俺に猛アタックをしてくるあの子の狙いが俺の身体だった件について

一色姫凛

第1話

冴えない男子高校生その一。



見た目は中の中。いや、中の下ってとこか。身長は低くないが、それほど高いわけでもなく、一応バスケ部に所属しているものの、その実力も並々。勉強も底辺に近付く境界線をうろつくレベルを常にキープ。



何もかもが中途半端なスペックの俺は、役どころで言えばそんなところだろう。



当然彼女なんていないし、告白すらされたことはない。どこにでもいる普通の男子高校生だ。



そんな俺は、元々コミュ障とまではいかないが、人見知りが激しく、周りの連中と打ち解けるのに時間がかかる。




高校入学から数ヶ月というこの短い期間に、どこのクラスの誰がカッコイイとか、どこの誰が可愛いとか日々楽しそうな声をあげて一早く相手の連絡先をゲットしようと盛り上がる周囲の連中の熱気に、俺は完全に取り残されていた。



「ねえ、連絡先教えてくれない?」



休み時間。


八月の青空の色は深く、真っ白な入道雲がいくつも空に浮かび上がる。



だるそうに頬杖をついて、窓から見える夏の景色をボーッと眺めていた俺の耳に、歌うように軽やかな、そんな女子の声が聞こえた。



女子の方から連絡先を聞いてくるなんて、ずいぶんと積極的なんだな……なんて、どこか遠い世界のやり取りを聞いてる気分で、俺は変わらずに空を見つめる。



声だけを聞いても可愛いのは目に見えるようだ。そんな女の子から連絡先を聞かれた男はきっと、あと数日は浮かれ気分で薔薇色の日々を送るに違いない。




「ねえ、聞いてる?」



「え?」



突然、空と俺の間に色白の手が割り込んできて上下に動き、俺の意識を奪い取った。



驚いて振り返ると、目と鼻の距離にぱっちり二重まぶたの長いまつげと透き通った大きな瞳があって、じっと俺を見つめていた。



「君、高宮蓮たかみやれん君よね。わたし、水無瀬柚月みなせゆずき。まだ話したことなかったけど、よろしくね。わたし達、同じクラスだよ……って、そんなこと知ってるわよね」



俺の隣に立ち、顔を覗き込んでクスクス笑いながらそう言った彼女、水無月柚月は、入学式当日から多くの男子生徒の視線を釘付けにし、一早く人気ナンバーワンの座を獲得したアイドル的存在だ。




彼女を知らない同級生なんかいるはずがない。



ツヤサラの栗色ストレートヘアに大きなパッチリ二重。


透き通るように色白な肌はマシュマロみたいに柔らかそうで、思わず触りたくなってしまう。形の良い可愛らしい鼻の下には、濡れた果実のように艶やかな桜桃色さくらんぼいろの唇。



全体的に細く、華奢なイメージだけど、第二ボタンまで外された胸元からは豊満な胸がチラリと谷間をのぞかせる、ナイスバディの持ち主。



そんな破壊的な可愛らしさを持つ彼女が俺を覗き見るその真後ろでは、男子がスカートの中から女神のパンティを拝もうと、落ちてもいない何かを拾う素振りをして、何気なく屈む様子が見えた。



だけど、やめろと言える度胸も気概もない俺は、目の前にある濡れたような唇を思わず塞ぎ込んでしまいたくなる衝動と必死に戦いながら、彼女からほのかに香る甘い香りに軽く眩暈を覚えるという、女子耐性ゼロの実力を遺憾無く発揮するのが精一杯だった。




「あ、ああ。こちらこそ、よろしく。もちろん知ってるよ。水無瀬柚月さんでしょ。それで、えっと……なんだっけ?」



その誘惑から必死に目を背け、慌ててそう返すと、彼女は花が綻んだように笑った。



「嬉しい! わたしのこと知っててくれたのね。今日一日中ニヤニヤしちゃうかも〜。連絡先! 教えてくれない?」



学年一の人気者がそう言って照れたように頬を染め、俺の机にへばりつく様子に、周囲のクラスメイトは雑談することも忘れて言葉を失い、聞き耳を立てる。



みんなが彼女の一挙一動に注視し、教室が静まり返っていることに気付きもせずに、ただ楽しそうに笑う、鈴の音のような彼女の声だけが響き渡った。



彼女は空いていた前の席に腰かけて後ろを振り向き、俺の机に両手で頬杖をつくと上目遣いで俺を見つめた。



そんなクリクリの目で上目遣いとか反則だろう。



焦った俺はすぐに彼女から視線をそらす。そらした視線の先には、こんもりと盛り上がった白いふくらみを包む水色のブラジャーが、シャツの隙間からチラリと顔を出していた。



どこを見ても逃げ場がない。俺は一体どこを見て話せばいいんだ!



