第1章〜蜘蛛の糸、黒の血〜

第5話

 見渡す限りの木々草木。穏やかな風とむせかえるような緑の匂いに、平時であれば癒されたんでしょうけど……ギャップ激しすぎませんか?


 空気椅子状態じゃないだけましですけど、瞬き1回のうちに別の場所とかやめて欲しいです。脳が処理できずにぐるんぐるんしてる気がします。


 まあ、さっきの文章が本当なら、ちょっと混乱してる間くらいは安全なんでしょうけど。


 とりあえず状態の確認です。服は……制服じゃなくなってますね。現地の衣装でしょうか?ポンチョみたいなのを被って、簡素な布を腰と胸の辺りで革ベルトで固定したものに、厚手の布をもう1枚重ねた軽装です。動きやすいですが、下着の作りが甘いので落ち着かないです。


 靴下は足首までを布を巻いたもので、靴は皮の硬いブーツです。革紐ですねの当たりを何回も巻いて固定してます。


 足元には背負い袋と、杖みたいな木の棒と、よく漫画なんかで見かけるぐるぐる巻きの毛布に、サイドポーチみたいな小さな入れ物が転がってます。とりあえず腰のベルトに通しておきましょう。


 後、背負い袋の中には、着替えらしき布やベルト、携帯食料みたいな、ビーフジャーキーっぽいものと、固形物、皮の水筒が2つ。それと、長めのロープと、手のひらくらいのナイフが2本入ってます。護身用と言うより、草を切ったり、干し肉を削ったりするのに使いそうです。


 あ、ポーチの中には火打石でしょうか?鉄がはめ込まれた石と、白っぽい石が入ってます。後、背負い袋の中にあったのより厚みがあって、ちょっと長いナイフが入ってます。こっちが護身用でしょうか?


 持ち物は以上です。


 ……カードはいずこに?


 と、思ったら、銀の輪っかがキュピキュピ音を立て始めました。


 ーーヴォヴォン……ーー


「おぉー」


 左手の輪っかには、残りのデッキ枚数と、墓地、デッキリストが表示されたディスプレイみたいな画面が。


 右の輪っかには手札、保有魔力、私の状態、自分の使役してるモンスターなんかの情報が表示されます。


 なんかVRゲームみたいでかっこいいですね!


 っと、それはさておき……手札をチェックしましょう。


 ふむふむ


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[手札]7枚

《鎖糸のアラクネ》

《霧網のアラクニル》

《蠢く泥濘》

《生き餌の罠》

《活性化》

《隻眼の月光熊》

《樹木枯らし》

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 魔力1点の【召喚】があるのは大変ありがたいです。


 早速召喚してみましょう。


「えーっと……召喚!鎖糸のアラクネ!」


 召喚する時は声に出す必要があるんですね……ちょっと恥ずかしいですね……


 お?体から緑の光がふわふわ出てきました。


 その光がぐるぐる回って……魔法陣でしょうか?なにか模様ができて……うわぁ……


『……、…………ッ、ッゥゥァ……!』


 おあー、思ったよりでっかいですね……


 私より1メートルは背が高いです。これで攻守1……私もしかして攻守0なんじゃないでしょうか?


 アラクネさんは、蜘蛛の下半身に人の上半身という、ファンタジーでよく見かける構造の亜人さんなんですが……蜘蛛の下半身は造形がトゲトゲしくて、とっても凶悪な見た目。上半身は、腰の辺りから上の人型が乗っかっています。黒髪のなかなかな美人さんですが、ちょっと目つきが悪くて、大柄でちょっとおっかないです。


 イラストで見た印象の5倍厳ついです。でも、胸は大きめで、糸を編んだ布を雑に巻いてあります。しっかり文明的な面もあるみたいです。


 手ぶらですが、手首の下あたりから大きく裂け目がありますね。ここから糸が出るんでしょうか?


 とりあえずこれで最低限の自衛手段……と言うより護衛ですね。まあ安全地帯で安全度をあげただけですが、良しとしましょう。


「それではえー、アラクネさん?鎖糸さん?まあなんでもいいですね……えー、川とかそばにあった方がいいですよね?探せますか?」


『ゥゥ』


 言葉は通じるみたいですね。あ、足速いですね。おっきいからか、すぃーっとあっという間に見えなくなりました。


 ふむ、戻ってくるまでその辺の木の枝とか拾っておきましょうか。火打石っぽいのがありますし、夜は焚き火くらいあった方がいいでしょうから。


 ひろいひろい……ひろいひろい……


「うーん、持ちにくいです……トゲトゲでかたいですし……」


 10本くらいの枝を集めただけで持ちにくいわ臭いわなんかヌメってるわで最悪です。でも集めた方がいいと思うので頑張りましょう。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あっという間の3分間でした。アラクネさん、ありがとうございます」


『ゥ……ゥ……』


 あの後2分くらいで戻ってこられたアラクネさんが、悲しいくらい非力な私を見かねて、ごっそりと木の枝を集めてくれて、しかも持ちやすいように糸でまとめて軽々と抱えて持ってくれてます。なんなら私の荷物も持ってくれてます。


 おっきくて優しいとかなんていい人なんでしょう。


「じゃあ、案内お願いしますね」


『ゥゥ!』


 水場に向かいますよ。安全な水場だといいんですがね。


 あ、アラクネさんが私の歩きに合わせてくれますね。歩きやすいように大まかな落ち葉とか払ってくれてもいます。


 紳士的なアラクネさんですね。


 なんとなくですけど、これからの生活は何とかなりそうですね。





『『ギョアアアアアアアアァァァァッッッッ!!』』




「……前言撤回です。やばそうです」

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