可愛いので自然と敬語が外れる。


『それより・・・大丈夫?』


確かここは3階で窓から入ってくるのはとても危険なはず。


「全然平気だよ。俺兎だから」


兎・・・?何の脈絡もない返答に困惑していると


「兎みたいに跳ねれるっていう比喩だよ」


と泰牙が説明してくれた。


『なるほど・・・』


それでも危ないのには変わりない。


「とりあえず出るよ。邪魔されちゃったし。ほら楓も」


楓くんはいやいや連れて行かれてしまった。


いろんなことが一度に起こってまだ分かってないことも多いけど、


とりあえずは悪い人ではないんだと分かった。


その後泰牙が昼食を作ってくれた。


男の人も料理するんだね・・・。


なんて感心。


「ひめ、おいしー?」


楓くんがオムレツを頬張りながら言ってくる。


『うん。すっごくおいしい』


笑顔で答えると、楓くんの頬がほんのり赤く染まる。


「おい」


唯斗くんから声をかけられ自然と背筋が伸びる。


『はい』


恐る恐る唯斗くんの方を見ると、


「お茶」


骨ばった細い指でお茶の入ったボトルを指していた。


『どうぞ・・・』


唯斗君くんのコップにお茶を注ぐ。


「ありがとう」


唯斗くんは小さな声でそう呟いた。


やっぱりまだ怖い・・・。


昼食を食べ終わると、みんなが学校案内をしてくれるという。


男子校の中に入るのも人生初めての経験で緊張するが、


男の子三人が私を囲うようにして歩いているのも余計に緊張を煽った。


生徒の人達も私を物珍しそうに見ていた。


『山奥だからなのか少ないんだね・・・』


学校を歩き回ってふと思ったことを言う。


「そう?ひめのまえの学校が多かったんだよ」


楓くんが私の隣に並んで可愛く笑う。


『そうなのかな?楓くんは何でこの学校を選んだの?』


山奥で男子校で寮制。理由が気になってもおかしくはない。


「俺たちはここしか居場所がないから」


『え?』


予想してなかった返答で戸惑う。


悲しいことを言っているはずなのに、楓くんはどこか嬉しそう。


「楓。余計な事言うな。ひめ、ここが教室ね」


泰牙が目の前の白いドアを開ける。


中に居た人たちの視線が一気に集まる。


そして一瞬の静まりのあとざわざわとざわつきだした。


「うるせ。ひめ、知らない人について行ったらダメだよ?」


楓くんが心配してそう言ってくる。


弟がいたらこんな感じなのかな。可愛い。


『うん』


ちゃんと返事をして教室に入った。


担任の先生はいないみたい。


「転校生。手出したら分かってるよね?」


泰牙が黒板の前に立って威圧的に言い放つ。


『白崎氷萌です。よろしくお願いします。』


ぺこりと頭を下げる。


男子校なので私の制服はない。


「ひめの席は俺の隣・・・」


「俺の隣でしょ!!」


「俺のだよ!!」


いきなり言い合い勃発。


どうしていいか分からず立ちすくんでいると・・・


『わっ』


腕を掴まれ引っ張られた。


そのまま空いている席に座らされる。


「ここでいい」


『は、はい』


腕を引っ張ったのは唯斗くんで、周りのオーラが怖い。


「ちょっと!!唯斗ずるいよ!!抜け駆けだー」


楓くんが唯斗くんに文句を言った。


動じない唯斗くんを尊敬してしまう。


「黙れ」


「やだやだやだやだ!ずるいもん!!」


唯斗くんの隣の席に腰掛け、ことが過ぎるのを待つ。


「ひめはそこでいいの?」


『へ?』


泰牙が前の席から振り向いて言う。


「その席が嫌なら嫌って言っていいんだよ?」


目が・・・嫌って言えよって言ってる・・・!


唯斗くんの方を見ると、ばっちり目が合って・・・


でも鋭い睨みとかじゃなく・・・寂しそうな目をしてる。


『ううん。ここで大丈夫』


泰牙は私の返事に少し戸惑っていたけど、仕方ないと言って諦めてくれた。


「ありがとう」


『うん』


唯斗くんって本当は怖くないんじゃないかな・・・。


無口なだけで・・・案外優しいんじゃないかって思ってしまう。


ここはかなりのエリート校らしい。


みんな天才型の頭脳を持っている。


言われたことを長い間覚えておける脳。


それは私もで・・・成績は常に上の上だった。


「ひめ・・・」


泰牙がそっと後ろを向いて私に話しかける。


『ん?』


首を傾げると、泰牙は私にお願いをした。


「今から寝るから、後でノート見せて?」


『うん、いいよ』


断る理由がないし、私だって眠たい時は萌花ちゃんに見せて貰ってたから了承する。


「ありがと」


にこっと柔らかい笑顔を向けられて一瞬引き込まれた。


危な・・・。


泰牙は護衛してくれるだから・・・そういうの意識しちゃダメだよね。


「せんせー、お腹痛いんだけど保健室行ってきていい?」


可愛い顔でおねだりする楓くん。


「ああ、行ってきなさい」


先生は気にも止めず目も向けないで返事をする。


「ん?ひめもお腹痛いの?じゃあ一緒に保健室行こっか」


手を握られ、強い力で引っ張られる。


状況が理解できず、されるがままに保健室へ連れてこられた。


『あ、あの・・・楓くん』


「何?」


ムスーッと拗ねた顔も可愛くて・・・


『お腹痛いの?』


母性本能を擽られた。


「嘘だよ。ひめと二人っきりになるための口実」


堂々とさぼり宣言をする楓くん。


「っていうかさぁ・・・楓くんって何?」


『え?』


質問の意図が分からない・・・。


なんて答えたらいいんだ。


「泰牙は泰牙なのに?なんで俺は呼び捨てじゃないの?」


うるうると綺麗な瞳で見つめられて逸らせなくなる。


「俺も呼び捨てがいい・・・」


縋るような目で見られて、顔が熱を持った。


『分かった』


とりあえずこの視線から逃れたくて、首を縦に振る私。


「ひめはさ・・・自分が何者か知ってる?」


また意図の分からない質問に困惑する。


思わず首を傾けた。


「知らないよね。でもさ、薄々感づいているんでしょ?」


楓は保健室のベッドに寝転がる。


「傷の治りが恐ろしいくらい早いとか」


一瞬ドキッとした。


何が何でも知られたくない事実を述べられたから。


確かに・・・私は傷の治りが早い。


幼少期の頃、よく転んでいたけど・・・数秒経つと治ってる。


「どんなに疲れてても回復しちゃうとか」


なんで・・・そんなに私のことを知ってるの?


そう聞きたいけど・・・もし聞いたら私の何かが変わってしまうんじゃないかと怖くて聞けない。


「人に触るとよく癒されるって言われるとか・・・」


小さい頃から・・・化け物って言われてきた。


気持ち悪いって・・・近寄るなって・・・。


パパに聞いても、DNAだからと言われ、理解できずに流していた。


本当の理由は他にあるかもしれない。


そう考えたこともあったのは確かだ。


「教えてあげようか?ひめが何なのか」


楓がそう言った瞬間、


ガラガラっと保健室のドアが開き、


「楓・・・余計な事言うなって言っただろ」


泰牙が入ってきて、楓に鋭い目を向ける。





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