目を泳がせながら慌てて視線を外した俺を、不思議そうに少しだけ首をかしげて見つめ、柚月さんは甘く潤んだ視線を俺に向けてこう言った。



「わたしね、ずっと蓮君のこと見ていたの。本当に……凄く素敵だなって」



ガタンッ


誰かが椅子から転げ落ちた音がした。


きっと誰しもがそいつに共感したに違いない。なんたって俺も同じ気持ちなんだから。



「は?」


「ずっと仲良くなりたくて蓮君のこと見てたんだけど、全然気付いてくれないし、だから自分から来ちゃった」



サラサラの栗色の髪の毛を耳にかけながら、恥ずかしそうにそう言って小さく笑う彼女の姿に、夢でも見ている気分になった俺は、そんな彼女を瞬きを繰り返しながら見つめつつ、おもむろに筆入れへと手を伸ばしてシャープペンをつかみ取った。



「いや……あの……」



連絡先を教えようっていうんじゃない。



ペンシルの芯は出さずに、先端にある金具の部分をグイグイと手のひらに押し付けただけだ。



夢ならば覚めろ。いや、覚めるな。違う、俺は一体何がしたいんだ!



これは夢か幻か、何かの罠か陰謀か?



食らいついた途端に笑われてバカにされ、後ろ指をさされる、俺の高校三年間という青春時代を暗黒に染めようとする何者かの企みなのか?



そんなことを考えるヘタレな俺は、嬉しさよりも恐怖が勝った。だから、気持ちとは裏腹に思ってもいない言葉が口をつく。



「も、もっと仲良くなってからにしよう……」



はあーーーーーッ!?



そう叫んだのは彼女ではなく、聞き耳を立てていたクラスメイトだ。



「あ……そ、そうだよね! ごめんね、突然過ぎたよね。えーと、じゃあどうしようかな……」



俺の言葉に、柚月さんは頭に手をあてて、少し傷付いたような、困ったような、そんな顔をして言葉を詰まらせた。



キンコーン



そんな彼女に気の利いた言葉もかけられずに黙りこくった俺に、新たに彼女が何かを言おうと口を開きかけたその時、無情にも授業開始の呼鈴が鳴って、向かいの席の奴がそろそろと近寄り、言いにくそうに彼女の横に立った。



「柚月さん。話してるとこ悪いんだけど、そこ俺の席だから……」


「あっ、ごめんね! 蓮君、また後で話そうね!」



そう言って彼女は慌てて席を立つと自分の席へ走って戻って行った。



彼女の席は窓際前列の俺とは逆サイドの廊下側後方にあり、同じクラスとはいえ、俺たちの距離はわりとある。




——ずっと蓮君のこと見ていたの。



それって本当なのか? 距離があるし、視線なんか気付くわけがない。そもそも、柚月さんが俺を見ているかもなんて、思ったりしないだろ?



授業中、先生の声はまったく耳に入らなかった。



手のひらには押し当てたシャープペンの跡が小さく窪みを作って残っている。その窪みにそっと触れて、マジかよ、これって現実か? なんて、そんなことを何度も考えるのだった。



