1日目 午前③ 朝食

「フッフッフーン」


「ふっふっ…ふーん」


14番と15番が、鼻歌を歌いながら空いてる方の手を元気よく振り回す。

105番はその歌の名前も、歌詞も知らない。

あの二人の年齢を鑑みて、製造時にダウンロードされたのだろうなということだけは理解している。

そう、ダウンロードだ。


この都市の住人は生まれた後すぐに、強制的に成長させられ、その年齢に応じた知識がダウンロードされる。

その年齢らしい知識を。

幼児なら幼児らしい知識を、青年なら青年らしい知識を、老人なら老人らしい知識を。


しかし、肉体面においてはその限りではない。

ある程度、老人になるまでの間の年齢なら、誰でも十全に性行為ができるように作られているのだ。

14番も、15番も、73番も、105番も、なんなら赤子ですら都市外部の住人と性行為が可能なのだ。

その狂った情報を、ほとんどの住人は知らない。

都市外部の奴らも自分たち住人と同じだと思っている。

真実を知っているのは、105番と、あと数人の…


「着いた!」


15番の弾けるような声が響いた。

そこで105番は顔を上げた。


『順番に並んでください。二列に並んでください。横入りはいけません』


『食べ終わった食器はこちらに戻してください』


住人たちの食堂、ガッコウとやらを模した建物だ。

住人たちは入口に並び、入り口の横にいるロボット(105番がよく見かける奴より大型で、地面の下の穴から出ている何かが繋がっている)が出す朝食の乗ったプレートを受け取りいそいそとガッコウの中に入ってゆく。


「私たち…も…並ぼ?」


「そうだね。トーゴ、一緒に並ぼっか」


「………」


105番は無言のまま、73番の右隣に並んだ。


105番は、己がトーゴの名で呼ばれるのが、大嫌いだった。

105番は知っている。

己に名前など存在しないことを。

どこぞの犯罪者のクローンの何百体目か何千体目か何万体目のクローン、それが己の正体だからだ。

105番は覚えている。

そうだ、塔悟は…


「おい小僧!早く前に進めよ!」


ドンッ!と105番の背中を誰かが叩いた。


「すまない」


105番は振り返り、己の背中を叩いた男の姿を見た。

デカい、2mを越えた大男だった。

その性格を表すかのように、ドレッドヘアの茶髪に、筋骨隆々、浅黒く健康的に焼けた肌をした男が、イラつきながらこちらを睨みつけていた。


「ごめんなさい!トーゴが迷惑をかけて」


73番が振り返ると間髪入れずに目の前の男に頭を下げた。

その様子を、14番と15番が不安そうに見つめている。


「トーゴォ?なんだそら。お前、番号は?」


「105番、こいつは73番。人の番号をもじって名前にする奇行をする女だ。気を付けろ、変に番号を教えたらお前も名付けられるぞ」


「くっだらねぇ。おら、次お前らの番だぞ。こっちは朝から牛の出産があって早起きしてるんだよ」


どうやら目の前の男は、畜産関係の役割を与えられていたようだ。

随分見た目と会わない役割を与えられたものだと105番は内心可笑しかった。

目の前の男が都市外部に居たら、世にいう不良やヤンキーという存在なのだろうなという至極どうでもいいことを考えながら、105番はプレートを受け取った。


「………なんじゃこりゃ」


今日の朝食は、朝からステーキだった。

あの二人組に焼かれていた少年たちのことを思い出し、ひどく食欲が失せてしまった。




ガッコウには種類があるというのを105番は聞いたことがあった。

小ガッコウ、中ガッコウ、高コウ、大ガク。

小中大とサイズで続けていたのに、なぜ一つだけ上下を入れてしまったのか。

そんなことを考えては105番はどこかおかしく思ってしまう。


105番がいる学校のタイプは恐らく高コウ、そこの4階の教室が今日の朝食を取る場所だった。

教室内には、105番達四人以外には誰もいない。

わざわざここにきて食べるよりは、下の階で食べてさっさと隠れる場所に行くのが賢い選択だからだ。

それでも、ここにきて105番が来るのは、14番と15番がここに来たがるからだった。


「うわー!やっぱりキレー!」


「うん………!」


二人は朝食を食べ終わった後すぐに、教室の窓ガラスに張り付き、外を見ていた。

高コウの横、この教室から、花畑が見渡せるのだ。

色とりどりの花が咲き乱れ、それを見たくて二人はここの教室に来たいと105番と73番を連れてくるのだ。


少女たちが保護者替わりの少女とやいのやいの騒いでるのを見ながら、105番は椅子の背もたれにもたれかかった。

腕時計を見る。

時刻は八時半を少し過ぎたあたり。



狩りの開始まであと、一時間と少しだ。

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