それからというもの、俺は彼女の事が気になって、何気ないフリをして廊下側後方にいる彼女を見る事が多くなった。



あまりじっと見ないように、さりげなく視線を向けているのに、必ずと言っていいほど彼女と視線が合う。



目が合うと、彼女は花のような笑顔を俺に向けた。時には、ひらひらと手を振ってくることもある。



俺は気恥ずかしくて、慌てて視線をそらすというヘタレっぷりを何度も遺憾なく発揮した。



自意識過剰かもしれないが、これだけ視線が合うってことは、もしかしたら俺を見ているっていうのは本当なのかもしれない。



ドキドキする心臓でそんなことを考えながら。



夏休み明けの八月は真夏日を更新し続け、暑さの落ち着くところを知らない。



女子はスカートをギリギリの丈まで上げて胸元のボタンを外し、時にはスカートの中にあおいだ風を送っている女子もいる。



男子も負けじ劣らずに胸元を開いてひっきりなしに教科書やらノートやらを自分に向けてあおぐ。



エアコンが壊れて修理待ちのうちのクラスは、窓を全開に開け放っても、まったく風の入らない、そんな煮え地獄を味わっている状態が続いていた。



だけど、先生方はそんな学生の苦労など知ったことではない。風紀だなんだと、胸のボタンをしめろと口煩くチェックする。



かくいう俺もまた、休憩時間に通りすがりの先生にポンッと肩を叩いて呼び止められ、ボタンをしっかりしめるように指導され、大きなため息をつきながらボタンを一番上までしめたのだった。



満足そうに先生がうなずき、エアコンが直るまでの辛抱だからねと、気休めにもならない言葉を置いて去っていく背中を見送る俺に、パタパタと駆け寄る足音が聞こえた。



「蓮君!」


「柚月さん」


「先生酷いよね! ボタンしめろなんて。暑いでしょう? いいから、外しちゃいなよ」


「いや、別にいーよ。どうせまた言われるんだし」


「ダメよ! 絶対にダメ!」



少し怒ったようにそう言って、柚月さんは俺の首元に色白の手を伸ばすと、有無を言わせずにひとつひとつボタンを外し始めた。  



暑さのせいか、柚月さんはいつも下ろしている髪を高い位置でポニーテールにしていた。ほっそりとしたうなじには薄らと汗が浮き上がっている。



そんな柚月さんは、真剣な目で俺のボタンを外していく。そっと彼女の顔を覗き見れば、長いまつげの下には濡れたような桜桃さくらんぼ色の唇があった。



ボタンを外される度に、時折彼女の細い指先が俺の肌をかすめる。



血が逆上して顔が熱くなる。心臓はバクバクとうるさくて、いてもたってもいられない状況だが、どこに身を置けばいいのか分からない俺は、ただ黙ってなされるがままだ。



不意に、柚月さんの大きな瞳が俺を見上げた。自分でも顔が真っ赤になっていることを自覚していた俺は、慌てて顔を背ける。



「ほら……これでよし。ね、涼しいでしょ?」


「あ、ああ。ありがと……」



涼しくなるどころか、顔は夏の熱気にあてられるよりも熱い。だけど、無理やり返事を返した俺の言葉は途中で途切れた。



二つほどボタンが開かれた俺の首筋に、そっと彼女の指先が触れたから。


熱くなった俺の身体は彼女の指先の体温を敏感に感じ取る。



ひやりとして少し冷たい彼女の指先。



俺の首筋に触れて、ゆっくりと筋にそってなぞる。次第にそれは下へと移動して、鎖骨へとたどり着いた。



「ゆ、柚月さん?」



潤んだ彼女の瞳が俺の首筋に熱い視線を注いでいる。


俺の言葉など耳に入らない様子で、彼女は鎖骨に優しく這わせた指先をゆっくりと横へ向かって動かした。



彼女のひやりとした指先の感覚に、俺の身体はこれ以上ないほど敏感に反応してしまい、思わず悲鳴のような声が喉をついて出た。



「ま、待って! ストップ!」



ドクドクと脈打つ心臓に混乱しながら、俺は荒々しく彼女の手をつかみ取る。



「あ……あのね。わたし、バスケ部のマネージャーになることにしたの。そうしたらもっと近くであなたのこと見ていられるし。それにもっとわたし達仲良くなれるわよね?」



手首を俺につかまれても嫌がる様子ひとつ見せずに、彼女は俺を見上げて笑顔でそう言った。



「マネージャーとしても、今日からよろしくね」





一体、俺と彼女の間に何が起きているんだろう。


熱くなってしまった顔と、むくりと起き上がった息子をなだめるべく、俺は返事もそぞろに逃げるようにその場を後にしたのだった。



アレはわざとやっているのか?


俺をからかってる?


なぜ彼女は俺にあんなことをするんだ?



いくら考えても混乱するばかりで、答えは出ない。



学年一の人気者、水無瀬柚月がバスケ部のマネージャーになったという噂は瞬く間に広がり、バスケ部の入部に押し寄せる男子生徒が急増してキャプテンは大喜びだったが、あまりの人数の多さに顧問の先生が入部制限をかけてしまい、涙を流す男子生徒まで見受けられた。



バスケの練習の最中も、柚月さんは先輩に水分を手渡したり、タオルを渡したり、データをまとめたり洗濯をしたりと忙しそうに動き回っていたけど、ふと気付けばいつも俺を見つめていて、目が合うとファイト! と可愛らしい声で応援を送ってくれた。



「柚月ちゃんがおまえに惚れてるって噂、アレマジかよ」



「なんですか、その噂。俺、知りませんよ」



今もコートを挟んだ向かい側で俺に向かって手を振る柚月さんを見ながら、隣に立つ先輩が信じられねえとボヤいた。



「見りゃ分かんだろ。いっつもおまえのことばっかり見てるし、ファイトの数もダントツでおまえが一番多く貰ってる」



「そんなことないですよ」



「いやある。それだけじゃねーぞ。俺はずっと柚月ちゃん見てるから分かる。彼女、おまえにやたらとボディタッチしてないか?」



そう言った先輩の言葉に俺は沈黙を返した。



「休憩ーっ!」



キャプテンの掛け声でみんながコートから戻って来る中、柚月さんがポニーテールを揺らしながらタオルやペットボトルを持って駆け寄って来る。



お疲れ様ですと一人ずつに丁寧に労いの言葉をかけながらタオルを手渡して回り、最後に笑顔で俺の所にやって来た。



「蓮君、お疲れ様!」


「ありがとう」



柚月さんから持っているタオルを受け取ろうと手を伸ばすと、柚月さんは悪戯っぽい笑みを浮かべて、ひょいっとタオルを上にあげてその手をかわした。



「だーめ! 蓮君の汗はわたしが拭いてあげる」


「えっ、いーよ。そんなこと……」


「お願い。わたしにさせて。ね?」



タオルを後ろに隠して一歩俺に近付き、その大きな瞳を上目遣いで俺に向けて、甘くねだるようにそう言った柚月さんに、俺の心はいとも簡単にポキリと折れた。



「じゃあ……お願いするよ」


「やった! 嬉しい」



魂が抜けたような声でそう言った俺に、柚月さんは弾けるような笑顔を作った。



男としてはそれほど身長が高い方ではない俺でも、柚月さんから見れば少し高いらしい。



満面の笑みで柚月さんは、俺の額に向けて爪先立ちをしながら腕を伸ばした。



背伸びをした柚月さんの顔が俺の顔と同じくらいの高さになって、俺の口元に彼女のふっくらとした唇が近付く。



事故でした! といってキスしてもバレないかもしれない、そんな距離だ。



ふらふらとぐらつく柚月さんの身体が前のめりになり、俺の身体と密着するように触れて、柔らかなふたつのふくらみが何度も俺の身体に押し付けられた。



その天にも昇る感触に、俺の頭はあちこちで大爆発を起こしながら悶絶を繰り返す。



抱きしめたくなる細い腰が俺の身体とくっついてる!


キスできる距離に唇が!


胸が! 当たってる! 胸が! 胸が!



発狂したくなるのを仏のような顔で抑えつける俺を恨めしそうに見る、チームメイトの刺さるような視線が痛い。



柚月さんは額や首筋、鎖骨や腕に至るまで、優しく丁寧に汗を拭き取ってくれた。



至近距離の柚月さんからは、いつか嗅いだのと同じ甘い香りがする。



柚月さんは一通り汗を拭き取ると、背伸びをやめてタオルを俺を首にかけて、下ろした指先をすっと俺の首筋に当てた。



「もう大丈夫かな」



確かめるようにそう言った柚月さんの指が首筋をなぞり、そしてその指はさらに下へとゆっくり移動する。



そしてたどり着いたのは、またもや俺の鎖骨。ドキンッと打ち鳴らす俺の心臓。




だ、ダメだ……


俺、もうだいぶ前に限界なんですけど……!



どことなく嫌な予感を覚えつつも、俺の身体は正直でその行動を咎めたりはしない。



長い睫毛の下で、うっとりと潤んだ大きな瞳がじっと俺の鎖骨を見つめ、反対の手は俺の腕に優しく触れた。



細い指先がゆっくりと味わうように鎖骨を横になぞると、ぞくりとしたものが身体を駆け抜けぬける。




——ああ、もう俺ダメかもしれない。




先輩が言った通り、自意識過剰の勘違い野郎だと思われるのが悲しくて意識しないようにしていたけど、柚月さんはあの鎖骨事件からやたらとボディタッチをすることが増えた。



彼女は俺の姿を見つけると、必ず走り寄ってきて腕を絡めて歩くようになった。



まるでカップルみたいだけど、柚月さんから告白なんかされてないし、当然俺もしていない。というか、そんな勇気はない。



事あるごとに腕を組まれて、薄いシャツ越しに感じる柔らかで豊満な胸を腕に押し付けられ、短いスカートは歩くたびに揺れて、決して細すぎない肉付きの良い太腿が何度も何度も俺の視線を釘付けにした。



そんな俺は、日々己と戦いながら、息子を抑えつけるためにも、白目を剥いて無我の境地へと旅立ったのである。



柚月さんのおっぱい攻撃を悟りの境地を開いてギリギリ耐えれば、今度は絡ませた手で俺の腕を優しくさすって『筋肉質で触り心地がいいわよね、蓮君の腕』なんて言ってくる。



もう俺の心も身体も色んな意味で限界が近い。いや、既に限界は通り越してる。



ここまでされて勘違いするなという方が無理があるだろう!



そんな折、帰りの教室掃除の時に、ゴミ捨て係になった俺と肩を並べて柚月さんが焼却炉まで付いて来た。



いつもなら迷わず腕を絡めて胸を押しつけてくるところだけど、両手にゴミ箱を抱えてるからか、腕を絡ませることなく隣を歩いている。



「戻らなくていいの?」



「大丈夫よ。みんないるんだし。わたしは蓮君と一緒にいたいんだもの」



茶目っ気たっぷりにウィンクして、柚月さんは明るい声でそう言った。



これだ。恥ずかしげもなく、柚月さんは何度も罠の匂いを醸し出すその言葉を俺に差し向ける。



俺はゴミ箱の中身を焼却炉にぶち込むと、心を決めて柚月さんと向き合った。



「君に聞きたいことがあるんだ」



このままいったら俺は完全に勘違いの大馬鹿やろうになってしまうし、精神的にも身体的にも良くない。



いっそのことハッキリとフラれてしまった方が、このモヤモヤとおさらばも出来てスッキリする。



再三のボディタッチに心を見事に揺さぶられた勘違い野郎の俺は、とっくの前に柚月さんに恋をしてしまった。



告白する勇気はないのに、フラれる覚悟だけはあるなんて、我ながらヘタレで情けないと思う。



「なあに?」



「あのさ。勘違いだったら悪いんだけど、柚月さんてやたらと俺の身体に触るだろ? その……なんでそんなことするのかなって思ってさ」



はあ? そんなことしてないし! そんな風に思ってたの? キモイ!



そんなセリフを待ち構える俺に、柚月さんは驚いたように目を丸くすると、途端に真っ赤にした顔を手で覆い隠した。



「ごめん! やっぱりバレてたよね?」


「へ? あ、ああ」


「わたしね、わたしは……!」



意を決したように顔から手を取り払い、柚月さんは俺に駆け寄りると、背中に腕を回してギュッと抱きついた。



な、なんだ!? この展開は!!



まさか、来るのか。あり得ないと思っていた薔薇色の青春が俺の手に!?


学年一のアイドルと!?


お母さん、俺を産んでくれてありがとう!



「柚月さん……」


「好きなの!」



うおーーーっ!! キターーーッ!!



俺は心の底から母さんに感謝しながら、彼女の背中を抱き締め、天に向かって涙した。



「好きなの! あなたの鎖骨が!!」


「へ!?」


「堪らなく好きなの! ずっと見ていたし触れていたいの! あなたの腕も大好きなの! その筋の張った筋肉! 無駄毛のないツルツルしたお肌! 完璧なのよ!」



俺の背中に回した彼女の腕に力が入る。



「誰にも触らせたくないの!!」



嬉し涙が悲しみの涙に変わったのは、言うまでもない。





——あとがき——



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蓮くん、ドンマイなのだよ!笑



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